05. 彼を待っていたら、ひとりの時間が少し長く感じたはなし
毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
(挿絵: 水滴を浮かべて遊ぶスフレ(使用ツール:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
曇天。空は、今のあたしと同じ色。
朝から降り続ける雨は、今も変わらず窓のガラスを打ち続けている。
ひとりの時間。
レイジは書斎に篭りっきりで、なーんにもすることがない。
外に行くにも、雨はあたしのやる気をすぐに溶かして流してしまうだろう。
「まだかなぁ……。」
呟きはもう、ため息のように。
家の中でも、湿った空気が翅を鈍らせる。
「ふぁあ……」
もう、何度目かのあくび。
眠いわけではないけど、気怠いようなもどかしいような……。
心が身体から離れたがって、足掻くような感じ。
窓の外は、しとしとと静かな雨が降り続ける。
いつもなら焦れて暴れたくなる頃だけど。
月の魔力で違う姿になるように、あたしは周りの影響を受けやすいのか。
雨のこう言う時には、普段より静かに過ごせる。
くるくる、と指を回して……
窓の外についた水滴を、宙に浮ばせる。
降り注ぐ水の粒を受けて、だんだんと大きくなっていく水滴。
ぱしゃっ……。
はじけて散った。
これは、干渉力の限界。
操れる水の量を超えたのだ。
ご覧の通り水の適性なんてほぼないあたしだけど。
心なしか、雨の時はいつもよりは多少マシに操れる感じはある。
……気のせいとか、集中力の関係かもだけど。
耳を澄ませる。
レイジは……、まだかなぁ。
呼吸を止められる僅かな間に変化があることを期待したけれど。
雨の音、それしか聞こえない。
残念。
ドアの開く音がしたら、一目散に翔んでいこうって思ってるのに。
……開いたら、何をしてもらおうかなぁ。
部屋の中をくるりと眺める。
頭上の鳥籠、すぐ近くの静かな青い光の妖精灯花、さっき読んだけどイマイチだった本、そして、小さな鳥籠のキャンドルホルダー。
あのリングを思い出す。
身体の芯にはいつもは意識しない違和感が、今も変わらずあって……。
目を閉じ、浮かびかけたそれらのことをまとめて意識の隅に追いやる。
必要な感覚なのは認めるけれど、こればっかなのは良くない。
しとしとと、雨の音が隙間を埋めていく。
……料理でも、まともに出来るウデがあったなら。
あるいはもう少し時間があるなら、掃除でもしてたところなんだけど。
――彼は、まだ来ない。
天井を見上げる。
レイジの家は、大木をくり抜くんじゃなくて、何本もの細い木を使って立てた木のお家。
ヒトの村には煉瓦を積んだだけの家もあったけど、あたしはこの家の方が好き。
寝てるのは、金属の鳥籠なんだけどねー。
この部屋の天井から吊り下がったあたしの寝所。
意外と快適だけど、もう少し温もりが欲しいかなぁ。
レイジの隣で寝るのは、やりたいけれど。
……今はナシ寄り。
決して彼のいびきがうるさいとか、匂いが気になるとかそう言うんじゃないんだけど。
あたし側の問題。
心情的な方の要因で。
近いと寝づらいし。眠りも浅くなるから、彼が寝返り打つたびにあたしが起きちゃう。
……それに。
おっきなものの近くは、潰される懸念がどうしても拭えないんだよねぇ……。
あー、あの鳥籠、木で出来たやつがないのか聞いてみようかなぁ……。
どこにも行けないあたし。
意識は外の雨のようになって、いつもは行き渡らないところにまでも心を巡らせる。
……おやつ、何かなぁ?
我ながら3大欲求に忠実で、笑ってしまうけど。
レイジの入れてくれるお茶と、そして一緒に出てくる甘味。
砂糖がわりのそれを、レイジの分まで貰って食べるのが、密かではない、大々的な楽しみだった。
お茶はあたしのだけ少し薄めなのが、特別感があっていいんだよね。
記憶から溢れてきた香りに浸る。
入れてくれるのは大抵2杯。裏の畑のとレイジの好きなの。
ほぼいつも同じだから、どっちの香りも色濃く覚えてしまった。
裏の畑で取れる方は苦味が強いけど、甘味と一緒なら悪くない。
3杯もお茶は飲めないのもあって、甘味はあたしの好みを優先してくれる。
今日は、戸棚にあるドライフルーツか、焼き菓子か。
買ってきたのじゃなくて、そろそろあたしも何かお菓子作りを覚えるべきか……。
村から来たお節介な妖精の言葉じゃ無いけれど。
一応、ドライフルーツは自家製。
でも作ったーって、自慢できるものじゃないし。
切って干して、ただ待つだけだしなぁ。
しかもその世話をし損ない、鳥に半分ほどやられたのも記憶に新しい。
今日、お菓子づくりやってみる……?
レイジ、乗ってくれるかなぁ……?
珍しく、本当に珍しく、そういう事にやる気になってきたので。
その辺の余り紙に、ふんふんと魔法陣を描いていく。
何にも無い雨の日。
部屋に雨の音と、あたしの鼻歌が響いてく。
少し複雑な紋様。手慣れたオリジナルの魔法を丁寧に描いてくのは、適度に集中できてとても良い暇つぶし。
きぃ……。
微かに。でも確かに聞こえた、蝶番の歌う声。
目を閉じ、耳をそばだてて……。
…………貴重な、思索の時間は終わりかなー。
慣れた気怠さから離れる惜別感。
さて、おやつのその前に。まずはーー
楽しい楽しい時間の始まり。
ワクワクな期待が胸にも灯る。
いち早く、笑みの形に曲がった唇をそっと撫で。
暖かい予感を胸に抱いて。
あたしは、閉じていた目をふっと開けた。




