表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

05. 彼を待っていたら、ひとりの時間が少し長く感じたはなし

毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。

※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)

挿絵(By みてみん)

(挿絵: 水滴を浮かべて遊ぶスフレ(使用ツール:ChatGPT Image Generation))



◆◇◆◇


 曇天。空は、今のあたしと同じ色。


 朝から降り続ける雨は、今も変わらず窓のガラスを打ち続けている。



 ひとりの時間。

 レイジは書斎に篭りっきりで、なーんにもすることがない。


 外に行くにも、雨はあたしのやる気をすぐに溶かして流してしまうだろう。



「まだかなぁ……。」


 呟きはもう、ため息のように。

 家の中でも、湿った空気が翅を鈍らせる。



「ふぁあ……」


 もう、何度目かのあくび。

 眠いわけではないけど、気怠いようなもどかしいような……。

 心が身体から離れたがって、足掻くような感じ。




 窓の外は、しとしとと静かな雨が降り続ける。




 いつもなら焦れて暴れたくなる頃だけど。


 月の魔力で違う姿になるように、あたしは周りの影響を受けやすいのか。

 雨のこう言う時には、普段より静かに過ごせる。



 くるくる、と指を回して……


 窓の外についた水滴を、宙に浮ばせる。

 降り注ぐ水の粒を受けて、だんだんと大きくなっていく水滴。



 ぱしゃっ……。



 はじけて散った。

 これは、干渉力の限界。

 操れる水の量を超えたのだ。



 ご覧の通り水の適性なんてほぼないあたしだけど。

 心なしか、雨の時はいつもよりは多少マシに操れる感じはある。



 ……気のせいとか、集中力の関係かもだけど。



 耳を澄ませる。



 レイジは……、まだかなぁ。


 呼吸を止められる僅かな間に変化があることを期待したけれど。

 雨の音、それしか聞こえない。



 残念。


 ドアの開く音がしたら、一目散に翔んでいこうって思ってるのに。



 ……開いたら、何をしてもらおうかなぁ。



 部屋の中をくるりと眺める。


 頭上の鳥籠、すぐ近くの静かな青い光の妖精灯花、さっき読んだけどイマイチだった本、そして、小さな鳥籠のキャンドルホルダー。


 あのリングを思い出す。

 身体の芯にはいつもは意識しない違和感が、今も変わらずあって……。



 目を閉じ、浮かびかけたそれらのことをまとめて意識の隅に追いやる。

 必要な感覚なのは認めるけれど、こればっかなのは良くない。



 しとしとと、雨の音が隙間を埋めていく。


 ……料理でも、まともに出来るウデがあったなら。

 あるいはもう少し時間があるなら、掃除でもしてたところなんだけど。



 ――彼は、まだ来ない。



 天井を見上げる。


 レイジの家は、大木をくり抜くんじゃなくて、何本もの細い木を使って立てた木のお家。

 ヒトの村には煉瓦を積んだだけの家もあったけど、あたしはこの家の方が好き。


 寝てるのは、金属の鳥籠なんだけどねー。


 この部屋の天井から吊り下がったあたしの寝所。

 意外と快適だけど、もう少し温もりが欲しいかなぁ。



 レイジの隣で寝るのは、やりたいけれど。

 ……今はナシ寄り。


 決して彼のいびきがうるさいとか、匂いが気になるとかそう言うんじゃないんだけど。



 あたし側の問題。


 心情的な方の要因で。

 近いと寝づらいし。眠りも浅くなるから、彼が寝返り打つたびにあたしが起きちゃう。


 ……それに。

 おっきなものの近くは、潰される懸念がどうしても拭えないんだよねぇ……。



 あー、あの鳥籠、木で出来たやつがないのか聞いてみようかなぁ……。



 どこにも行けないあたし。

 意識は外の雨のようになって、いつもは行き渡らないところにまでも心を巡らせる。




 ……おやつ、何かなぁ?



 我ながら3大欲求に忠実で、笑ってしまうけど。


 レイジの入れてくれるお茶と、そして一緒に出てくる甘味。

 砂糖がわりのそれを、レイジの分まで貰って食べるのが、密かではない、大々的な楽しみだった。



 お茶はあたしのだけ少し薄めなのが、特別感があっていいんだよね。



 記憶から溢れてきた香りに浸る。



 入れてくれるのは大抵2杯。裏の畑のとレイジの好きなの。

 ほぼいつも同じだから、どっちの香りも色濃く覚えてしまった。



 裏の畑で取れる方は苦味が強いけど、甘味と一緒なら悪くない。

 3杯もお茶は飲めないのもあって、甘味はあたしの好みを優先してくれる。



 今日は、戸棚にあるドライフルーツか、焼き菓子か。


 買ってきたのじゃなくて、そろそろあたしも何かお菓子作りを覚えるべきか……。


 村から来たお節介な妖精の言葉じゃ無いけれど。



 一応、ドライフルーツは自家製。

 でも作ったーって、自慢できるものじゃないし。


 切って干して、ただ待つだけだしなぁ。

 しかもその世話をし損ない、鳥に半分ほどやられたのも記憶に新しい。



 今日、お菓子づくりやってみる……?

 レイジ、乗ってくれるかなぁ……?



 珍しく、本当に珍しく、そういう事にやる気になってきたので。

 その辺の余り紙に、ふんふんと魔法陣を描いていく。


 何にも無い雨の日。

 部屋に雨の音と、あたしの鼻歌が響いてく。


 少し複雑な紋様。手慣れたオリジナルの魔法を丁寧に描いてくのは、適度に集中できてとても良い暇つぶし。



 きぃ……。



 微かに。でも確かに聞こえた、蝶番の歌う声。

 目を閉じ、耳をそばだてて……。



 …………貴重な、思索の時間は終わりかなー。


 慣れた気怠さから離れる惜別感。



 さて、おやつのその前に。まずはーー



 楽しい楽しい時間の始まり。

 ワクワクな期待が胸にも灯る。



 いち早く、笑みの形に曲がった唇をそっと撫で。

 暖かい予感を胸に抱いて。


 あたしは、閉じていた目をふっと開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ