06. 眠気に揺られながら、それでも彼を見送った夜のはなし
毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
(挿絵: スフレ、こっそりおしごとちゅう(使用ツール:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
今日はずっと、雲みたいな眠気の中に沈んでる。
理由なんて知ってても。
それじゃなんにも……、どうにもならなくて。
朝、おはようの前に飛び出したあくび。
それは結局、今日一日中。
あぶくのようにあたしのなかから湧き続け……。
ふぁあ……、もう……瞼が重い。
……それこそ昨夜みたく。
針を刺される痛みが無いと、意識が続かない。
誠に申し訳ないんだけど、今日はいつにも増して戦力にならず。
持った物は壁にぶつけ、頼まれ事は上の空。
挙げ句の果てには、洗濯物を地面に落とし、もう一回洗い直した。
……だから、食事終わりのお皿洗い。それも今日は、お任せで……。
ふぁ……。
朝方までヒト化してたのが響いてて、もう魔力も体力も底をつきかけてる。
ぅ……、でも。だめだめ、まだ眠らない。
水仕事が覚束ないのは、眠い以外に、もう一個だけ理由があって……。
手のひらの先を眺め、そして嘆息。
手を握って痕跡を隠す。
指先に微かに宿ったままの、針の痛み。
妖精に戻ったから、傷は小さくなったのに。
……あぁ、眠い。
でもほんとに。あともうすこしなんだから。
寝てる頭を、叩いて、揉んで、なんとか意識を繋いでく。
だってお皿を洗い終われば、レイジの日課の、夜の見回り。
彼がいつもの上着を取り出して……。
今日はさすがに、あたしはお留守番。
だから、出かける彼を笑顔で見送る。
一緒が無理で残念な気持ち、それはもちろんあったけど。
眠気と一緒に、背中に回した手に隠す。
噛み殺したあくびで滲んだ、あたしの視界。
映すのは彼の顔と、もうひとつ……。
あたしの髪と似た色の。
キラキラ光るまあるい金属。
宝石でも貝でもない、安物の、少し剥げたボタン。
ついてる先も、一張羅でも上等でも、ましてや新品ですらない、くたびれた上着。
意味があったかなんて、わからない。
……でも、気になっちゃったんだから仕方ない。
その子は今日は、ちゃんと頭を垂れずに。
少し斜めだけど、しっかり前を向いている。
ただそれだけが、ちょっと誇らしくなって。
指の痛みが、和らいでいく。
……眠気のせいかも、しれないけれど。
うっかり、いってらっしゃいと手を振って。
彼に、手のひらを見せちゃった。
笑って誤魔化し、身体の後ろに手を隠す。
……気づかれた?いや、どうかな?
眠い頭じゃ全然分からない。
だから、ドアが閉まる直前。
彼と目が合ったその時に。
ありがとう、なんて言葉の幻聴。
それが耳をふっと通り抜け、眠気でふやけたあたしの意識に届いたような……。
……頬が、溶けたようにゆるむ。
夢との境界も解けた微睡のなかで、
優しい風が、あたしの頬をそっと擽った。




