10. 偽装恋人作戦、開始
文化祭の極秘任務は無事に終わった。しかしその裏で、副会長・黒瀬はある「作戦」を考えていた。それは文化祭の混乱に紛れて起こる可能性のあるトラブルを防ぐためのもの――そして同時に、蒼と凛の関係を大きく動かす計画でもあった。黒瀬の悪い笑みの理由を、蒼はまだ知らない。
文化祭はまだ続いていた。
校庭ではステージイベント。
教室では出店。
学校中がお祭りだ。
僕は校舎の廊下を歩いていた。
そのときスマホが震える。
黒瀬からメッセージだった。
生徒会室に来て。緊急任務。
僕はすぐ向かった。
生徒会室の扉を開ける。
中には凛と黒瀬がいた。
黒瀬は相変わらず笑っている。
「来たね」
僕は聞いた。
「何かあったんですか?」
黒瀬は机に座りながら言う。
「いや、大事件じゃない」
凛は腕を組んでいる。
明らかに機嫌が悪い。
「黒瀬」
低い声。
黒瀬は笑う。
「まあまあ」
そして僕を見る。
「蒼くん、作戦がある」
「作戦?」
黒瀬はホワイトボードに書いた。
偽装恋人作戦
僕は固まった。
「え?」
凛は顔を赤くしている。
「だから言ったでしょう」
黒瀬は説明する。
「文化祭は人が多い」
「トラブルも起きやすい」
「だから会長には護衛が必要」
それは分かる。
でも。
「恋人?」
黒瀬はうなずいた。
「恋人同士なら自然に一緒にいられる」
「護衛としても完璧」
僕は凛を見る。
凛は完全にそっぽを向いていた。
「却下」
小さく言う。
黒瀬は肩をすくめる。
「でも合理的だよ?」
凛は黙る。
僕は言った。
「僕は別にいいですけど」
その瞬間。
凛がこっちを見た。
「本気?」
「任務なら」
凛はしばらく黙っていた。
やがて言う。
「……期間限定」
黒瀬が笑った。
「決まり」
僕はまだ状況を理解していない。
黒瀬は楽しそうだった。
「じゃあまず」
僕たちを見る。
「手を繋ごうか」
凛が固まる。
「必要ない」
「自然さが大事」
黒瀬は笑う。
「周りから見たら恋人だからね」
僕は少し戸惑う。
凛はしばらく動かなかった。
やがて。
ゆっくり手を差し出した。
「……任務」
小さく言う。
僕はその手を握った。
凛の手は少し冷たかった。
でも柔らかい。
凛は顔を赤くしている。
黒瀬は満足そうだった。
「いい感じ」
僕たちは廊下へ出る。
手を繋いだまま。
通り過ぎる生徒たちが見る。
「え?」
「会長?」
ざわざわする。
僕は少し恥ずかしかった。
凛はもっと赤くなっている。
「離す?」
僕が小さく言う。
凛は即答した。
「離さない」
そして言う。
「任務中」
その声は少し震えていた。
僕は思わず笑う。
「何」
凛が睨む。
「いえ」
でも僕は思った。
この任務――
なんだか少し楽しい。
第10話ではついに「偽装恋人作戦」が始まりました。黒瀬の策略によって、蒼と凛の距離は一気に近づくことになります。文化祭の賑やかな雰囲気の中で、二人の関係も大きく動き始めました。次回は物語のクライマックスに向かう重要な回になります。




