エピソード7 喧嘩
Episode7
登場人物
加地 伊織:主人公
三船三十郎:武術の先生。
イアン シェパード:一応登場しています。
館野 涼子:慰め役
三船と武術の練習
三船:「今日は、この間の続きで発勁の際の腕の使い方を練習しよう。」
三船:「前にも言った様に、絶対に関節を固めては駄目だ。 力いっぱいという感覚は捨てる事。 あくまでも腕や肩には余裕を持たせつつ、身体の移動を相手にぶつける。」
三船:「言ってみれば、…掌を使った体当たりだ。」
三船:「勿論腕は伸ばして使うんだが、この時に重要なのは、脇腹の筋肉と、背中の筋肉、これを使って、肩甲骨ごと撃ち出す。」
三船:「足を使ってその場でぴょんぴょん飛び跳ねてみろ、いや…ジャンプはしなくて良い、足の裏は地面に付けたままで構わない。」
三船:「良いか、下手に空中に浮かんだりすると、力の出所を失うからな。 つまり、地面を使えなくなってしまうって事だ。」
三船:「このときも足は固めない様に、関節は柔らかく。 特に足首。 足を伸ばす力で立つ、跳ねる。 そうして、肩甲骨ごと、肩を浮かせる。」
三船:「後ろから、前へ、グルグル肩をまわす感じで、足の跳ねるのに合わせて、ゆっくりで良い。足首、膝、股関節、背骨の一つ一つの関節を鞭の様につかうイメージで、その浮き上がりに乗せて、肩甲骨を動かす。」
三船:「そしたら、今度はバスケットボールの要領だ、」
三船:「ボールをパスする様な感じで、肩甲骨の浮き上がりに合わせて腕を前に放る。 この時も、固めない。 前にやった様に、力を抜いて。 腕を放り投げる感じで、本当に腕の力は感じない。ただ単に、足の裏からの伸び上がりを、肩甲骨に伝えて、それで腕を前に放る。」
三船:「その要領だ。」
三船:「その感覚を覚えたら、虚歩で立って、同じ様に後ろ足の伸び上がりに合わせて右の肩甲骨ごと肩を後ろから、前にまわす。」
三船:「腕は力を入れないで、肩の動きに合わせて、後ろから上、前、そして自然に堕ちて、又後ろから、グルグルまわす。」
三船:「左手は、心臓のあたりに控える、それで腕を回しながら…腰をひねる。 腰のひねりで、肩の回転可動範囲を広げて行く。」
三船:「大体の要領は覚えたかな。 …じゃあ、とりあえず200回。 回してみようか。 終わったら左手200回。」
三船:「あ、慣れてないと、次の日結構筋肉痛になるけど、大丈夫だから。
慣れて来ると、むしろ肩回しした方が肩残りがとれて気持ちいいと思える様になる。」
と言うよりも、足が辛い…。
練習終わった直後に、突然詩織?から電話がかかって来る。
ところが出てみると、別人だった。
女:「あの、加地さんですよね。 …私東雲さんの友達で、」
伊織:「ああ、冴子さん…だっけ。 はじめまして。」
女:「そうそう、冴子です。」
伊織:「今、イアン此処に居るけど、変わろうか?」
女:「いえ、良いです。 今から…ちょっと会えないですか。」
伊織:「俺に? どうして?」
女:「ちょっと、東雲さんの事で相談したい事が有って、今から言う場所に来れないですか?」
どうせ今日もまた涼子が来るだろう。 ややこしい?相談は 涼子が来る前の方が良いかもしれない。 涼子なら母さんとも顔なじみになったし、一人で待たせておいても…多分平気だろう。
伊織:「分かりました。 …イアンも連れて行きましょうか?」
女:「いえ、加地さん一人で、来て下さい。」
何か、雰囲気がおかしい。
伊織:「もしかして、東雲さんに何か有ったんですか?」
女:「会ってから、話します。 できるだけ、早く来てもらえないですか。」
伊織:「分かりました。 これからすぐ…」
何だか良く分からないが、イアンと別れて自転車を走らせる。
指定された場所は、あまり普通の高校生は行かない様な路地裏の酒場だった。
辺りには早朝の為か、人が殆ど居ない。 回収をまつゴミ袋がキツい匂いを放っている。
伊織:「今日わ、おはようございます。」
伊織:「冴子さん、いますか?」
直ぐに化粧のキツい女性が現れた。 何だか顔がこけて、目の回りにクマができている。
女:「こっちです。」
案内されて暗い店内を進む。 朝方迄商売をしていたのだろうか、食べ物の匂いが残っている。 …後、化粧の匂い。
女は一番奥のスタッフルームに入って行く 。
なんか、やっぱりおかしい…?
其処には、床に寝転がる女の子。 顔には殴られた痣ができている。
伊織:「東雲さん? 一体、」
詩織は伊織に気付き。 顔を見るなり急に泣き出した。
詩織:「ごめんなさい。」
口のはたが切れて、血がにじんでいる。
伊織の後ろで、ドアの鍵がしまる音がした。
振り向くと、厳つそうな男
男:「よう、加地伊織クン…久しぶりだな。」
伊織:誰?
男:「やだな、忘れたのか? 俺は覚えてるぜ、よーくな。」
男:「ほら、…指、折ってやったろ!」
男は、ニヤニヤ笑いながら伊織を睨みつけて来た。
伊織:こいつは、
最初に碧が教われた時に、学習塾跡にいた…不良。
男:「詩織の携帯のアドレスに、お前の名前見つけたときは、流石に笑ったぜ。 ほんと腐れ縁だよな。」
男:「お前には色々恨みがあるからな、たっぷり礼はさせてもらうから。」
他にも、2名、男登場。
男:「馬鹿だね、女に呼び出されたらひょいひょい付いてくるのな。」
男は、金属バットを取り出した。 床に引き摺ってからから鳴らす。
男:「そういや見てたぜ、工場のタイマン! いや笑えたね、本と、マジ笑えた。 お前、 賃保 丸出しにされてよ、火付けられてやんの。 火傷で皮くっ付いちまったんじゃねえの?」
男:「あん時はおかしかったよな。 俺は小林と一緒に二階から見てたんだよ。」
男:「小林の野郎しくじりやがってよ、おかげでコロウは全滅しちまったけどよ、かえって良かったかもな。 今じゃ俺だっていっぱしの幹部だからな。」
男:「そうそう、お前に負けた奴居たよな、…そう、羽田、」
男:「あいつ空手やってっからって粋がりやがってよ、周りには「さん」付けで呼ばせてたんだぜ。」
男:「それが…お前なんかに負けちまうんだから、結局滅茶苦茶弱いってばれて、アレ以来あいつ「失神クン」と呼ばれてんだぜ。 たまに「失禁クン」とかわざと間違えたりするけどよ。」
男:「…と言う訳で、お前、今日殺す。 死んどけ、お前死んどけ。」
伊織:よく喋るな。 こいつ。
伊織:「そうか…、こいつ怖いんだ。」
伊織は、何故だか…怖くなかった。 不思議と心に余裕ができている。 相手は自分よりも背が高い、しかも金属バットを持っている。 それでも、何故だろうか恐怖を感じない。
伊織は、無造作に男に近づいて行った。
男:「うぁおあああ!」
悲鳴? と共に男が金属バットを振り回す。
…したたか尻を叩かれる。
伊織:「痛って、」
でも怖くない。 頭の中で三船の言葉を反芻する。
伊織:力を抜く、関節を緩める。 きっちり重心を乗せる足を決める。 撃とうとしない。 歩いて行って身体の移動力を相手に伝える。 身体を伸ばしきらない…、 やる事いっぱいだ。
男は、金属バットを小刻みに振ってくる。 伊織が怖がらない物だから、どんどん焦っているらしい。 腕に力が入りまくって、金属バットの振りかぶりもほんの僅かだ。
男:「死ねぃ、死ね!」
痛い、が自分から突っ込んでバットの細くなっている部分を肩で受ける、
耐えられる痛みだ。
男がもう一回、大きく振りかぶる。 その瞬間、男に密着して振りかぶったバットを握る腕に覆い被さる、…振らせない。
男:「こいつ、…離れやがれ、」
男は完全に腰が引けてる。
伊織:なんで、こんなに…俺の事が怖いんだ?
男とくっ付いたままの体勢から、後ろ足に重心をかけ、ぶつかったまま、一歩前へ…歩く!
男は意外と簡単によろける。
そのまま、更に一歩…歩いて、追いかける。 その歩み、足の裏から膝、背骨の伸び上がりに肩甲骨を乗せて、…ふっと、左手の掌を伸ばし、全身の歩みを男の胸に…伝える。
男は尻餅をつく形で後ろに倒れてしまった。
男:「ふ、ううぁ、」
男は、後ずさり、バットを放り出して、そのまま逃げ出した。
何だか悲鳴を上げている。
傍にいた二人の男も、続いて走り去って行く?
伊織:勝ったのか? 俺が、喧嘩に勝ったのか?
何だか自分でも不思議な気がする。
伊織:「大丈夫?」
床に横たわったままの詩織を助け起こす。
詩織:「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
詩織は、大粒の涙をどんどん流しながら、伊織に抱きつく。
伊織:「もう良いよ。 …そんなに謝んなくても。」
そのまま、5分くらいは泣き続けただろうか。
ようやく落ち着いた。
伊織:「彼氏なの?」
詩織:「違うわ、無理矢理、つきまとって来て。 …私、脅かされて。」
伊織:「俺、知り合いに刑事がいるから、…頼んであげようか。」
詩織は、うつむいて目を合わせないまま。 小さく頷いた。
伊織:「ただいま。」
家に帰ると、ようやくあちこち殴られた痛みがぶり返して来た。
ズボンのポケットから携帯を取り出すと、 …壊れてる。
伊織:「ああっ!」
伊織:バッドで殴られた時だ。
修理代、…高いだろうな。
こういう、あからさまに壊した奴って、保証の対象になるのだろうか…?
其処へ、奥の部屋から涼子が現れた。
何故だか、するめを歯牙んでいる。 持って来た自分の携帯を伊織に渡す。
碧からの通話中…らしい。
碧:「あんた最近、何か愛想悪くない?」
碧:「電話してもいっつも通じないし、夜は寝てんのかと思って今もかけてみたらやっぱり通じないし…。」
碧:「もしかしたらって思って涼子にかけたら、普通にいんじゃん!」
碧:「何か、私の事避けてる訳? 私なんか悪い事したかな?」
そうだった、最近何かいつもと違うなって思ったら、…碧と話してなかったのだ。 いつもなら碧と電話している時間帯に、ちょうど詩織が電話かけて来てたモノだから…、 そう言えば…、
伊織:「そんな事ないって。 実はさ、携帯壊れちゃったんだ。」
これ迄の顛末を話す。
珍しく黙って聞いていた碧…、
ようやく口を開く。
碧:「ふーん、それってこの間のプールの子よね、なんで会ってる訳?」
伊織:「いや、だからイアンの為に…」
碧:「でも、イアンが好きなのは別の子なんでしょう?」
碧:「別に伊織とその子が連絡取り合う必要ないんじゃない?」
…なんか機嫌悪そう
碧:「たとえばさぁ、…私がおんなじ理由でどっかの男といちゃついてもあんた平気なんだ。」
伊織:「いちゃついてなんか無いよ。」
碧:「じゃあさ、毎晩その女といやいや電話してるって言う訳?」
伊織:「いやいやって…、」
碧:「ほら、やっぱり…。」
碧:「…馬鹿みたい。 …なんで私が、こんな事で悩まないと行けない訳?」
碧:「なんだか気分悪いから、当分電話かけてこないでね。」
切られる…
伊織:こっちだって感じ悪いよ…。
伊織:「女って面倒くさいよな。」
涼子に愚痴る…。
涼子がスルメを歯牙みながら、頭を撫ぜてくれる。