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エピソード2 来訪者

Episode2

登場人物

加地 伊織:主人公

イアン シェパード:格闘技オタク

三船三十郎:拳法の師匠

館野 涼子:手錠と目隠しがお気に入り


三船:「そろそろ、発勁の練習に入ろうか。」


その日の稽古で、三船がそう切り出した。


伊織:「発勁って、漫画の主人公が掌からオーラみたいなのを出すアレですか?」


三船:「発勁というのは、効果的に相手に威力を 伝える為の技術の事だ。 残念ながら、スーパーヒーローの必殺技とは違う。」


三船:「凄く簡単に言えば、相手を撃つと言うのは歩く力を相手にぶつける事だ。 ふらっと歩いて行って、ドンと相手にぶつかる。 これが最もシンプルな発勁かも知れないな。」


伊織:「体当たりですか。」


三船:「そうだ、敵に当たる部分が腰か、背中か、肩か、肘か、掌か、指先か、まあ、様々あるが、根本は同じだ。 大切なのは如何に自分の歩く力を効果的に余すところなく相手にぶつけるかと言う事だ。」


イアン:「歩く力って何ですか?」


三船:「人間の身体から発せられる筋力を効果的に相手にぶつけようとする時、足で踏みしめる地面の反発力を利用するのが手っ取り早い。 つまり足から指先迄の筋力を総動員するって訳だ。 これが俺流で言う歩く力。」


伊織:「蹴る、じゃないんですか? 地面を蹴る、って言う感じ?」


三船:「ふむ、良いけどね。 キックにしてもパンチにしても、どうしても伸びきった状態、完全固定された状態のイメージを持ちがちだ、しかしこれでは筋肉は最大限の力を発揮できない。 完全に伸びきった状態のバネは力を発しないと言う訳だ。 それに、間接を固めると、身体の其処此処で折れ曲がりができ易くなって、其処から力をそらされる事になる。」


三船:「伊織、力を抜いて手を伸ばしてみな。」


ふっと伸ばした伊織の手に軽く三船が手を添える。

いきなり!腕ごと身体を揺すられる。


三船:「うーん、まだ力が入ってるな。 …もう一回手を伸ばしてみな。」


今度は、その手の肘あたりを三船が下から支える。


三船:「それで、力を抜いてみて。」


不意に三船が手を離す。 伊織の手は、そのままの格好。


三船:「いいか、力が抜けていたら私が手を離した瞬間に、そのまま伊織の手は下にぶらんと落ちる筈だ。 落ちないと言うのは、つまりこの状態を維持しようという力が入っているって言う訳だ、 …もう一回やってみよう。」


なるほど、そう言う事なら、 …今度は手を外されたと同時にそのまま腕が下に落ちる。


三船:「ま、そう言う感覚だ。 そう言う感覚で、腕をのばしてみて。 うーん、放り投げてみてと言うのが判りやすいかな。」


やってみる。

先ほどと同じ様に三船が横から手を添えて来る。今度は、肩から先だけが押曲げられる。


三船:「そう言う事。」


三船:「じゃあ、今度は、思いっきりパンチしてみな。 俺の顔面に力一杯ねじ込むつもりで。」


思いっきり撃ち込んだ右拳は、軽く添えられた三船の掌の圧力で、いつの間にか上半身ごと跳ね返されて、伊織は後方に吹っ飛ばされた。


三船:「つまり、固まっていると身体をぶつける力は簡単に方向を変えられるって訳だ。」


三船:「前にも言ったが、相手に力を伝えるには、何よりも姿勢が大事だ。 人間の骨格、筋肉には相手の反力に耐えやすい姿勢と耐えにくい姿勢が有る。」

三船:「イアン、正面を向いて立ってみな。 それで、上半身だけ捻って右肩を前に向けてみな。」


イアンの肩を、三船が横から押す。 ぐんと、揺らされて一瞬よろめくが、左足でナントカ踏ん張る事ができる。


三船:「今度は、私に対して真横を向いて立ってみな。 それで、顔だけ私の方を見る。」


その肩を、三船が横からおす。 当然、押されるままによろけてトタトタと転びそうになる。


三船:「つまりそう言う事だ、相手に拳を撃ち込む時に、骨盤が相手の横を向いていたら、簡単に身体ごと力を反らされてしまう。」


三船:「それと、もう一つ。 伊織、歩きながら、私にパンチしてみな。」


その撃ち終わりを三船に止められる。 腕をつかまれてそのままの姿勢で固定。


三船:「この時に、自分の膝よりも前に身体を出しては駄目だ。」


確かに、伊織は前足に体重が乗って自然と前のめりになっている。



三船:「今度は私も後ろに下がるから、追っかけながらパンチを打ってみて。」


後ろ足に交代する三船を歩いて追いかけながらパンチする。 そのパンチに軽く触れた三船の手に、何故か引き摺られて、伊織はそのままヨタヨタと転びながら前転してしまった


三船:「自分の膝よりも前に出ると、堕された時、引きずり込まれた時に踏ん張れない訳だ。」

三船:「自分の力を支える足、前足でも後ろ足でも構わないが、とにかくどちらか片足を主にして、その足で立って、力を発し、反対側の足はいざという時の支え棒だとイメージする。 ちなみに前足に重心を置く立ち方を弓歩ゴンブウ、後ろ足に重心を置く立ち方を虚歩シェーブと言う。」


三船:「歩くと言うのは、基本的にはこの虚歩と弓歩の繰り返しで行う。 虚歩のイメージは、そうだなサッカーでボールを蹴る感じに近いかな 。」


三船:「凄く大雑把に言えば、今言った事の組み合わせが発勁にとって重要な身体の使い方な訳だ 判ったかな?」


伊織:「いえ、さっぱりです。」



練習後…


イアン:「伊織、学校の宿題、一緒にやらないか?」

伊織:「良いけど、イアンって頭良いんじゃなかったのか?」

イアン:「日本語の文章が、今ひとつ理解できない所が有るんだ。」 

イアン:「手伝ってもらえると助かる。」

伊織:「それは、俺にとっても願ったりだけど、…いつやる?」


イアン:「今日、これからでも良いかな?」

伊織:「まあ、特に何の用事もないし、いいよ。」

イアン:「じゃあ、準備をして伊織の家に行っても良いかい?」

伊織:「判った。 じゃあ、そう言う事にするか。」

イアン:「それじゃあ、後で。」



帰り道、携帯に電話が入る。 友達が少ない伊織の携帯にかかってくるのは大抵の場合 碧なのだが、今日は違っていた。 


伊織:「涼子?」


急いで携帯にでる。


伊織:「もしもし、涼子か、どうかしたのか?」


無言…自分でかけて来ておいて無言とは… もしかしてまた、何か事件に巻き込まれてるんじゃないだろうな!


伊織:「おい、涼子、涼子なんだろ?」


見ると、伊織の家の玄関の前に、水色のワンピースに白い帽子の見るからに華奢な少女が立っていた。 携帯を耳に押当てたまま、黙っている。


伊織:「涼子、お前どうしてうちに? どうやってこの場所がわかったんだ?」


涼子が無言のまま、携帯のアドレスを見せつける。 何故かそこに碧のアドレスが入っていた。


伊織:「碧に聞いたのか?」


頷く涼子、


伊織:…って、どうやって聞いたんだ? 碧とは喋ったのか? こいつ俺にはあれ以来一言も喋らないんだぞ。 あの…一言しか!


伊織:「それで、何しに来たの?」


涼子が伊織の家を指差す。


伊織:「うちに、入りたいのかな?」


涼子が大きく頷く。


伊織:しょうがないか、


追い返すのも可哀想だ、しかし、家に女子が訪ねてくるなんて驚天動地な訳で、家に居る筈の母親が一体どの様な反応をするのか、有る意味恐怖である。 …まあ、素直に息子の成長を喜んでくれれば良いのだが…



果たして、母親の反応は微妙だった。 ひくついていたと言っても良い。

この後イアンも来る事になっていたので、皆で家に集まって宿題をやる事になった。 とさりげなく伝えた。


どうやら友達ができた事には感動してくれたみたいだったが、いきなり女の子が家に上がり込むなんて想像できていなかったらしく、めいいっぱい挙動不審である。 …仕方が無い。



涼子は何する訳でもなく、居間に置いたテーブルについてじっと伊織を観察していた。 相変わらず無口である。


伊織:「なんか、したい事有る?」


手提げ鞄から、そっと手錠を取り出す。


伊織:「駄目! それは駄目。」


伊織:誰だ? 涼子に手錠なんて与えたのは。


手錠をあきらめた涼子は、…今度は目隠しを取り出した。


伊織:「駄目! それも駄目。」


うちで目隠しプレイ?などやっている所を母親に見られたら…、 一体誰だ! 涼子に目隠しなんて与える奴は…って、多分、あの人しか居ない。



そこへ、イアンが到着した。


イアン:「あれ、妹さん?」

イアン:「可愛いね。」


涼子が伊織の後ろに半分隠れて覗き見する。


伊織:「違うよ。 …何と言うか、友達。 多分…邪魔しないから、一緒に居ても良いかな?」

イアン:「勿論、構わないよ。」


伊織:「涼子、俺たちこれから学校の宿題をやるんだけど、一人で退屈しないか?」


涼子が、鞄から自分の宿題を取り出す。


伊織:何でも出てくるんだな。 …それ。


宿題をやる伊織とイアンの隣に座って涼子も持って来た宿題を広げる



…20分経過、だんだん飽きて来る。


伊織:「そう言えば、イアンって日本のアニメ好きなんだって?」

イアン:「アニメ?」 

イアン:「黄色い家族のスプラッタコメディくらいしか見た事無いけど。」


上野ラノベオタクからは、秋葉原につき合わされて大量にアニパロディエロ本を買いあさったと聞いていたのだが、あれは何かの間違いだったのだろうか?



イアン:「アニメと言えば、今度僕の友人が日本に遊びにくるんだ。」

イアン:「その人は凄く日本のアニメが好きで、」

イアン:「アニメに関していろんな事を知ってるんだ。」


イアン:「例えば、ジャッキ・ガンとか持ってるって言ってる。」

イアン:「それでリア獣を殺すとか言ってる。」

イアン:「彼女は日本のアニメを見るために日本語を完璧にマスターしたんだ。」


伊織:いや、イアン、それは多分、日本語の使い方間違ってると思うぞ



イアン:「この間も僕が日本に着いたばかりの時に、イギリスからメモを送って来て、たくさんアニメグッズを買ってって頼んで来たんだ。」

イアン:「それで、それを送ってあげたんだけど、」

イアン:「そうしたらどうしても自分で買い物がしたくなっちゃったみたい。」


上野が言っていた大量のアニメグッズの持ち主は、どうやらそのイアンの友人の事だったらしい。


イアン:「是非伊織の事も紹介したいな。」

イアン:「会ってくれるかい?」


伊織:「ああ、良いけど、…もしかしてその人って、前に言ってたイアンが好きな女の人?」


イアン:「そうだよ。」

イアン:「とても素敵な人なんだ。」


イアンの目がキラキラしていた。


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