5. 校内怪談は本物です
答案流出事件は解決したものの、生徒会にはすぐ次の問題が舞い込んできた。今度は学校中で広がり始めた奇妙な噂だ。夜の旧校舎に「人影」が現れ、生徒のスマートフォンを奪うという怪談。もちろんほとんどの生徒はただの噂だと思っている。しかし秘密組織の生徒会にとって、放置できない問題だった。そして蒼は再び任務に巻き込まれる。
「幽霊?」
僕は思わず聞き返した。
生徒会室の裏司令室。
黒瀬が資料を机に並べている。
「最近広がってる噂だよ」
凛はモニターを見ながら言った。
「旧校舎の廊下に人影が出る」
「それでスマホを奪う」
僕は首をかしげる。
「幽霊がスマホ盗むんですか?」
黒瀬が笑う。
「面白いよね」
凛は真顔だった。
「面白くない」
彼女はモニターを操作する。
そこには校内掲示板のスクリーンショットが映っていた。
【旧校舎の幽霊マジでいる】
【スマホ取られた】
【誰か通報して】
僕は眉をひそめる。
「これ本当なんですか?」
凛は短く答えた。
「分からない」
「だから調べる」
そして僕を見る。
また嫌な予感。
「雑用係」
「はい」
「旧校舎に行く」
「え」
「今夜」
「今夜!?」
黒瀬が肩をすくめる。
「安心して。会長も行くから」
それでも怖い。
夜の旧校舎なんて、普通に怖い。
でも任務は任務らしい。
夜七時。
僕と凛は旧校舎の前にいた。
空は暗くなり始めている。
旧校舎は昼でも少し不気味なのに、夜だとさらに怖い。
「本当に行くんですか……」
僕が言うと、凛はため息をついた。
「今さら何を言ってるの」
「だって幽霊ですよ」
「幽霊より怖いものはいくらでもある」
凛はドアを開けた。
ギィ……
古い音が響く。
廊下は暗かった。
懐中電灯の光だけが頼りだ。
僕は凛の後ろを歩く。
すると凛が言った。
「近すぎ」
「だって怖いです」
「任務中」
それでも僕は離れなかった。
しばらく歩く。
何も起きない。
静かすぎる。
そのときだった。
廊下の奥で何か動いた。
「……!」
僕は思わず凛の腕を掴む。
影が動いた。
確かに誰かいる。
そして突然――
走り出した。
「会長!」
僕が叫ぶ。
凛はすぐ反応した。
「追う」
凛は走り出す。
僕も必死で追いかけた。
旧校舎の廊下を走る影。
懐中電灯の光が揺れる。
そして曲がり角で凛が追いついた。
「止まりなさい」
影は止まらない。
凛は一歩踏み込み、腕を掴む。
「きゃっ!」
女子の声だった。
僕は驚く。
懐中電灯の光が顔を照らす。
そこにいたのは――
一年生の女子だった。
彼女は怯えた顔で震えている。
「す、すみません!」
僕は混乱した。
「幽霊じゃない……?」
凛はため息をついた。
「当然」
女子生徒は泣きそうだった。
「スマホ……拾ってただけなんです」
話を聞くとこうだった。
この子は落とし物を探していた。
旧校舎の前にスマホが落ちていることが多く、拾って届けていたらしい。
しかし暗い中で姿を見られ、噂になった。
つまり。
幽霊の正体はただの生徒だった。
僕は安心して笑う。
「よかった……」
凛は腕を組んだ。
「紛らわしいことをするから」
女子生徒は頭を下げる。
「すみません……」
凛は少し考えた。
そして言う。
「もう夜は来ないこと」
「はい!」
女子生徒は何度も頭を下げて帰っていった。
静かになった旧校舎。
僕は大きく息を吐いた。
「怖かった……」
凛が呆れた顔をする。
「あなた本当に弱いわね」
「普通ですよ」
「普通は叫ばない」
「叫びます!」
言い合いになる。
そのときだった。
突然。
窓がガタンと鳴った。
僕は思わず凛にしがみつく。
「うわああ!」
凛は固まった。
数秒の沈黙。
やがて小さく言う。
「……離れなさい」
「無理です」
「任務中」
「でも怖いです!」
凛は顔を赤くしていた。
「あなた……重い」
僕は慌てて離れる。
そのとき黒瀬から連絡が入った。
「任務どう?」
凛は答える。
「解決」
そして僕を見る。
「帰るわよ」
旧校舎を出ると、夜風が涼しかった。
僕は少し笑う。
「でも会長」
「何」
「さっきちょっと怖そうでしたよ」
凛は即答した。
「してない」
「してました」
「してない」
その声は、少しだけ早かった。
第5話では学校に広がる怪談の正体を追いました。緊張感のある任務の中で、蒼の怖がりな性格と凛の意外な一面が少しだけ見えた回でもあります。二人の距離は少しずつ近づいているようで、まだ素直になれないままです。次回は、生徒会副会長・黒瀬の思惑が動き出します。




