またねと言った夜
外からバイクの音がして目が覚めた。
時計を見ると三時半
「新聞かな?」
一人囁く、うちは新聞を取ってないけど、アパートの人が取っているんだろう
コンコンコン控えめなノックの音が、静かな部屋に響く。
こんな時間に誰が?
と思いながらドアスコープを覗く、いつも一緒に遊んでいる花音だった。
慌ててドアを開ける、
「こんな時間にどうしたの」と訊ねると、人差し指を唇の前で立て「しーーっ」
と言われた
「とにかく入りなよ」
と言うとまた「しーーっ」
花音は部屋に入ってきた。
かのんはやっと落ち着いたようで
「こんな時間にごめんね」
「たまたま起きてたから、大丈夫」と言うと。
「あのねこれ借りてたまんまなの思い出して」と二人で何度も観た映画のを渡された。
「ああ、これ忘れてたよってこんな時間にそれが用事じゃないよね?」
すると花音は
「あのね深くて、冷たくてここに来たの、でもここに来たらまた少しだけ温かくなったよ」
と意味のわからないことを言う。
「ふうん、それなら良かったけど」
「良くはないんだなあ、でもまあ仕方ないよね」
「良くないのに仕方ないって?大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫、やっぱり優奈のところに来てよかったよ」
と言いながらにいっと笑う花音。
「良かったならいいけど」
と二人で目を合わせて、ふふふと笑う。
「あ、そういえば珈琲と紅茶どっちがいい?」
花音は「それがお腹ごろごろでさ今は飲めないの」
と言うので「一応ね」
と言いながら紅茶をそれぞれの前に置いた。
花音は「ああ、これが最後の晩餐か」
と言うと一口、二口、と紅茶を啜る。
「相変わらず優奈は紅茶入れるの上手いよねえ、すごく美味しい」
「お褒めに預かり恐縮です」
ふふふ、ふふふふ。
また二人で笑い合う。
外から突然雨の音がしだした。
「あああ、この雨でもっと遠くに流されなきゃいいけど」
「何が?」
「ううん、お昼頃にはわかるかな」
「そっか」
「そうなんだあ」
相変わらず花音は話のテンポが遅い。
「そういえば、今日バイクで来た?」
「うん、用事があったからね終わってからバイクで来たよ」
それから少し沈黙が降りた
花音が「ねえ、優奈といる時間が大好きだよ」
「なんだよ急に」
「言っておきたかったんだ、じゃあそろそろ帰るね」
「雨が止むまでいなよ」
「行かなきゃいけないんだ」
「ほんとに気をつけてよ、帰り道事故に遭ったなんて洒落にならないからね」
「うん、大丈夫、もう大丈夫だから」
花音は「お邪魔しました」
と言いながら外に出る。
「またね」
「うん、またね」
花音はバイクに跨り走り去っていった。
私は玄関の鍵をかけテーブルの上を見る、花音が飲んでいた紅茶は一滴も減っていない。
もう一度眠るためにベッドに入る。
しばらくして、眠りに落ちていった。
翌日たまたまつけたテレビでニュースをやっていた。
元彼に騙されて呼び出され、バイクに細工され崖の下に落ちて死亡した「山中花音さん」
元彼は花音と復縁したくて、半ばストーカーとかしていたが、殺害の意思があって犯行に及んだという。
テーブルの上の紅茶は、蒸発して少し減っている。
あの時話してくれてたらもっと歓迎できたかな?
夜中の三時半じゃ無理だろうな。
私は静かに泣いていた。




