2. 生徒会室の裏扉
秘密組織の生徒会に雑用係として加入させられた僕。しかし仕事内容はまだよく分からない。厳しくて怖い生徒会長・白崎凛は相変わらず僕にだけ当たりが強い。そんなある日、僕は生徒会室の奥にある“裏扉”の存在を知ることになる。そこは、この学校のもう一つの顔へと繋がる入口だった。
雑用係になって三日目。僕はまだ状況を理解しきれていなかった。
生徒会は普通、校則の管理とかイベント運営とか、そういう仕事をする場所のはずだ。けれどここは違う。
「遅い」
放課後の生徒会室。机の上に書類を置いた瞬間、白崎凛が言った。
「雑用係。報告書は三分前に提出するものよ」
「まだ締切じゃないですよね?」
「私の基準では締切よ」
理不尽だ。
副会長の黒瀬が隣で笑っている。
「まあまあ蒼くん。会長は仕事が早い人が好きなんだよ」
「そういう言い方は誤解を生む」
凛は即座に否定した。
「私は効率を求めているだけ」
そう言いながら書類をめくる姿は、本当に完璧な生徒会長そのものだった。
僕は机を拭きながら小さくため息をつく。
すると黒瀬が僕に近づき、小声で言った。
「蒼くん、今日は本当の仕事を見せてあげよう」
「本当の仕事?」
「うん。君はもう“こっち側”だからね」
その言葉の意味を聞く前に、凛が立ち上がった。
「時間よ。行くわ」
凛は生徒会室の奥の壁に向かって歩く。
そこには本棚があるだけだった。
しかし彼女は本棚の横に手を伸ばし、何かのスイッチを押した。
カチッ。
小さな音。
次の瞬間、本棚がゆっくり横に動いた。
その奥には――
鉄の扉。
「……え?」
僕は思わず声を出した。
黒瀬が肩をすくめる。
「驚いた?これが“裏扉”」
凛は鍵を取り出しながら言った。
「ここから先は生徒会の機密区域。雑用係でも、勝手に入れば処分する」
「処分って……」
「退学」
さらっと言うな。
鍵が回り、扉が開いた。
その向こうは、普通の学校とは思えない空間だった。
壁一面にモニター。
棚にはファイル。
中央には大きな机。
まるで小さな司令室だ。
「ここが……生徒会?」
「裏のね」
黒瀬が言った。
凛は机の前に立つと、モニターを操作する。
画面には校内の地図が表示された。
「現在の問題は三件」
彼女は淡々と説明する。
「購買の在庫不正、テスト答案の情報流出、そして……」
画面が切り替わる。
校門の写真。
「外部生徒の不法侵入」
僕は目を瞬かせた。
「え、警察じゃないんですか?」
凛は呆れたように言う。
「学校内の問題は、まず学校で処理するものよ」
「それが生徒会?」
「そう」
黒瀬が笑う。
「この学校の生徒会は、ちょっと特別なんだ」
僕はモニターを見つめた。
普通の高校の仕事じゃない。
それでも凛は真剣だった。
「雑用係」
「はい」
「あなたの最初の任務を与える」
「任務?」
嫌な予感しかしない。
凛は地図の一点を指した。
「図書室前の廊下。最近、生徒の財布が消える事件が起きている」
「泥棒ですか?」
「たぶんね」
彼女は僕を見る。
「あなたが囮」
「え?」
黒瀬が爆笑した。
「いいね、それ」
「ちょっと待ってください!」
僕は慌てて言った。
「なんで僕なんですか!」
凛は即答した。
「雑用係だから」
ひどい理由だ。
しかし凛は真剣だった。
「安心しなさい。私が監視してる」
「それでも怖いです!」
凛は少し考え、ため息をついた。
「……大丈夫よ」
その声は少しだけ柔らかかった。
「私がいる」
僕は一瞬言葉を失った。
そして気づく。
この人は――
本気で学校を守ろうとしている。
「……分かりました」
僕は言った。
凛はうなずく。
「よろしい」
黒瀬がニヤニヤしながら言った。
「青春だねぇ」
「違う」
凛は即答した。
「これは任務」
しかしその耳は、少し赤かった。
第2話では、生徒会の秘密組織としての本格的な姿が明らかになりました。主人公が見た「裏扉」は、この物語の世界を広げる重要な入口でもあります。まだまだ蒼は振り回されるばかりですが、少しずつ会長・凛の本当の姿も見え始めます。次回は、蒼の初めての任務が始まります。




