一度死んだ彼女と、二度目の恋愛を。
11月20日、俺の彼女の佐々木春香は死んだ。死因は交差点でのトラックとの衝突事故だったらしい。詳しい事は分からないが、駆けつけた先にいた警察の方に話を聞くと、トラックの運転手の居眠りによって赤信号に気づかず、止まらずにそのまま轢いてしまったそうだ。そのまま、すぐに病院に運ばれるも、助からなかったそうだ。その事を俺は呼び出された病院に着いてから医者に知らされた。初めてその事を聞いた時は、その事を受け入れる事が出来なかった。ほっぺたも何度もつねったが、どれも痛かった。多分、泣きながらつねっていたんだと思う。正直、その時のことは覚えていない。唯一覚えている事は、その次の日が俺たちの結婚式の日で、キャンセルの電話を式場に掛けた事ぐらいだ。
その数日後、彼女の葬式が行われた。もちろん、俺も参加した。葬式には彼女の両親や俺の両親、彼女の友達や妹が参加していた。
式中は、俺を含む参加した人全員が涙を流していた。そこで、俺は彼女の両親と話した。彼女の両親は、自分たちの方がよっぽど辛いだろうが、俺の心配ばかりしてくれていた。
3月3日、元彼女の誕生日だ。「帰りにケーキでも買って帰るか」などと考えていると、スマホにメールが来た。差出人は不明、内容は、『傘持って行った方が良いよー』と言う文だった。それを見てスマホの天気予報を見ると、1日中晴れだと書いていたので、傘は持って行かなかった。仕事終わり、ケーキを買ってに店から出るとると、「降ってきやがった!」結局、濡れて帰ることになった。またメールがきた。差出人は朝と同じだった。『ね?言ったでしょ』と送られてきた。「あぁ、その通りだ。」と独り言を言って買ってきたケーキ食べ、寝た。
次の日の朝、昨日の人からのメールは来ていなかった。少し寂しいような気もするが、気のせいだろう。その日は、普通に仕事の準備をして、会社に行った。
結局、1日中メールが届くことは無かった。
またその次の日もその次の日もメールが届くことは無かった。
その週の休みの日、やる事が無く暇だったのでこっちからメールを送る事にした。が、どれだけ探しても送り主のアドレスが見つからない。あれ?と思いながら履歴などもチェックしたが、どこにも彼女との会話履歴が無かった。アプリのタスクキルやスマホの再起動なども試してみたが、全て失敗に終わった。
結局、分からないまま週の休みが終わった。
休み明けの月曜日、憂鬱な気持ちで会社に行く準備をしていると、その時は突然来た。
『久しぶり〜元気してた?』余りにも突然だったのでびっくりして心臓が鳴っている。
返信しようと思い、メールのアプリを開いたが、そのメールは無かった。スマホの通知欄からも消えている。
多分なんらかの理由でこちらから返信ができないようになっているのであろう。ただ、そんな事はあるのだろうか。謎だったが、会社には行かないと行けないので、会社に行った。
何事もなく仕事を終え帰宅すると、メールが届いていた。
『今日もお疲れ様』
と書かれていた。が、案の定返事は出来ない。送られてきた瞬間にアカウントが消えているみたいだ。この瞬間、俺の夢がこの人に返信をする事になった。が、その夢は案外早く達成した。
次の日の朝、いつものアカウントからメールが来た。
『おはよ〜』
俺はこの通知が来た瞬間にその通知を押して開く事にした。見事、その作戦は成功し、
『あ』だけだが送る事に成功した。その事は相手にとって予想外だったようで、
『えっ!?』といつも送ってくる文と違った感じになっていた。この事によってこちらからもメッセージを送れるようになった。
なので、
『これからもよろしくな』と送ってみた。すると、すぐに『こちらこそよろしくね』と帰ってきた。少しだけ返信してくれないんじゃ無いかと思っていたが、杞憂だったようだ。
ふぅと一息ついて時計を見ると、いつも出勤する時間ギリギリまで迫っていた。
「やべっ!」と言いながら焦って準備をし、出発した。少し出る時間が遅くなってしまったが、駅までの道を走る事でリカバリーする事に成功した。
危ねぇ…なんて思いながら席に着くと、隣の席の田中早香が、「どしたの?少ししんどそうだけど」と聞いてきた。彼女は俺と同い年で、仕事でもよく頼りにさせてもらっている人だ。聞かれたので、「朝出るのが遅れちゃって」と返すと、「ふーん」と興味なさげに返してきた。コーヒーを飲んで落ち着くと始業時間になっていたので仕事を開始した。その後は特に何かあった訳でもなく、仕事が終わった。電車に乗って帰宅していると、
『今日も一日お疲れ様』といつもの連絡先から送られてきたので、『そっちもお疲れ様』と返信しておいた。
だが、ここである事に気付いた。
連絡先が消えているのだ。もちろん、他の人の連絡先は残っているのだが、あの人の連絡先だけが消えていた。あれ、おかしいなと思いながら連絡先を何度も探すが、見つからない。さっきまでは返信できていたのに。スマホの再起動なども試してみたが、無駄だった。連絡先を削除した記憶も無い。この時はまだ電車に乗っていたので、家に帰ってからもう一度考える事にした。しかし、家に帰ってからも何一つわからなかった。
その日は、早く寝る事にした。
次の日、目覚ましではなく、通知音で目が覚めた。
「なんだよぉ…こんな朝早くに…」
と呟きながらスマホを覗くと、相手はあの連絡先だった。
内容は、『おはよー』とか言ういつも通りの内容だった。しかし、通知の所を何度タップしても、会話画面に行くことが出来ない。
前と同じ状況だ。もしかして、会話できるのは送られてきた時と同時にタップした時のみかもしれないと思い、通知が来るのを待ってみても、来なかったので、その日は普通に出勤した。社内でも来るかと思いながら仕事をしていたが、結局その日は来ずに終わった。
「まあ、気長に待てばいいか」と思いながらその日は寝た。
次の日、朝目が覚めると、体がいつもより熱くなっていた。「熱かぁ?」と思いながら熱を測ると、やっぱり熱があった。
会社に休むと連絡を入れ、病院が開くまで熱冷ましのシートを額と脇に貼って寝た。その後、病院に行って薬を貰った。病院に行くなんていつぶりだろうか。記憶では風邪で行ったのは数年前な気がする。それまでは、
彼女が看病とかしてくれたので病院に行く必要がなかったのだ。しかし、その彼女はもういない。この事を考えているうちに少し涙が出てきた。
いつもなら直ぐに泣き止むことができるはずなのだが、今日はできない。
一人で泣いていた。
今は何時だろうか。起き上がってスマホの画面をつける。時間を見ると、もう夕方になっていた。「だいぶ寝ていてんだな」と呟く。寝たことで体もスッキリしていた。熱を測ってみると、熱が平熱に戻っていた。「よかったぁ」と思う。 今日1日なにも食べていないので腹が減っていた。買いに行くのも面倒なので、冷蔵庫を漁る。
すると、うどんがあったのでそれを食べることにした。簡単に調理をすまし、テーブルに運ぶ。
「いただきます」と呟き、箸で麺を掴み、一口啜る。いつもの味で美味い。
ただ、その味も、再現することはできない。
一人になってからありがたみに気づいたのでは遅い、ということは前々からわかっていたつもりだったが、完全には理解できていなかったようだ。
そんなことを思いながら麺を啜っていると机に置いてあったスマホが振動した。
「誰だ?」と思いながらスマホを見る。メールが送られていた。通知をタップする。
送ってきたのはあの人だった。急いでメール画面を開く。内容は
『風邪大丈夫?』というものだった。急いで文字を打つ。今回は間に合った。
『何で知ってるの?』と送る。数秒経って返信が来る。その内容を見て反射的に声が出てしまった。そのことについて聞こうと思ったが、すでにメール画面が消えていたので聞けなかった。「どういうことだよ…」と口から声が思わず漏れた。
今日は風邪なので早く寝ようと思ったが、あの内容が頭に残ってなかなか寝付けない。なので、ベッドの上でゴロゴロしていると、気づいたときには目の前が暗くなっていた。
「あ、秋太くんもうちょっとだけ待ってもらってもいい?メイクがいい感じにできなくてぇ…」と部屋の奥から話しかけられる。それに対して俺は「全然できるまで待つよ」と返す。その言葉を聞くと彼女の顔が安堵の表情になった。その待ち時間の間に荷物の最終確認をしておく。忘れ物がないことを確認できたので、彼女を待つ。
5分ぐらい経つと、「またせてごめんね。もういけるよ!」と彼女が言った。
「それじゃ、いこっか?」という発言に対し、彼女は「うん!」という元気一杯の返事をする。なんだか、この返事から元気をもらえそうだ。元気を受け取り、出発する。今日は11月14日。結婚式前最後のデートの日になっている。なので、お互いの思い出の場所を巡る予定だ。今日は天気も良く、こういった事をするには適した天気だ。
「あ、ここの公園懐かし~」と彼女が言い、それに気づき俺もその公園を見る。
そこは綺麗な広い都市部の公園ではなく、小さめの子供が遊ぶ用のブランコや滑り台などが置いてあるどこにでもありそうな小さい公園だ。ここでどんなことをしていたかはよく覚えている。きっと、彼女もそうだろう。「ほんとだ。懐かしいね」
と言うと「でしょでしょ~!」と彼女が言う。「よくここのベンチで子供がいなくなってから2人でしゃべってたよね~」という懐かしいエピソードを話し合っていた。
「少し話さない?」という俺の提案に対して彼女がすぐに「私もそう言おうと思ってたけど先に言われちゃったぁ!」と返事した。2人で公園にあるベンチに並んで座る。まだ朝方だからなのか、人が少なく2人で話すのにちょうどよかった。
「うわー。ここに座ったの何年振りだろ~」「俺の記憶だと高2かな?」
「うわ、そんな前だっけ?」「俺の記憶だとそんな前だった気がする」
「年経つの早!」「ほんとにね」
などといった感じの会話を近くの自販機で買ったジュースを飲みながら話していた。すると急に今までとは違った穏やかな口調で、
「そういえば、私たちが初めて会った時も。仲が良くなって2人で話始めた時も。
秋太君が私に告白して1度振られた時も。諦めきれずにもう一回告白してきた時も。 ついに私がOKを出した時も。全部、この場所だったよね」と話し出す。
「振られた話はいいだろ…」と返すと、「ふふっ」と小さく笑う。
「これも全部。私たち2人の思い出だね」と彼女が言った。「ほんとだね」
と返す。その時の彼女は、いつもの彼女より妙に大人っぽく見えた。
時間がたつにつれ人が増えてきたので、移動することにした。
「次どこ行く?」と俺が尋ねると、春香は、「じゃあ、高校行かない?」
と言ったので、高校へ向かうことにした。 向かっている途中、通学路の木々に少しずつ色が付き始めていて、綺麗だった。公園から歩いて15分掛かるか掛からないかぐらいの時間で高校に到着した。すると春香が、「うわー!懐かし!」と言った。
グラウンドを外から見渡すと、サッカー部や陸上部が一生懸命練習し汗を流していた。頑張ってるなぁと思いながら練習を見ていると、春香が、
「私たちの頃の先生達ってまだいるのかな?」と頭を少し傾かせながら言った。
「どうなんだろ…」と言うと、後ろから誰かの気配を感じた。振り向いてみると、
予想外の人物が立っていた。
「よっ。2人とも。元気にしてたか?」その人物に春香が気づく。
「あ、鹿島先生!」と言うと、先生は「こんにちは」と挨拶をした。彼は俺たちが高校2年生の時の担任の先生で俺たち2人とも学年が上がった後もお世話になっている頼れる先生だ。
「鹿島先生、久しぶりです」と俺が言うと、「2人は何してるんだ?」
と先生は言った。するとその話を聞きつけた春香が「デートです!」
と元気に言った。先生の顔を見てみると、すごく驚いていた。
「君たち、まだ付き合ってたんだ」と発するぐらいだ。
ここで俺は彼女にあることを聞いた。それに対し、快くOKを出してくれたので、言った。「先生」と俺が言うと、先生が「どうした?」と言ったので、
「実は俺たち、来週結婚式挙げるんです」というと、また先生が驚いた表情をしていた。「おお、おめでとう!2人とも!」と自分事のように喜んでいる。その表情を見た春香が、「そうだ!先生も結婚式来ます?」と聞いた。すると先生は「俺なんかが行ってもいいのか?」と言いたいような表情になった。それを見て俺は
「彼女もそう言ってますし、是非来てください」と言った。それを聞くと、
「じゃあ行かせてもらおうかな」と言ってくれた。「じゃあ、また連絡します」
「おお。待ってるぜ」なんて返事をしてくれるのだから相当楽しみにしているのだろう。そろそろ時間も経ってきたので、「じゃあ、俺たちはこの辺で」と別れの挨拶をする。「おお。またな」とここで別れる。
「先生、相変わらずだったな」と俺が言う。その時に見えた彼女はさっきまでの元気そうな表情ではなくなっていた。それは、どこか具合が悪そうな、そんな表情だった。
「大丈夫か?どこか具合でも悪い?」と一言掛けてみる。すると、彼女が泣きながら言った。
「ごめんなさい…。私、やっぱり貴方と結婚する自信がないの。私と貴方じゃ、どう考えても釣り合わない…」「え…」と思わず驚いてしまった。フォローに回る。
結婚できないなんて、嫌だ。
「全然そんなことないって。だって今までだって俺たちうまく出来てたじゃん!」
「そんなんじゃないよ。ごめん。お金なら払うから」
と言って走ってどこかに行ってしまった。俺も走って追いかけようとしたが、頭の中が真っ白になってしまい、ここから直ぐに動くことが出来なかった。
「はっ!?」
目が覚める。枕元で充電していたスマホで時間を確認するも、まだ1時間半しか経っていなかった。悪夢で目が覚めるなんて経験なんて何年も生きている中で初だ。
あの事が夢だったのには少し安心したが、彼女と結婚できなかったのは変わらない。
もう一度眠りにつこうとベッドの上でごろごろしているとスマホが振動した。こんな時間に誰だ?と思いながらスマホの画面を開く。相手は、あの人だった。
『夢、大丈夫だった?』と送られている。夢のことまで知っているなんて彼女は一体何者なのだろうか。気になったので聞いてみることにした。幸い、まだやり取りは出来るようだ。なので、「なんで俺の夢の内容知ってるの?」と聞く。答えは、予想出来ないような内容だった。
『だって、私、君のカノジョだもん』
この答えを最後に、会話は終わっていた。
「一体何なんだよあいつは…」
次に目が覚めた時には、日が昇り始めていた。
次の日の朝、熱を測ると、36度台まで下がっていた。
一様薬を飲んで会社に向かう。朝の満員電車も1日ぶりだと言うのにやけに久々に感じる。そうして電車に揺られているうちに会社の最寄り駅に着いていた。会社に出勤すると、田中が
「大丈夫?」と一言掛けてくれた。それに対し「大丈夫だよ」と返す。
「あんま今週1週間ぐらいは無理しないほうがいいよ」「わかった。気を付ける」
なんて会話を2人でしている内に始業時間になっていた。
会社が終わり、帰るために駅へと向かっている途中、ポケットに入れていたスマホが振動した。
立ち止まって見てみると、あの人だった。
『ワタシについて伝えたいことがあるから今週の日曜日午後1時に駅前に来てね』
と言う連絡だった。
ついに会うのか。正直ちゃんと時間通りに来るかもわからない。どういう性格の人物かもよくわかっていないからだ。でも、普段休みの日は外に出ない俺でも今回の事は行ってみたいと思った。正直少し楽しみだ。
そして迎えた当日。少し早めに駅に着いたので、近くの見えやすそうな場所に立っておく。数分後、あの人からメールが来た。
『白いワンピースを着てて、スマホを触ってるのが私ね』
と目印になる情報が送られてきたのでその条件に合う人を探す。すると、それらしき人物が見えた。勇気を出して話しかけてみる。
「あの、すいません。待ち合わせをしてて、その特徴があなたに当てはまってたんで話しかけてみたんですけど…」「あ!ちゃんと来てくれたんだね。じゃあ早速近くの店入ろ!」
といった風に初対面にもかかわらず前からの知り合いのように話てくれている。俺としてはそっちの方が話しやすくて好きだ。そのままついていき、目的の喫茶店に入る。店内はお昼時ということもあってか、賑わっている。少し待ち、テーブル席へと案内される。さっと注文を済まし、話に入る。
「早速なんだけど、私の事について話すね」「おう」「じゃあ、言うね。多分何言ってるんだ?みたいな感想になると思うんだけど、実は」「…」「私、佐々木春香なの」
言葉が出なかった。それは呆れとかじゃなくて、単純な驚きというかその事実を呑み込めないっていうような感情だった。
「え、でも死んだんじゃなかったのか?交通事故で」俺は聞いてみた。すると
「普通にはそうなってる。多分、世間の人はそうだと思ってるよ」「てことは、生き返ったってことか?」「うーん…半分正解、半分間違いかな」「どういう事だよ…」
「体は私のものじゃないよ。魂が私のものなの。だから、見た目以外は私、佐々木春香」
説明を聞いても、よく分からないのは変わらなかった。魂が他人の体に乗り移るなんて話、アニメなどでもあまり聞いたことがなかった。
「その時、ちょうど同じ時刻に亡くなった人がいたの。自殺してね。その人が、私のお姉ちゃんだったの」
「えっ」彼女の葬式の日の事を思い出す。そういえば、彼女のお母さんが「実は、最近、姉も亡くなっちゃてね。何か呪われてるのかしら」と言っていた。
「嘘だと思われるかもしれないけど、これが事実なの。まあ、別に信じてくれなくてもいいんだけどね。初対面の人のいう事を信じろ、なんて難しいことだと思うから」確かに、言っている事は分からなくもない。だが、俺の元カノだと言っている人の事は信じることにした。
「いや、俺は信じてみるよ」「ほんとに!?ありがとう」少し表情が明るくなった。
話をしていると、注文していた商品が続々と席に到着した。
「じゃあ、冷めないうちに食べちゃおっか」となり、一度話を中断することにした。
とは言っても、話す内容が変わったので無言になったわけでははなかった。
「そういえば、名前って夏川秋太で合ってる?」と確認するように聞く。それに対して
「うん。合ってるよ」と言う。どうやら、記憶は引き継がれているようだ。
「君も名前佐々木春香で合ってる?」と聞き返すと、「うん!」と元気よく答えた。
「あ」と佐々木が何かを思い出したように言う。見てみると、何かカバンから出そうとしていた。出てきたものを見てみると、それはスマホだった。画面には何かIDが表示されている。
「はい、私のアカウント。やってたでしょ?交換しようよ」IDは、メッセージアプリのものだった。
俺も、スマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。そのアプリでIDを読み取ると、画面が彼女の名前とアイコンに変わっていた。アイコンはどこかに出かけたときのだろうか。友達らしき人との2ショット写真になっている。画面を見ていると、
「早く追加押してよ」と軽く催促される。「ごめんごめん」と平謝りしながら追加を押す。「よし。できたよ」と言うと、表情が明るくなった。するとすぐに1件のメッセージが送られてきた。通知には、『春香』と書いてあった。見てみると、『よろしく』と言っているうさぎのスタンプが送られてきた。俺も『よろしく』と書かれたスタンプを送り返す。
その後、止めどきが分からなくなったのか、数分間の間スタンプを互いに送り続けていた。
数分後、「そろそろやめない?」と言う声で送りあうのをやめた。
「そう言えば、秋太君って、彼女とかって新しく作ったの?」突然、佐々木から聞かれる。「なんで?」と聞き返すと、「気になったからだよ」と言われた。ので、正直に「作ってないよ」と言う。それを聞くと、佐々木は安心した表情を作っていた。
「なんでちょっと安心したような表情になってるんだ?」と聞くと、「べ、別にいーでしょ」
と返ってきた。
その後は、お互いの近況報告などをして、店から出た。その時、
「割り勘でいい?」「いや、俺が出すよ。安いし」「じゃあゴチでーす!」なんてやり取りがあった。
支払いを終え、店から出る。
「今日、わざわざ来るかわからなかったのに来てくれてありがとね」「全然いいよ。どうせ暇だったし」「また、二人でどこか行かない?昔みたいに」「ああ、行こう」
「やった!じゃあ、また連絡するね」「了解」となり、「駅まで一緒にいかない?」
と提案すると、「どうせ道同じでしょ?」と多分OKを貰うことが出来た。
駅までの帰り道、佐々木が、「やっぱ、ここでもう決めちゃわない?次行くとこ」
と提案する。「そうだな。どこか行きたい所とかあるの?」と答えながら質問する。
佐々木は、少し考えるような素振りを見せた後に、
「うーんと、遊園地がいいな」と答えた。
「了解。じゃあ、いつ行く?」「来週の土曜日って空いてる?」「確か空いてたと思う」「じゃあ、決定!」
と来週の土曜日に行くことになった。
一週間経ち、遊園地へと遊びに行く日になった。いつもよりも少しだけ早く起きて入念に準備をする。集合時間をもう一度確認する。だいぶ余裕があった。だが、遅れてはいけないので、少し早く着くように出発する。まだ朝方だからかまだましだが、今日は暑くなりそうだった。歩いていると、軽く汗ばんでくる。念のため、小さめのタオルを持ってきていてよかった。そうしている内に駅が見えてくる。切符売り場で切符を買い、改札を通る。幸運なことにもうすぐ電車は駅に着くそうだ。電車が到着し、乗車する。車内にはまだ人があまり居なかった。電車に揺られる事30分。今日行く予定の遊園地の最寄り駅に到着した。駅には、この駅から遊園地に行く人が多いからか、行き方が書かれた地図が掲示されていた。そこから約10分、入場ゲート前に到着した。佐々木はまだ来ていない。何ならまだ遊園地は開いていない。時計を見る。まだ時間は30分以上あった。少し緊張しているので、緊張をほぐす。
そうしている内に、開園10分前になっていた。集合時間は開園5分前なので、まだ少し時間がある。待ってる内に、だんだんと人が増えてきた。家族連れやカップルが多いように思えた。
すると、前から見知った顔の女性が手を振りながらこちらに向かってくる。よく見ると、佐々木だった。
「ごめーん、待った?」「全然、てかまだ集合時間になってないし」「良かったぁ」
佐々木は「ふぅー」と一息つく。そしてすぐに、
「あ、チケット買いに行こ!」と言った。相変わらず元気だなぁ。
チケットを2人分買い、入場ゲートへと向かう。さっき話したり、チケットを買ったりしていたので、開園時間は少し過ぎていた。
「まず何乗る?」入場してすぐに、佐々木はそう言った。遊園地の全体マップを2人で見る。佐々木が、「あ、これ面白そー!」と目を輝かせながら言う。指を指した先を見てみると、それはゴーカートだった。「よし。じゃあ行ってみるか」と言い、ゴーカート乗り場へと向かうことにした。幸い、まだ開園直後だからか、並ばずに乗ることが出来た。2人横並びで乗車する。2人の距離は近く、今にも腕と腕が当たってしまいそうだった。運転は、佐々木が、
「私やりたーい!」と言ったので、任せることにした。
係員の人がカートのエンジンをかけ、「それじゃあ、行ってらっしゃーい!」と元気よく言った。佐々木がアクセルを踏むと、カートは勢いよく発進する。
風が気持ちいい。隣を見てみると、佐々木も気持ちよさそうに運転していた。
1週走り終わる。カートの安全装置が外され、カートから降りる。降りると、
すぐ佐々木が「ね、めっっちゃ気持ちよかった!」ととても喜んでいた。それは、まるで子供のような、そんな喜び方だった。
興奮が冷めないまま、「ね、次何乗る?もう1回ゴーカート乗らない?」と言う。
「流石に他の乗ろうよ」と言い返すと、「うーん。じゃあ何乗る?何か乗りたいのある?」と聞いてきた。マップを開く。開いて最初にコーヒーカップが目に入った。
「コーヒーカップは?」と聞くと、「じゃ、行こ!」となってくれた。
歩いて向かい始める。ここからは少し距離があったが、大丈夫そうだった。
2人で話しながら歩く。
「今日、何時に起きた?」「俺は7時かな」「えー!私も一緒!私たち似てるね」
「そうかもね」「やっぱ、昔付き合ってたからかな」今の発言に思わずどきっとしてしまう。そうか。今の佐々木はあの頃の彼女だもんな。
その事に気づき、少し意識してしまう。だが、その事は見破られていたようだった。
「えへ、意識しちゃってるでしょ」隠してもしょうがないので、そのまま伝える。
「うん。少しは」と正直に伝える。それを聞いた佐々木は、「ふーん…」と小声で言っていた。そうしている内に乗り場に着く。チケットを見せ、順番を待つ。
順番が来て、カップの中に入る。スタッフの合図で、カップが動き始める。俺たちは必至にカップを回す。回しすぎて周りのカップよりもだいぶ早く回っている。
回しながら佐々木を見ると、腕が飛んでいきそうなぐらいの速さで回していた。顔を見ると、とても楽しそうに笑っていた。あの頃を思い出す。あの時も2人で遊びに行ったときはあんな風に笑っていたな。そういえば、遊園地は2人で行った事はなかったっけ。確か、どっちかが体調を崩しちゃって無くなったんだっけ。
そんなことを思い返していると、カップはゆっくりと停止し始めていた。やがて完全に停止する。カップから降りると、佐々木は案の定目が回っていて、歩くことさえままならなくなっていた。
「そんなに目回りやすいんだったらカップ回しすぎなかったら良かったのに」
「うるさい」「すまない」「...」「別に、本気で怒ったわけじゃないからね」
「分かってるけど…」「ならいいや。次、何乗る?」「乗りたいの選んでいいよ」
「優しいね。じゃあ、次はこれ乗ろ」
と指で刺されたのは、ジェットコースターだった。
「よし。じゃあ行こっか」「うん!」
数分歩き、乗り場に到着する。歩きながらでも大きいなと思っていたが、近くだとより大きく感じる。やはり人気のアトラクションだからか、今までのアトラクションの3倍以上のお客さんが並んでいた。
「こりゃ並ぶ時間長くなりそうだねぇ」「まあ待とうよ。まだまだ時間あるんだし」
「それもそっか!」
2人して並ぶ。列の先頭はなかなか見えない。待っている間にどんなジェットコースターなのか見ておく。大きいだけじゃなく、スピードも結構出るようだ。
そうやって眺めていると、佐々木が、
「どしたの?さっきからそんなにジェットコースター見て。もしかして怖いの?」
と言った。どきっとした。全く怖くないと言ったら噓になる。あまり絶叫系のアトラクションに乗らないので、内心少し怖い。だが、ここで怖いと言うのは少し恥ずかしいので、少し見栄を張って、
「いや、大丈夫」と言う。それに対し、「ほんとに~?」と少し疑われる。なので、
俺も佐々木に「そういう佐々木は怖くないのか?」と聞き返す。それを聞いた佐々木は、「大丈夫だよ!そもそも苦手だったら乗りたいなんて言ってないし」と言う。
「確かに」「でしょ~。あ、進んだ!行くよ!」と腕を引っ張られる。改めて列を見てみると後30分以内には乗れそうだった。
やがて、俺たち2人たちの番がやってきた。係員の人に案内され、ベルトをしたのを確認し、安全バーを下げる。少しドキドキしてきた。
「それでは、発車しまーす!」という係員の人の声でジェットコースターが発車する。「うおっ」思わず声が漏れてしまった。だが、走行音と風の音で周りには聞こえなかったようだ。コースターが昇り坂を上り終わる。上った後はもちろん、下りだ。
すごいスピードで下っていく。安全バーを握る力が少し強くなる。周りからは、
「キャー!」という声が聞こえてくる。俺も「キャー!」と叫ぶ。
少し横を見てみると、佐々木が楽しそうに乗っていた。佐々木も叫んでいたのだろうか。気になるが、考えないことにした。
やがて、コースを1週した俺たちを乗せたジェットコースターは段々速度を落として1番始めの場所に戻ってきた。安全バーが上がり、シートベルトを外す。
降りるとすぐに、佐々木が
「めっっっちゃ楽しかった!」と喜んでいた。その後すぐに、
「ねえ、どうだった?怖かった?」と聞いてきた。そこで俺は
「怖いよりも、楽しさが勝った」と言った。内心、乗る前は少し怖かったが、乗ってみるとそこまで怖くはなく、楽しさと気持ちよさが怖いという感情をどこかにやってしまったようだ。
さっきの言葉を聞いた佐々木は、
「なら良かった!」と喜んでいた。ここで1度時計を見る。時計の針は12時15分と指していた。ちょうどいい時間なので、
「1回お昼ご飯食べない?」と提案する。それを聞いた佐々木は
「うん!私、お腹空いちゃった」と言った。もう1度マップを見て昼ご飯を食べることが出来そうな店を探す。すると佐々木が
「この店よさそう!」と言い、その店を指で指す。俺も見てみると、その店はよくショッピングモールなどにありそうなフードコートだった。
「ここでいいのか?」と尋ねる。「だってそこしかお店ないんだもん」と佐々木が言ったのでもう1度マップをよく見てみる。本当にそこしかなかった。
なので俺たちはそこに向かうことにした。数分歩き店に入る。昼時だからか、非常に混雑していた。頑張って空いている席を探す。奇跡的に2人用のテーブルが空いていたので、そこに向かう。
「良かったぁ」と席を確保した後に佐々木が言った。席に荷物を置いて席を確保した状態で昼飯を買いに行く。買ったのは、俺がラーメン、佐々木がオムライスだった。
『いただきます』と言い、食べ始める。
麺を啜っていると、「ラーメン1口頂戴~。オムライス1口あげるから」
と正面から聞こえた。「はい」と箸で麺を掴んで渡そうとすると、佐々木が餌を待つ雛鳥みたいな顔になっていた。「あーん」と言い、直接口に入れてほしいようだ。
少し照れながら口の方へ箸を運ぶ。箸が口の中に入る。その瞬間、佐々木が口を閉じた。箸が完全に口の中に入る。慌てて抜こうとするが、口を閉じる力が強くなかなか抜けない。やがて抜けたときには口の中から麺が無くなっていた。
「どうだった?」と尋ねると、笑って「おいしかった」と佐々木は答えてくれた。
麺を食べた後、「今度は私の番ね」と言ってオムライスを乗せたスプーンを俺の口元へと運んできた。やる方も恥ずかしかったが、やられる方はもっと恥ずかしかった。「はい、口開けて」と軽く催促されてしまう。覚悟を決め、口を開ける。
恥ずかしくて目をつぶる。やがて、唇に何かが当たった。その瞬間、
「はい!」と佐々木の声が聞こえる。その瞬間、口の中がオムライスになる。
噛んでいると、「どう、美味しい?」と聞かれたので、「うん、美味い」と答える。
それを聞いた佐々木は「良かったぁ」と自分が作った料理を味見してもらったような事を言っていた。ただ、その事については何も言わないことにした。
2人して食べ終わり、食器を返しに行く。返し終わって集まると、佐々木が
「よし!午後からも楽しむぞ~!」と意気込んでいた。
午後からも遊園地を満喫し、気づけば夕方になっていた。
「あ、もうこんな時間じゃん!じゃあ、次で最後にしよ」と佐々木が言った。意外だった。もっと遊びたいとか言うと思っていたのに。
「そうだな。何か乗りたいのある?」と聞くと、佐々木は少し下を向きながら
「か、観覧車…」と今日で一番小さな声で言った。
「よし。じゃあ行こっか」と言い、乗り場へと向かう。観覧車は園内の人が少なくなってきていたので、案の定すぐに乗れた。ゴンドラに乗り込む。中の椅子に向かい合って座る。観覧車が上がりだした。しばらく無言の時間が流れる。最初に言葉を発したのは佐々木だった。
「今日、私の乗りたい物ばっか乗っちゃってごめんね」
と謝ってきた。「全然謝ることじゃないよ。だって行きたいって言ったの佐々木じゃん」と返す。
「やっぱり優しいのって昔から変わらないね。そういう所で、私が秋太君を好きになったのかなぁ…」「…」
また無言の時間が訪れる。またもや、最初に言葉を発したのは佐々木だった。
覚悟を決めたような表情で話し出す。
「私、今日で気が付いた。やっぱり、体が変わっても、秋太君のことが好き。
私ともう1度付き合って、今度こそは私と結婚してください」
驚いた。今日のことを思い返す。確かに、昼ご飯の時とかは、もしかしたらなんて思っていたが、実は本当にそうだっただなんて。俺も覚悟を決めてさっきの告白兼プロポーズの返事をする。
「正直、びっくりした。まさか春香の方から告白してくるなんて。
でも、俺からも言わせてほしい。
俺と付き合って、今度こそ結婚してください」
相手の表情を見る。顔は赤く、目には涙が浮かんでいた。
「はい。よろしくお願いします」と春香が言ったその直後、泣きながら俺の胸に飛び込んできた。
「私、怖かった。この告白が断られること。でも、それがOKされて。しかも秋太君からも告白されて。安心して泣いちゃった」
観覧車は段々下がり始めていた。俺は地上に着くまで彼女の頭を撫でてあげることにした。
観覧車が地上に戻り、遊園地の出口に向かう途中、遊園地のオブジェみたいな場所で
写真を撮った。その時彼女が、「昔の写真と比べようよぉ」と言ってきたが、恥ずかしいのでやめた。
帰りの電車の駅に向かう道を手を繋ぎながら歩く。歩きながら話していると、彼女が突然指を絡ませてきた。いわゆる恋人繋ぎと言うものだ。
「私たち付き合ってるんだからこっちの方がいいでしょ?」と上目遣いで言った彼女の顔は夕日のせいか、照れているのかはわからなかったが、世界一綺麗で、可愛かった。
電車に乗り、2人の最寄り駅に着く。
「家まで送るよ」「あ、わざわざありがとう!」「どういたしまして。それにもっと話したいし」「じゃあ、あそこの公園寄る?」「いいね」
と公園へと向かう。その時も手を繋いでいた。もちろん、恋人繋ぎで。
公園に着き、ベンチに座る。
「なんだか、高校生の時を思い出すね」と落ち着いた口調で彼女が話す。
その言い方は、何かを懐かしんでいるような気がした。
「たしかに。もう何年も前のことだもんね」と俺も当時のことを思い出す。すると、突然思い出話が始まった。
「そういえば、私たちの高校2年の時の担任、覚えてる?」「顔は思い出せるんだけど名前が思い出せなくて」「わかるーー!!」「顔が特徴的だったからかな」
それを聞いた彼女が笑う。「確かに特徴的だったよね。あ、後声もじゃない?」
「あ、ほんとだ!」「でしょ!?」
気づけば、思い出話が先生の見た目の話になっていた。
そこから30分間話し、帰ることになった。
「じゃ、そろそろ帰ろっか!送ってくれるんだよね」「うん。もちろん」
彼女の家の方向へと歩き出す。彼女の家はここから近く、すぐに着いた。
「送ってくれてありがとうね。今日、めっちゃ楽しかった!」
「俺も楽しかったよ」「じゃ、またね。」「またな」と言い別れる直前に彼女が唇に
「ちゅ」とキスをしてきた俺が顔面を赤くしていると、
「えへへ」と彼女が笑った。「今度こそ、またね」と彼女が言い、ドアが閉まった。
俺はしばらくその時の事が頭から離れなかった。
12月25日。俺たち2人は結婚届を出しに市役所に向かっていた。市役所に着き、結婚届を提出する。提出が無事完了する。
「出せたねぇ。式、いつ挙げる?」「まあ、ゆっくり決めていこうよ」「それもいいね」
この日はクリスマスなので結婚届を出した後はデートをする予定だった。
「じゃあ、行こっか」「うん!」
デートを終え、帰宅する。今回は送る必要はない。
「ふぅ。一杯あるいたねぇ」「そうだね」
2人で住み始めたからだ。
結婚式の日。ウエディングドレス姿の彼女を見る。それは、作り物のように綺麗だった。
「今回はちゃんと式挙げれそうだね」彼女が言う。
「うん…良かった。ちゃんと挙げれて」と泣いてしまう。それを見た彼女もつられて泣いてしまった。
「これからも、よろしくね」と言われ、2人で抱き合う。
その後、メイクを直し、待機する。やがて、入場の合図が来た。
「行こうか」「うん!」
「新郎新婦の入場です!」と司会者が言う。それに合わせて会場が賑やかになる。
俺は彼女を幸せにすることが出来るのだろうか。いや、心配しなくても良い。なぜなら、絶対にそうできる自信が俺にはあるからだ。段々視界が明るくなる。この明かりのように未来も明るくなってほしいと願う。この願いが伝わっているかは分からない。だけど、それはこれからの数十年で伝えればいいか。
初めての短編です。文章等おかしい所があると思います。その時は伝えてくれると助かります。
感想等もらえるととても嬉しいです。