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守り人よ、君は愛を乞うても良い  作者: 朝来
不変、寄る辺、可否
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第22話

 朝の畑仕事を済ませたレコに教えてもらいながら大洋がエルシの乳を絞っている頃、ようやくアルドも目を覚ましたらしい。大洋もレコもその場にいないことに血相を変えて家を飛び出してきたアルドはなおざりな身支度で髪はほうぼう好き勝手に跳ね、驚かせて悪いと思いながらもいつにないその姿に思わず大洋は笑ってしまった。

 一瞬驚きで呆けていたアルドだったが、自分を笑う大洋の姿を認めホッと安堵の息をついた。少女とパウラも既に起きてきたのだろう、何事かと家の中から出てくる。


「ごめん、ちょっと珍しくて」

「お恥ずかしいところを……、失礼しました」


 苦笑を浮かべながらアルドがレコにも朝の挨拶をする。無言でうなずくレコは、大洋に代わってエルシの乳を絞った。流石の早さであっという間に作業を終えると、朝食にするからと家の中に入っていく。手伝おうと大洋もその後に続いた。

 朝食は大洋が手伝いでも問題ないくらい簡単で、エルシの乳も昨日と同じくクセのある味だったが、腹の底から満たされるような気がした。粗末な造りでも四方が壁に囲まれているという事実は、驚くほど負担を軽くするらしい。


「ありがとうございます。随分と助かりました」


 朝食を終えて、アルドが頭を深々と下げた。大洋たちもそれに倣う。レコはやはり首を振るのみだったが、深く刻み込まれた皺の奥にある目は穏やかな光をたたえている。


「このご恩は決して、」

「どこへ行くかは知らねぇが、もう一日は泊まれ」


 しかし辞去の口上を口にしたところで、レコが嗄れ声を強くして遮った。


「今日はひどい雨になる」


 レコの言葉を疑う形になるのは申し訳ないが、思わず大洋たちは外をうかがった。周辺には濃い霧が立ち込め、少し外にいるだけで衣服がしっとりと重みを増すほど、確かに水の香りは強い。しかし元より山際の天気は変わりやすいもので、こんな空模様も珍しくはない。歩みを止めるほどのものだろうか、とアルドが少し眉を寄せた。


「無理して怪我したくなけりゃ、今日は大人しくしたほうがいい」


 アルドとパウラが二人、顔を見合わせて迷う。先を急ぐと言えば急ぐ、足元が不安といえば不安。少し乱暴ながら、レコの声には不思議と説得力がある。この荒野で受けた飾り気のないもてなしがありがたかったからこそ、どちらもレコの忠言を無下にすることに気がとがめているのだろう。

 少女も大洋も含め皆が皆出発を決めあぐね、しかしそれでもぐずぐずと出発の準備をしていると、そのうち本当に雨が降ってきた。最初は霧がそのまま降ってきたかのような弱々しいものだったのだが、瞬きほどの間にそれは滝のような激しさになってしまった。幸い風は強くないようだが家の前には小さな川が流れ、不安げなエルシの鳴き声がかすかに聞こえてくる。目と鼻の先の家畜小屋へ様子を見に行ったレコが、そのわずかな距離ですっかり服の色を変えていた。

 無理をすれば行けないこともないし、これまでの道中では強行したこともある。それくらいの雨だった。けれど四人視線を合わせた時には既に、気持ちは皆同じだったように思う。


「雨が弱くなるまで……、よろしくお願いいたします」


 少し気恥ずかしそうに頭を下げたアルドに、それでもレコは無言でうなずくのみだった。ただ、もう一杯と新たにエルシの乳を火にくべる様子にどこかホッとした気配を漂わせているように見えたのは、大洋の気の所為ではないだろう。


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