おでんの屋台の無理やり泣ける話
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「はい。卵、はんぺん、ガンモお待ち」
「ああ、ありがとう」
どこにでも有るような駅前のおでんの屋台。そこでワンカップを片手におでんを楽しむのはすっかり頭が寒くなったメガネのおっさんだ。
メガネが湯気で曇るのも気にせず、初めて入るおでんの屋台。熱々のおでんは口に運ぶにはちょっと熱すぎる。
「へー。へー」
おっさんが息を吹きかけおでんを冷ます。
「お客さん、フーじゃないんですかい?」
「フー?ほう、そんなやり方も有るのかい?どれ。試してみようじゃないか。フー、フー」
おでんは見る間に適温に下がり、一口入れた。
「ほう、フーの方が効率良いな……死んだ母さんにも……教えてあげたかった」
おっさんは思わず母を思い出す。
『熱いからへーしてからたべましょうね』
『うん。へー、へー』
何の変哲もない小さめな家。
あの頃食べた熱々のたまころラーメン。
何年も前に亡くなった母親の面影。何も特別な事なんか無いありきたりな家庭だった。だからこそ懐かしい。
そしてへーからフーへ。
時は移ろい、へーからフーへと変わるとも、あの日の母の記憶は忘れない。おっさんの目に光るのは汗か涙か、はたまた曇ったメガネの水滴か。
「すまないが厚揚げちくわぶ、ついでに白滝も頼めるかい」
「へい」
夜は暮れたばかり。おっさん独り、屋台引き一人の夜は深々と静かに進んで行く。
へーして食べるのなんかありきたりちゃう!