04. 彼を想って水浴びして、少しだけ近づけたはなし
毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
(挿絵: 泡をとばして遊ぶスフレ(使用ツール:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
水浴び、それは乙女の秘密。
……なーんて。言うほど特別なことはないけど。
今日はちょっとだけ、いつもとは違うひみつ。
レイジのいない隙、それを見計らい。
キッチンのカップに水を溜め、小さな布巾を浸す。
レイジの部屋にあった小さな鏡、それも拝借して立てかけてる。
身体を拭くための準備だった。
時刻は、まだ朝の時間。
ヒトは寝る前とか夜にするらしいけど。
あたしは別に時間を決めてない。
頻度も、ヒトあるいは妖精によりけり。
どっちが多いとか、種族の差も特に感じない。
ただ、臭うのが嫌だから毎日やってるあたしは、ちょっと過剰かもしれない。
魔法銀の服を解いて横に置き。
濡れた布巾を絞って、身体に当てる。
髪は濡れると邪魔だから。
くるくると上に巻いて、リボンで結んだ。
どっから拭くか、なんて決めたりしてないけど。
あたしはたいてい、翅から。
軽く撫でるように、布を滑らせる。
ごしごしと強く擦ったところで、翅自体には痛いとか感触は無いけど。
半透明なこれは、もともとあんまり汚れてるようには見えないし、目立つとこだから痛んだらなんか嫌だものね。
鏡があれば、直接見えないとこも確認できて便利。
裏や背中の生え際まで、丁寧に汚れを落としてく。
気にしなくたって、わからないかもだけど。
……見せるヒトが居るから、手は抜き辛いよね。
布を絞って綺麗にし、身体の方も拭いていく。
女の子の凹凸って、実はけっこう面倒で……。
全体を軽く拭きつつ思う、いつもの愚痴。
けど今日は、少し違う。
鏡と一緒に持ってきた小さな四角い塊。
それは、村で買ってもらった石鹸。
――これが、特別のひみつ。
しかも……花の香りがついてるちょっと高めの。
息をすっと吸って、その香りを楽しむ。
買ってもらったことと、香りに身を染める期待と。
ひょっとしたら気づいてくれるかも、なんて思うと……。くすぐったい。
石鹸と一緒に、布巾を水に浸して擦る。
わぁ、あわあわ……。
生み出した虹のあぶくを見ながら、泡ごと身体に布を当てる。
初めは胸の下とか脇とか、そういう見えないけどちょっと気になるところ。
泡によって、布は身体の上を軽く滑ってく。
痛くなる感じがないし、ベタつきも取れるし、何より香りがいいのがいいなぁ。
ふんふん、と鼻歌を歌いながら、ごしごしと身体を擦っていく。
全身が泡と、それから香りに包まれる。
なんか……いつもより、楽しい。
石鹸を使うだけで、ちょっと仕事めいていた身体拭きが遊びみたいになる。
楽しくなってきたのでリボンも髪も解いて、そっちも洗ってしまう。
確か、髪も洗えると言ってた気がするし。
長い髪に石鹸を使えば、もうあたしは完全に泡の塊。
ぴくぴくと翅を動かすと、生まれた泡が宙に舞う。
いつもなら、濡れたらべたっとまとわりつくだけの髪も。匂いと泡を纏った今だけは気にならない。
ぺたぺたと少し歩いて、くるっと回る。
長い髪が振り回されて、少し泡が飛んだ。
滑った足元を翅が支える。
その翅の動きもまた、泡になる。
あぁ、とっても楽しい。
無意味にくるくる回ったり、身体を動かしたり、泡を集めて飛ばしたり。
香りに包まれたまま存分に、心のままに振舞って。
あたしに咲いてる輝く丸い泡の花、それを宙に浮かせて遊んだ。
◆◇◆◇
――そして……
「レイジー!
今日のあたし、どうかな?」
わざわざ彼の頭の周りを2周まわってから、顔の真ん前に浮かぶ。
いつもよりちょっとだけ、彼に近い。
気づいてくれる?
そうだったら、もちろん素直に嬉しい。
……でもね。気づかれなくても。
今日は、距離を埋められる理由が味方。
そっちの方が、重要かもしれない。
纏った花の香りに、無いはずの蜜を感じる。
彼の視線をわざと横切って、肩に留まる。
そこで目を閉じれば、感じる、彼の息遣い。
いつもよりほんの少しだけ距離を詰める。
振り向かれたら、もう頬が――。
……だから、あたしは少し背筋を伸ばし。
想いを迎えにいく為に、そっと身体を傾かせた。
――ふわり解いた髪が触れてしまいますように。




