表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

01. オーブンでパンを焼いたら、中でバトルロイヤルが始まったはなし

毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。

※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)

挿絵(By みてみん)

(挿絵: オーブンを覗くスフレ。平和なひととき。(使用ツール:ChatGPT Image Generation))



◆◇◆◇



「なんでぇーー!?」



 あたしは髪を頭ごと抱えて、絶叫した。

 覗き窓の向こうでパン達が――戦ってる。


 何をどう間違ったのか。オーブンの中で始まったのは、パンゴーレム同士のバトルロイヤルだった。


 みんなで斬り合い、突きあい、潰し合い。

 敗れて動けなくなるごとに、発火し炭になっていく。



 オーブンの中は酷い惨状、いや戦場になってる。

 あたしはただ、朝ごはんを作りたかっただけなのに!


 ――こんなことになったのは、なぜなのか?

 あたしは頭を抱えつつ、思い返して考える。



◆◇◆◇



 朝。レイジの起きる時間の少し前。

 あたしは、既にキッチンにいた。



 ここに居るのは、つまみ食いでもお腹が空いた催促でも無い用事。いや、おしごと。


 ――だって、今朝は。あたしがご飯の準備!



 昨日、珍しくやる気になってレイジに提案し。

 朝ごはんの主役たる準備、パンを焼くという大役をあずかった。


 ……いいでしょ?第一歩は小さくからなんだから!



 パンは、小ぶりで抱えやすいやつ。

 レイジが昨日寝る前にいくつか準備してくれてた。



「だからもうあとは。焼くだけだねー!」



 いつもレイジがやってるように、マッチで薪に火をつける。

 火魔法が使えればもっと早いんだけど。

 彼もあたしも、そっちの適性はからっきし。



 ……こんなものかな。


 火がついたのを確認して、宙に翔び上がる。



 さて、と。

 フライパン、どこにしまってるんだっけ……?



 くるくるとキッチンを彷徨って……、

 重いし下かなって思って、キッチンの下の引き出しとかを手当たり次第に開けてみるけど、影も形も全然ない!!



 うー!

 火はちゃんとついてるし、いい感じなのに……。


 かといって、直火はもちろんダメだって、それはあたしでもわかる。

 燃えるよね。当然ながら。



 うーん、と頭を抱えながら、コンロの周りを一回りして……。



「ん……?」



 目についたのは、コンロのちょうど下のもの。

 横開きの鉄の扉の奥に広がる空間だった。


 そーいえば、オーブンって言ってたっけ。

 たしか、こっちでも肉とか魚とか焼いてた気がする。



 中を覗けば、ちょうどいい感じに穴あきの鉄の載せ台があって、フライパンとか要らなそう。

 見れば、共通の火でいける構造だし。


 ……こっちを使えばいいんじゃない?



 熱が伝わってくる前に、急いでパンを中に並べる。


 そして、蓋を――



「ふぬぬぬ……!」



 お、重い……。


 錆びついてるのか、もともとそういうものなのか知らないけど。

 扉はなかなか動かない。



 こうなったら……。


 空中から助走をつけて、体当たり。

 ばんっ、と音を立てて、漸く扉が閉まる。



「……あれ?」



 ふと、鉄の扉の真ん中に、何か飛び出してるのに気づいた。


 一瞬、壊したかと思って肝が冷えたけど。

 近づいてみたら、小さな扉。


 覗くと並べたパンがよく見える。

 これは多分、オーブンの中を見るための覗き窓。



 ……なるほど。おっきな扉をいちいち開けなくてもいいんだー。

 ヒトの道具も、よく出来てる。


 この小さなのぞき窓ならあたしでも簡単に開け閉めできた。



「じゃ、あとは待つだけだねー。」



 火の世話もする必要もないので、ふんふんと鼻歌を歌いながら空中を回る。



 レイジ、早く起きてこないかなー。

 パンの焼けるいい匂いが漂ってくる。



 さて、そろそろいいんじゃ無い?


 覗き窓から中を見る。

 うんうん、なんかいい感じ。


 さて、取り出そうと思って、扉に触れた。



 ――っ!?熱っつー!



 指を押さえて、翔び離れる。

 鉄の扉は、フライパンかと思うほどの熱。



 ……そっか。そういえば、レイジもこれを触るのに手袋をしてたような。


 ふと壁を見たら、その時に使ってた分厚い手袋。


 ……と、ついでに、こんなとこにフライパンもあった。

 上かぁ。壁に吊るす発想はなんてなかったし。



 手袋は、とってみるとあたしがすっぽり入りそうな大きさ。

 サイズ的に使うのは、かなり厳しいってわかる。

 布が厚すぎて、端っこを使うにしたって、ものをうまく掴めない。


 でも一応、扉に触れるから開けれないかなって試して……



「…………あっつっ!……。」



 無理。

 そもそも、閉める時に苦労してる扉だから、開ける方でもびくともしない。

 取っ手をなんとか引こうとして、鉄の扉に翅や足を触れかけた。


 ああ、こんなに手間取ってたら……。


 覗き窓から見たら、やっぱり!

 パンは端からチリチリと茶色になり始めてた。



「ああああ……」



 覗き窓から飛び込むとかは絶対無理。

 さっき届かないかなって手を伸ばして、熱さに引っ込めたところ。

 中に入ったりしたら、パンを出す前に妖精の姿焼きが出来上がる。



 せめて尖った槍みたいな棒とかがあれば……。

 見回すけれど、そんな都合の良いものなんてあるはずも無く。

 今から火を消したところで、熱は消えないから間に合わない。


 ダメになるパンを見てるだけなんて……!

 ……ああ。パンが自分で動いてくれたら……。




 ――ああ、そっか。その手があったー!


 急いで魔法を組み上げて、見えてるちょっと焦げてきたパンたちに発動させる。

 自ら動けるようになる、即ちゴーレム化の魔法を。



 ……あれ?奥のパン、もう炭になってない!?



「命令は、えっと……、あぁ、燃えてる!?

ああ、もう、どうかひとつだけでも、最後まで生き残れぇー!」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――目覚めた。


 我のいた場所は、閉ざされた鉄の部屋。

 今の環境は、かつて無い程に過酷。


 全身を包むのは、今にも発火しそうなほどの熱。

 与えられた魔力で覆えども、焦げは瞬く間に硬い外皮のようになっていく。


 周囲で動くのは、我と主を同じにする同胞が6つほどか。

 ……いや、ひとつは生まれず燃えて脱落していった。



 与えられた主命を、反芻する。

 今度の彼女の望みは、なかなかに手厳しいものだ。


 だが……。ああ、遠くに見える主の。

 金髪の妖精(ひめ)の縋るような眼差しを受け、己が鼓舞される。

 周囲の同胞も、おそらく我と同じ気持ちであろう。

 

 だが……。

 ……我は。硬く黒い拳を硬く握り込む。



 その行為が。合図。

 我々は自ら産んだ武器を手に、にじり寄り、間合いを取り合う。

 そして我は自慢の拳を振り下ろし、隙を見せた同胞を、躊躇のひとつすら見せず屠ってみせた。



 ――さぁ、主命の達成を。


 加減など許されぬ。我らの中で残るのは最強(ただひとつ)のみ。

 それが我々に等しく与えられた、彼女の唯一の望みなのだから――!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「なんでぇーー!?」


 あたしは、やっぱり頭を抱えた。

 思い返してみたものの、さっぱりわからない!

 


 あああー!またひとつー!


 朝ごはんが消えていく勿体無さに、昼までおあずけになるだろう切なさに、涙がちょちょぎれる。


 硬く丸くなって火が消えるまで耐えろって命令すればよかったー、なんて思っても後の祭り。

 一度下した命令は解除不可能。ゴーレム化も同様に即時解除なんて無理だった。



「……朝から騒がしいな。何してるんだスフレ……。」



 そんな中、救い主は寝ぼけ眼で現れた。

 あたしはその、黒髪黒目の頼れるヒトの魔法使いに全速力で飛びつく。



「レイジぃー!助けてぇー!

パンが。パンがね!潰しあってるのー!」


「……はぁ?」



 ◇◆◇◆



 ……苦い。

 残念ながら、生き残らなかったパンを齧ってみて思う。



「無理だろ、それ。真っ黒だぞ。」


「そうだよねぇ……。」



 勿体なさからやってみた行為だけど。

 ちょっと食べれる味じゃなかった。


 ただひとつ生還したパンを。作ったゴーレムを眺める。

 あたしの作るゴーレムは、みんな石ころに手足のついたような、耳や口どころか顔のないやつ。

 いまや片腕も無くなってるそいつは、どうしてかあたしが見つめてるのに気づいたらしく、敬礼するように腕を動かすとそのまま動かなくなった。


 指で突いたら、こてんと倒れる。

 どうやら、込めた魔力が尽きたみたい。



「じゃあ、食べるか。」



 レイジがナイフと皿を持ってきた。


 魔力が抜ければ、ただのパン。

 もちろん普通に食べられる。



 あーあ、たったひとつかぁ。

 思って眺めて、ふと気づく。



「……レイジ。やっぱり最後のひとつはあげるね。」


「なんで?分けたらいいだろ?」



「わわ!?だめ、だめだから、切らずにそのまま食べてよー!」



 ナイフで分けようとした彼を止める。

 ――だって。パンのその形。



 片腕を球にしたゴーレムが、同じく丸い体で敬礼して作ったその形は……。


 ハート形。



 歪で少し焦げてるけれど。壊してしまうのは、なんとも勿体無い。



「ささ、食べて食べて……。」



 レイジは、不思議そうにしたけど。

 勧めるあたしに根負けして、ハートのパンをひと齧りする。



「美味しい……?」


「ん?まぁ、普通のパンだが……。」



 色気のない返答を口にしたけれど。

 じっと見つめるあたしを見て、咳払い。



「美味いよ。ありがとう。」



 そして頭をちょっと撫でてくれた。

 気持ちのお裾分けを貰って、あたしも笑顔になる。


 頭を撫でる指に頬擦りをして、甘えて。

 長い髪に隠れて、当たったふりで、唇でそっと指に触れる。


 気づかれないうちに、すぐに引っ込めたけど。

 炭になったパンの苦い味、その奥に甘さを感じて。人差し指で確かめる。



 ……そんな仕草を、気づけば彼に見られてたから。

 バレたかなって思っちゃって、顔が赤くなってくる。

 そんな赤い顔のままレイジの瞳を覗き込み、感情を伺おうとしたら。ふいと目を逸らされた。


 咳払いが返って、ぽつりと言葉が返される。



「……でも、オーブンは冷えたらちゃんと掃除な。」


「ええ!?せっかく綺麗に終わったのにー!」



 抗議の声は、優しく手のひらで掴まれて。

 彼の指と触れ合いながら、あたしの朝の時間は温もりと一緒に過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ