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エピソード4 デート?

Episode4

登場人物

加地 伊織:主人公

難波 優美:白に花柄のワンピース


瑠奈の二日酔いの匂いに当てられて、朝から調子が悪い。 世の中には受動喫煙と言う言葉が有るらしいが、受動飲酒って言うのもあって良い気がする。


都合が良かったのか悪かったのか、涼子は学校の行事が有って登校日らしく今日はうちには来ない。 昨日お知らせの紙を見せて来た。 …そう言う事は俺なんかよりも自分の親に言った方が良いと思うのだが…。


軽く仮眠をとって11時頃には少し気分も回復したので、ちょっとヨコハマまで出かける事にした。 久しぶりの自由行動である。 涼子が一緒だと買えない物だって色々あるのだ。



駅前西口の大型家電量販店で、入り用なブツを入手して、帰り際にイベントのチラシを配られる。 


カメラメーカーとタイアップした企画で、アイドルのドラマ撮影が今日の午後 赤煉瓦であるらしい。 このチラシと ここのメーカー製デジカメを持って行けば、ドラマ撮影後の優先スナップ撮影に参加できる…というイベントだった。 チラシにはそのアイドルの微笑むスナップが刷られていた。


自分も少し前から気になっているアイドルだった。

やはり瑠奈に似ている。 …いや、瑠奈がこのアイドルに似ているのだ…。


脳裏に昨晩の出来事が蘇って来る。 このアイドルもその実態は、あんな風に駄目駄目?なのだろうか…。 そのギャップ感を確かめるべく、赤煉瓦に向かう事にした。


みなとみらい線の馬車道駅を上がり、遠目に風情有る赤い建物が見え始める頃には、既に人だかりが出来上がっていた。



実際に行ってみると、人避けロープから撮影現場迄は結構遠いし、肝心のアイドルはと言うと準備中はどこかのロケバスに閉じこもっているらしく姿が見えない。 じっと待つのは暑いし、だんだん飽きて来た。 その時…


女1:「タクティカル(メンズファッション誌)の久世君が来てるってよ!」

女2:「うっそ、私今月号、兄貴のだって言って買っちゃった。」

女3:「巻頭でしょ、見た見た。」


どうやら、ファッション雑誌の読モと接近遭遇したらしい。

女どもが次々と走って行く。 その内の一人が伊織にぶつかって来た。


女4:「痛った!」


伊織:うぅ…、何故睨むの? ぶつかったのそっちでしょ!


女5:「どったの?」

女4:「ちょっと、何こいつ。 マジうざいんですけど、」

女6:「そんなキモオタ放っといて、早く行こうよ。」

女4:「油ついた。最悪。…豚! 息すんな!」


伊織:酷い、怖い、目を逸らせぇ〜



見るとロケ現場とは少し離れた所にコジンマリ人だかりができていた。

あーあ、確かにテレビで見た事有る様な名も知らぬイケメンが歩いている。

その人だかりの中に…イケメンが入って行く。 …ん?


人だかりの中心にいるのはそのファッション雑誌のイケメン読モではなくて、…女の子、…それもどっかで見覚えの有る


伊織:…優美?


いや、何か違う…。 雰囲気? 何だ? …シロに花柄のワンピース?!

伊織は急いで人だかりの方へ走る。


伊織:やっぱり優美だ。

どんどん周りから声をかけられるのを全部無視している。 …結構な根性。


やがてイケメンが口説き始めた…。


久世:「君、凄いね、存在感。…て言うの? どこかの事務所に入ってんのかな? 何だったら僕が紹介してあげよっか?」


舌打ちして睨み返す優美。 こういうの…ちょっと安心する。


それにしても、なんで優美がこんなとこに居るんだ? そう言えば、珍しく室戸が居ない。


ふっと、優美と目が合った。 伊織の方にダッシュして来る優美。


優美:「ミジンコ! 行くわよ。」


伊織:「えっ、何処に?」


何だかこれ以上無理って位走る。 こいつ、身長の割に足速い。 いや、この女性の前では身長の話は御法度だった…。


赤煉瓦倉庫の間を突っ切って埠頭へ。 チケットも買わないまま、ちょうど出航前だった遊覧船に飛び乗る。 当然怒られるのは伊織。



とにかく、船は山下公園へ向かう…らしい。

大桟橋埠頭を過ぎる頃にようやく呼吸が落ち着いて来た。


伊織:「一体、どうなってんだ。」

伊織:「なんで、お前があんな所に?」


優美が傲岸不遜に睨みつけた。


優美:「私だって…買い物…に来る事くらい、有るわ。」

伊織:「室戸はどうしたんだ?」


優美:「あいつは、…目立つから置いて来たのよ。」

伊織:「置いて来たって、…あいつボディガードじゃ無いのかよ。 それにお前だって十分目立ってるよ。」


彼女は揺れるデッキの上で黙ったまま波しぶきを嗅いでいる。



伊織:「ところで、今日はゴスロリじゃ無いんだな。」

優美:「これは、…香澄がどうしても着て行けって言うから。」

伊織:「結構似合ってるじゃん。」


優美の顔がとたんに赤くなる。


優美:「仕方が無いから、…ミジンコ、貴方一日つき合いなさいよ。」

伊織:「え、いきなり?」

優美:「友達でしょ。」


内心ウキウキしていたが、敢えて「しょうがねえなあ〜」という雰囲気を醸し出す。


伊織:「ちょっと腹減った…、 朝から何も食べてないんだ。 何か食べに行かないか?」

優美:「だらしないわね、」



何故だか、マリンタワーのレストランへ…


伊織:「あのさ、此処って高いんじゃない?」

優美:「おごってあげるわよ。」



やがて案内された席にウェイター登場。 明らかなギャップにヒクツイテいる。 片や超絶美少女、片やモブキャラ男子のカップルだから…まあ仕方が無い。


ウ:「お飲物はいかがいたしましょうか。」

優美:「スパークリングウォータで良いわ。」

優美:「それとこの人にランチを一つ。」


ウ:「メインディッシュはメニューからお選びいただける様になっておりますが、いかが…。」

優美:「適当に任せるわ、」


完全に仕切られてる…。



伊織:「なんかさ、もしかして、これってデートっぽくない?」


優美の顔が赤くなる。


優美:「ミジンコ! 貴方変な事考えているんじゃ無いでしょうね。」

伊織:「変な事って、何だよ。」


優美:「だいたい、デートって言うのなら、エスコートして欲しい物だわ。」


窓から氷川丸が見える。



優美:「友達って、…こういう時に何をするの?」

優美:「私、友達なんて居なかったから、よく分からないのよ」


伊織:「おれも居なかったな。」

伊織:「実は小学生の時に学校で虐められてさ、急に皆から無視されて、孤立して、それで、中学になった時には誰も信用できなくなっていた。」

伊織:「どうせ、何時かは皆自分を裏切るんだ、それなら、最初から裏切られる事を想定してつき合おう。って、 …そんなんだから、誰とも友達になんかなれなかった。」

伊織:「いつも一人で、それでも構わないって思ってた。」


優美:「私には よく分からないわ。」


優美は生まれてからずっと施設の中で育った。 …勿論、学校にも行かなかったし、同じ歳の頃の子供とつき合った事も無かったから、そもそも友達に苛められるという事が一体どういう事なのか分からないのだ。



優美:「ねえ、ミジンコ、…何故あの時、急に友達になろうなんて言い出したの?」


今度は伊織が赤面した。 …それでも、照れながら、少しずつ話し始める。


伊織:「これまで俺は、自分を裏切らない奴が現れたら、そいつが本当の友達になるんだって。そんな風に思ってた。」

伊織:「でも俺には人の考えている事が分からない。 …信じられないって言う方が正しいかな。」

伊織:「だから、いつまでたっても友達なんて見つけられなかった。」


伊織:「でも俺さ、お前と会った時に、裏切られるとか関係なく、…お前との出会いを失いたくないって思ったんだ。」

伊織:「もしかしたらお前美人だから、このまま別れちゃうのは勿体ないとか…思ったからかな 。 …何か不純だよな。」


優美が赤くなる。


優美:「本当に、不純ね。」



伊織:「でもさ、俺、お前の事 友達だって意識する様になってから、お前の事が気になるっていうか、心配っていうか、もっとお前の事を知りたいって思った。」


優美が見つめ返す。

大きな瞳に長い睫毛、傷一つない端正な顔立ち、艶やかなウェーブ、それはまるで造り物の様な…一点の欠陥もない妖しい美貌。


伊織:こいつは、本当に人間なんだろうか。


伊織:「優美…、」

優美:「何よ、」


その名前を呼ぶだけで、胸の鼓動が高まる。

伊織:俺は一体…何を言おうとしていたんだっけ…。


伊織:「お、お前、…趣味とか、あんのか?」


とっさに、当たり障りの無い台詞を吐き出す。 …悪い癖だ。


優美:「無いわよ。」


再び、気まずい沈黙…。





伊織:「なあ、…優美、お前、人類滅亡なんて、本気で考えてるのか。」


炭酸水の入ったグラスを傾けながら、ポツリ…と聞いてみる。


優美:「…人類滅亡なんてあり得ない、」

優美:「でも、私の力が多分、大勢の人を傷つけるモノだと言う事は分かっている。 …それでも、それが「さりな」が私に与えてくれた私の理由、私の生きている意味だから。」


伊織:「でもさ、…それって本当に優美がやりたい事なのか?」


優美:「私は、私の事を必要だと言ってくれる人の傍にいたい。 …ただそれだけ。」


優美は窓の外を眺めながら、ぼんやりと答えた。





家に帰ってからも、それからずっと惚けたままだった。 何だか緊張の糸が切れたと言うか、頑張りすぎたと言うか…、やっぱり身の丈に合っていないと言うか。


伊織:本当に俺は、優美の友達になれたのだろうか。

伊織:どうすれば、胸を張って友達だと言えるのだろう。



…携帯電話の着信音。


伊織:「おお、…吾妻か。」

碧:「あんた! 昨日は何してたのよ、…電話通じないし。」


伊織:ああ、色々有ったんだ。 …絶対言えないけど。


碧:「それでさ、急になっちゃったんだけど、…明日遊びに行こう。」

伊織:「へっ?」


碧:「デートだよ、デート! ちょうど明日、予備校と部活のどっち共 休みになったの。 と言う訳で、決まりね。 …何処いこっか?」



伊織:ヨコハマ以外なら、何処でも…。

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