07. ひとりが少し寂しくて、彼を迎えに行ったはなし
毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
今日は、少し静かな朝。
少し大きく伸びをして、
そして、ひとりで起きる。
昨日の夜の、いってらっしゃいを思い出す。
レイジは、昨日から泊まりのお仕事。
ヒトの村に行って、まだ帰らない。
――ちゃんと笑って、見送ったのに。
昨日の夜と同じよう。浮かべた笑顔のその下を、隙間風が通り抜け……。
ため息になって抜けていく。
翅を震わせ、地を蹴りつけて。
何も無い、虚空へ浮かぶ。
空の陽も、今日はちょっと頼りなく。
光は雲の間から。
レイジのベッドは、昨夜見た形のまんま。
ヒトの形に凹んだのは今朝はどうやらあたしの方。
ふぅ、と聞こえよがしについた声。
それも部屋の隙間に溶け消えた。
誰もいないヒトの家。
そこは妖精のあたしには、少しばかり広すぎる。
◇◆◇◆
そんな、空いた気持ちで迎えた一日だけど。
いつもとは、思ったほどには変わらない。
水浴びして、朝ごはんのパンを齧って。
それから、少し窓を開けて。
部屋の掃除と片付けと。
それからいつものお洗濯。
……面倒さは、今に限って、ありがたい。
今日は気分も時間も間延びして、どこもかしこも隙間が多い。
いろんな用事で埋めとかないと、穴から寒さが入り込む。
だからあたしは無心になって、ぱたぱたって動いて回る。
いつの間にか感覚も、何処かに落ち込んで、気づけば時間が飛んでいた。
あーあ、昼には帰るって言ったのに。
絶対、ぜったい、遅れないって約束なのに。
扉はうんともすんとも言わず、鳴るのは風の音ばかり。
レイジはいつ帰るのか?睨んだ壁の時計だって、そんなの知らないってお手上げで。
狭くなるふたつの針の間から、溜まった不満がこぼれてく。
肘をつき、薄く目を閉じ、唇を尖らせ。
漂う不満のその奥から、それでも彼を想ってる。
……あたしって、こんなに繊細だったかなぁ。
――でも、もしも。
このまま帰ってこなかったらどうしよう……。
うっかり目にした割れ目は、思ったよりも深い闇。
ひとりでは振り払えない妄想が、じわじわと穴から湧き上がる。
あぶくのように浮かぶのは……。
無茶を言いすぎたかな、優しくできなかったかな、って過ぎちゃったそんな事ばかり。
ふらついて、覗いた穴に吸い込まれそうになる。
あたしの視線のその先で、光がじわっと滲んでく。
煌めく光が雫となって、隙間から、ぽたぽたって垂れ落ちた。
ーーあめ!
隙間をぐっとこじ開けて、洗濯物を取り入れる。
濡れた物は干し直し。
くるくる紐を巻き付けて、そこに物を吊るしてく。
瞬く間に、とは言い過ぎだけど。
気がつけば。何も無かった部屋は、干した物で埋まってた。
水を被って、頭も冷えて。
そうだよねって、腑に落ちる。
さぁて、レイジを迎えに行かなくちゃ!
ひとっ翔びして、持ち出したのは彼の傘。
勢いそのままに外へと飛び出す。
閉じた雲を突くように、膨らんだ花の蕾のように、傘をぱあっと開く。
そしてくるくる回し、出来立てのふわふわの気持ちをかき混ぜる。
……うんうん、これでいつものあたし。
彼にぴったり引っ付けば。
風の寒さも言い訳も、きっと大きな気持ちの影に。
包まれ温められて、だんだん溶けていく。
あたしは湧き上がる気持ちのままに。
翅で踊るように空を打ち、口角を少しだけ上げて。
そして降り頻る雨の中、船みたいに揺れながら。
あたしと、その傘はくるり踊って、村へと続く道の先へと翔んで行った。
◇◆◇◆
(挿絵: あともうちょっとだね。って呟くスフレ(使用ツール:ChatGPT Image Generation))




