表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

学園最弱の少年は、世界最高の相棒と共に、世界を駆ける

作者: 苔虫


「オラッ!」


「うっ!」


 自分よりも一回り大きい拳を腹に撃ちこまれ、僕は思わず呻き、その場に蹲る。


「八ッ、情けないなぁ!流石、『無能のレイ』だよ!」


 そんな僕を見て、嘲笑い、貶してくるのは、同級生のギルバード。周りにいた彼の取り巻きも、大声で笑っている。教室の後ろで行われるいつもの光景に、教室にいた他の同級生は目を背け、まるで見えていないかのように振る舞っている。


「おい、やめろ!ギルバード!」


 そんな教室に、一人の男の声が響く。その声の主は、怒りをあらわにした顔で、ギルバードたちに詰め寄る。


「チッ、お前ら、戻るぞ」


 その声を聞いたギルバードたちは、僕のもとから離れる。


「レイ!大丈夫か!?」


「うん……ありがとう、アレン」


 僕のもとへ駆け寄ってくれたのは同級生のアレン。学年でも一二を争うほどの実力を有している生徒だ。彼は、入学した頃から何かと僕のことを気にかけてくれており、先ほどのように、ギルバードにいじめられている僕をよく助けてくれる。僕はお礼を言いながら、差し伸べられたアレンの手を取り、立ち上がる。


「全く、なんでアイツらはあんなことを……!」


「まぁ、仕方ないよ。僕が『無能』なのは事実だから」


「そんなことはない!レイは間違いなく強いんだ!」


 僕が事実を述べると、アレンは大声で否定してきた。これもいつものことなのだが、彼は僕のことを『無能』とは思っていない、といつも言ってくれるのだ。それ自体は嬉しいことなのだが、


「僕は初級魔法しか使えないんだよ」


 それは過大評価であり、実際の僕は、初級魔法しか使えないのだ。多くのエリートが在籍する王国最高峰の魔法学校。同級生の多くは上級魔法が使うことができ、中には、超級魔法を使えるものまで在籍する学校で、初級魔法しか使えない僕は、間違いなく最弱だ。そう思いながら、アレンに伝えるのだが、


「そ、そうだが!それでもレイは強いんだ!」


 このように、僕が強いと信じ続けているのだ。すると、


「ちょっと、アレン、声が大きすぎるよ」


「まぁ、アレンだから、仕方ねぇだろ」


「レイ君のことになると、つい熱くなるからね」


 アレンのパーティーメンバーであるサラ、ノルト、メイが声をかけながら、こちらに歩み寄ってくる。


「それに、レイも少しはやり返しなさいよ」


「そうだぞ、レイ。お前は強いんだから、アイツらなんか一撃だろ」


「まぁ、レイは優しいから、簡単には手を出せないんだよね」


 そして、彼らも俺のことを強いと信じているのだ。僕は、いつものように「そんなことはない」とすぐに否定しようとすると、


『緊急事態発生!緊急事態発生!王都南方に竜が出現!B級以上の生徒は討伐に、それ以外の生徒は住民の避難誘導を命じます!』


 巨大な警報音と共に、校内に指令が送られる。この学校は、学び舎としてだけでなく、王国の防衛施設としても機能し、生徒たちは各々のパーティーのランクによって、指令が下されるのだ。


「南方って、こっちじゃねぇか!」


「それに、竜!?どうしてそんな伝説上の存在が!?」


 下された指令に、多くの生徒が狼狽の声をあげるが、それは仕方のないことだろう。伝説上の存在である『竜』が現れたのだ。驚くな、という方が無理であろう。彼らと同じように、僕も怯えていると、


「みんな、落ち着くんだ!」


 アレンの声が教室に響く。教室にいる者の視線が全て、自分に集まったのを確認したアレンは口を開く。


「さっき、指令があったように、僕たち四人と、ギルバードたちのパーティーはそれぞれで竜の対処にあたる。その間、他のみんなは、住民の避難誘導を任せたい!」


 指令と同じ内容を、自分たちのクラスに置き換えて述べるアレン、一見すれば、何をやっているのか、と思うかもしれないが、混乱で上手く機能していない時には、このような行動が、かなり役に立つのだ。


 実際、先ほどまで混乱していた生徒たちは、次第に落ち着きを取り戻し、指令通りに動き始める。それを片目にアレンは僕へ声をかける。


「レイ、君もいけるかい?」


「う、うん。まだ、少し怖いけど、僕にやれることは全部やってみせるよ……!」


 震える体を叱咤しながら答えると、


「そうか、なら、頼んだよ!あと、くれぐれも無理はしないでくれよ!」


 そう言いながら、アレンたちは武器を取り、『竜』のもとへ向かって廊下を駆けていった。


「う、うん!アレン達も気を付けて!」


 僕は遠のく背中を見つめながら、応援の言葉を送った後、自分にもできることをするために、町へと向かって、足を運んだ。



 火の手がいたるところで上がり、悲鳴が飛び交う町。


「皆さん!落ち着いてください!」


「避難場所はこちらになります!」


 そこで、僕たち、学園の生徒は懸命に住民を安全な場所に誘導していた。町のあちこちから駆けてくる住民を落ち着かせ、誘導。この単純な作業の繰り返し。しかし、それが終わりを見せる様子はなく、むしろ増えるばかり。すると、


『GYaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!』


 竜の咆哮が、辺りに響き渡る。その咆哮は、学園で訓練を受けている僕たちでさえ、本能的に恐怖を感じてさせ、住民にいたっては震えあがらせ、その場に立ち止まらせてしまう。


(アレン達は、大丈夫かな……)


 僕が、今、竜と直接対峙している友のことを思っていると、


「く、くそぉおおおおお!!!!」


 聞きなれた声が、近くから聞こえた。声が聞こえた方を見ると、


「……なんで、君がここにいるんだ……?」


 そこには、アレン達と共に、パーティーで竜の討伐に赴いていたはずのギルバードたちがいたのだ。


「うるさい!早くそこをどけろ!」


 僕の質問なんて意にも介さず、そこから走り抜けようとするギルバード。しかし、そんなことはさせるわけがない。僕は、走り抜けようとするギルバードの手を掴む。


「おい!その手を放せ!」


「それより!なんで君たちがここにいるんだ!竜の討伐はどうしたんだ!」


「そんなの、放り出したにきまっているだろうが!」


「……は?」


 ギルバードから漏れ出た言葉に僕は、理解するのにかなりの時間を要した。周りの生徒も、声にしてはいないが、驚いているようだ。すると、ギルバードは僕の手を振り払いながら、言い放つ。


「俺たちはお前たち平民と違い、貴族なんだぞ!命を大事にして何が悪い!」


 あまりに身勝手な理由で、逃げてきたギルバードたち。僕は、胸のなかで膨れ上がる怒りを抑えながら、ギルバードたちを睨む。


「な、なんだその目は!無能のレイのくせに生意気だぞ!」


 狼狽しながらも、ギルバードは僕の頬に拳を振るい、取り巻きと共に、そこから離れていった。僕は殴られた頬に手を当てながら、同級生のもとへ近づく。


「ごめん、ここ、後は任せていいかな?」


「は……?急になんだ?」


「僕は、竜がいるところに行く。だから、ここの避難誘導を任せたいんだ」


「ばっ!お前なんかが行っても死ぬだけだぞ!」


 同級生が馬鹿なことは止めろ、と言わんばかりに引きとめようとする。けど、僕は同級生の制止を無視して、町の外へと走りだした。



 初級の身体強化魔法をかけた僕は、急いで、アレンたちのもとへ走る。遠征で上級生はいない、つまり、対応しているのはアレン達のパーティーと数人の教員だけだろう。僕は、無事を祈りながら、走り続ける。


 そして、僕は、この世のものとは思えない光景を目にする。


 町の外にあるはずの森は燃え、いつもより見渡しがよくなっていた。そして、そこに鎮座する竜と、いたるところから血を流しながらも、武器を支えになんとか踏ん張っているアレン達の姿がそこにはあった。


(う、嘘、アレン達でも、ここまで圧倒されるなんて……)


 親のコネでB級まであがったギルバードたちとは違い、アレン達はB級足りえる実力を有している。そんな彼らでも勝てない、という現実を信じ切れない僕。すると、竜の視線がこちらに向けられた。それにつられて、アレン達もこちらへ視線を向ける。僕と目があったアレンは驚きながら、僕へ怒りの声をぶつける。


「どうしてきたんだ、レイ!」


「ご、ごめん!でも、アレン達だけで聞いて、居ても立っても居られなくて!」


「馬鹿なのか、アレン!いくら君でも竜には勝てない、逃げるんだ!」


「で、でも!」


 僕たちが言い合っていると、


『Baaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!』


 竜が突然、火のブレスを僕目掛けて放ってきた。驚いた僕が動けないでいると、


「サラ!ノルト!メイ!」


 アレンが仲間を呼ぶ。それにすぐさま反応し、行動できるのはやはり日頃の連携の賜物だろう。ノルトが大楯を構え、メイが付与魔法でそれを補強。サラとアレンは数十を超える魔法障壁を大楯の前に展開し、防御態勢をとる。


 彼らが繰り出せる完璧な防御。これを打ち破るには、相当な威力が必要なのだが、


「クソっ!キッツいなぁ!」


「いい、ノルト!死ぬ気で耐えなさい!」


「私も、頑張りますので……!」


「本当、出鱈目な威力だね!」


 竜のブレスは、いとも簡単に彼らの防御を食い破っていく。必死で食らいつくアレン達、しかし、次第に展開された魔法障壁は砕け、ノルトの大楯を溶かしていく。そして


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」


 僕の前で守ってくれた四人は後方に吹き飛ばされた。僕が急いで駆け寄ると、


「ッ!」


 彼らの体は、いたるところが焼けただれ、その苦痛に耐えかねているような顔をしている。僕は思わず手を取り、初級の回復魔法を展開する。しかし、


「ど、どうして……!」


 彼らの傷が一向に治る気配がない。すると、


「レイ、竜のブレスには呪いが含まれているんだ。これを解呪しない限り、回復魔法は意味がない」


 アレンが、僕の手を握り返しながら、口を開く、そして、


「お願いだ、レイ。君だけでも逃げて遅れ……」


 僕にそうと頼み込んだ後、静かに目を閉じた。慌てて僕は、アレンの胸元に耳をあてる。


「よかった、まだ息はある……」


 気絶したアレンを見ながら、僕は考える。


(どうしてこうなった?)


(僕が、弱いくせにこんなところに来たから?)


(でも、どうしてここに来たんだっけ)


(……あぁ)


(『お前』がアレン達を殺そうとしたからか?)


 そして、胸の奥底で湧き上がり続けていた怒りが、爆発する。


「お前は、()が倒す……!」


 自分のものとは思えないほどの大声で、竜に向かって吠える。その次の瞬間、


 ーー条件を達成ーー


 ーー神魔解放『勇者之凱旋』ーー


 頭の中に、謎の無機質な声が響き、そして、


「……」


 俺が手に現れた光輝く剣を握り、振るった瞬間、竜の尻尾が綺麗に切断された。


『G、GYaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!』


 いきなりの攻撃を受けた竜は絶叫し、こちらを睨みつけてくる。しかし、俺、正確には俺の中にいる()()は気にした素振りを見せず、ゆっくりと竜のもとへと歩みを進める。


(これは一体……)


 俺は思い通りに体を動かせず、誰かに操られているような感覚に違和感を覚えていたが、今はそんなことはどうでもいい、と考えるのを止め、戦いに集中する。


『Aaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 竜が凄まじいスピードで爪を振り下ろすが、俺はそれをいとも容易く止める。そして、拳を握りしめ、竜の胴体に撃ちこむ。拳が腹に撃ちこまれた瞬間、竜の内臓が破裂する音と竜の絶叫が辺りに響き渡る。


 謎の力によって、竜を圧倒することが出来ている状況に、俺はわずかな勝利の希望を抱いていると、


『GruuuuuOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!』


 竜が咆哮と共に、自身の胸に手を突き刺し、そして、中から宝玉らしきものを取り出した。俺がその光景を理解できずに見つめていると、


 パリンッ


 ガラスが割れるような音を出しながら、竜はその宝玉は目の前で砕いた。すると、


「ッ!?」


 とてつもない魔力が辺りに渦巻き、次第に竜の体へと集まっていく。それと同時に次第に小さくなっていく竜。そして、成人男性より少し小さめな体躯をした人の姿をした竜が現れた。


「ま、まさか、竜人、か……」


 俺は目の前の光景を信じ切れず、思わずそう呟いてしまう。すると、


『いかにも、我は、竜人の一人、フレイだ』


 竜人

 竜の中でも、特に強い力を持つとされる竜。彼らは、人型になることが出来、プライドの高い竜でも、すぐに降伏宣言するほどの強者。


「そんな化け物がなんでここに……」


『俺のことはどうでもよかろう。むしろ、我はお主の方が化け物だと思うぞ』


「は……?何を言ってるんだ?」


 化け物から化け物と言われても、実感は湧かない。


『しかし、まだ、全力ではないようだな』


「は?さっきからお前だけしか分からない話は止めろ」


『どれ、少し、やる気にさせてみるか』


 すると、フレイは、その手に炎の剣を生み出すと、


『俺がここを攻めたのは、単に俺の通る道に存在しており、邪魔であったからだ』


「……は?」


『それにしても人間と言うのは鬱陶しい。特にお前の後ろにいる奴らは、この上なく鬱陶しかった』


「……」


 俺が、体を震わせていることに気づいていないのか、フレイは続ける。


『全く、弱いくせにこのようなことをするから死にかけるんだ』


『あの程度の呪いも解呪できない分際で、我に立ち向かうなど、愚の骨頂』


『お前もそこの『ゴミ』と一緒になりたくないなら、ここから立ち去れ』


『そうすれば、見逃してやろう』


 フレイの言葉を聞いた俺の頭の中で、何かがはじけた気がした。


(アレン達が『ゴミ』?)


(もう、殺そう。目の前にいるのは、ただの屑だ)


 そう心に誓った瞬間、


ーー対象の怒りを確認ーー


ーーこれより対象の意識を一時的に封印、以降は『勇者(ワタシ)』が対処しますーー


 あの声が頭に響き、俺の意識は途切れた。



(あれは……)


 目の前の存在に雰囲気が突然変わったことを、フレイは本能で感じていた。警戒のレベルを最大にして、構えをとる。すると、


「おまえが、あいつ、おこらせた」


 抑揚のない声が、フレイの耳に入ってきた。フレイは黙って見つめていると、


「だから、わたしがかわりに、でてきた」


 少年の髪が黒色から、白金色へと変貌し、その髪は、腰まで伸びている。そして、その手には、先ほどよりも光り輝く一振りの剣。


「あいつのて、よごさせない。ぜんぶ、わたしがかわりになる」


 変わらず抑揚のない声、しかし、どこか怒りを感じさせるその声。


「だから、おとなしく、しね」


 そして、蹂躙が始まった。



「ウッ……!」


 体のいたるところが悲鳴を上げているのを感じながら、アレンは目を開ける。目を覚ましたアレンは周りを確認する。仲間のサラたちは気絶したままだが、息はあるようで、アレンがほっとしていると、


「ハァアアアアアアア!!!!」


 凄まじい雄叫びと共に、謎の男が、()()()()()()姿をしたレイへ、信じられないほどの火力で炎魔法を、それも複数放つ!


(あの威力、超級!?)


 自分たちが使える魔法よりも、圧倒的な威力を誇る、超級魔法。並の人間であれば、立ち向かうことの出来ないが、アレンは確信していた。


()()の前では、意味がないだろうな)


 そして、その確信は現実になる。


「うるさい。りゅうはだまることもできないの?」


 以前、一度だけ聞いた声が、迫りくる魔法を()()()


「……は?」


 彼女に「りゅう」と言われた男は、理解できないといった表情をしている。しかし、彼女に常識は通じないのだ。それを証明するがごとく、少女は男を攻撃する。


「はやく、しんでよ。あのこが、おきちゃう」


 そう言いながら、少女の剣が男の体を切り裂いていく。男は必死に防御しているが、少女の攻撃の前では、どんな防御も意味をなさない。


「どういうことだ!?なぜ、私の『竜燐』が破られるのだ!?」


 竜燐が何かは分からないが、彼女に()()()()()()()()()


 『防御無効』


 それが彼女のもつ、『権能』のうちの一つ。あらゆる「防御」を無効化する、理外の力。どれだけ優れた防御でも、この力の前ではすべて無効化されてしまうのだ。


「くっ!ならば!」


 すると、男が少女から一気に距離を離す。そして、


「くらえ!これが、私の放てる最高の魔法だ!」


獄炎双竜砲(ツイン・インフェルノ)!』


 先ほどの超級魔法よりも遥かに強力な力を秘めた炎魔法。直径10mを超える巨大な二つの炎柱が少女めがけて、凄まじいスピードで迫りくる。


「ひあそびは、もうあきた」


 少女が剣を鞘に納め、手を前にかざす。そして、


■■■・■■■(こわれろ)


 聞き取れない魔法名と少女の声が重なって生まれた、真っ白な魔法の弾。手のひらより少しだけ大きい魔法弾を少女は迫りくる炎、そして、その延長線上にいる男目掛けて放った。


 そして、少女の魔法が男の魔法に触れた瞬間、


「は?」


 男の魔法が()()()()。思わず、素っ頓狂な声をあげる男へ、無慈悲に迫りくる魔法。男は回避を試みるも、完璧には回避できず、肩に少しだけ触れてしまった。すると


「ぐ、ぐわぁぁぁぁああああ!!!!」


 男の絶叫を辺りに響いた。男は突然走った肩の方へ目を向けると、


「な、なんだ、これは……」


 少女の魔法が触れた部分の肩が跡形もなく消えていた。そしてそこから流れる夥しい血。これがあの少女の魔法、なのか、と一人戦慄している男を見ながら、アレンは少女を再び見る。あの少女の魔法は、今は失われし、古代魔法。魔法名は分からないが、効果は単純。


 ()()()()()()()()()()()


 単純にして、最強。これほど分かりやすく強力な魔法はないだろう。そう考えていると、少女が蹲る男の目の前に現れた。


「きがかわった」


「……何がだ」


 男は瀕死の状態ながらも、その眼光は鋭さを保ったまま、少女を睨みつけるが、特に気にする素振りを見せず、少女は続ける。


「おまえ、やっぱり、ころさない」


「どういうつもりだ……」


 突然の「ころさない」宣言に男は戸惑っているようだ。そんな男に少女は告げる。


「こんなおまえでも、しねばだれかかなしむ」


「……」


「それに、あのこもかなしむから、ころさない」


 すると、少女は男の肩に触れ、魔方陣を展開。すると、男の消え去ったはずの肩は一瞬で再生した。男は、衝撃のあまり、声も出ていない。


「だから、はやく、ここからたちされ」


「……チッ」


 男は、忌々しげにしながらも、翼を広げ、空へと飛んで行った。それを見届けた少女は、倒れ伏す俺達に近づく。そして


「いつも、むちゃしすぎ」


 軽い小言と共に、回復魔法が展開される。すると、傷だけでなく、かけられた呪いまで消え去った。少し立ち眩みながらも、なんとか二本足で立ち上がることのできた俺は、少女に頭を下げる。


「また、君に助けてもらった。この恩には絶対に報いたい。俺たちは何をすればいいだろうか」


 ()()、命を救ってもらったのだ。何かしなければ、とアレンが考えていると、


「わたしのようきゅうは、ずっとおなじ」


 そう言うと、少女は笑いながら、胸に手をあてる。


このこ(レイ)のそばにいてあげること、それだけでじゅうぶん」


 すると、少女の姿が光の粒子状になり、先ほどまで少女がいた場には、「レイ」が静かに横たわり、寝息をたてていた。


(まったく、あんな凄いものをその身に宿しているなんて信じられないよ)


 アレンは笑いながら、その小さな体を抱き上げ、次第に目覚め始めた仲間に声をかけながら、町へと戻っていった。



「うん、やっぱりすごいね!」


 そう興奮しながら呟くのは、幼い容姿をした少年。すると


()()()、いい加減、戻ってきてください!事後処理の書類を作成したので早急に!』


 思念通信で聞きなれた声、もとい叫びが聞こえてきた。


「はいはい、分かった分かった」


 そう言いながら、学園長と呼ばれた少年は、思念通信を切り、街道を歩く。


(あの「精霊」、多分、とっても強いよね!あぁ一度でいいから、戦ってみたかった~!)


(あ、でも、そろそろ、あの時期だし、意外とすぐかもしれないなぁ!)


 そして、この後、竜の討伐を評価されたレイやアレン達は時の人となり、その場から逃げ出したギルバードたちは、実家から見放され、ランクも最低位まで落ち、肩身の狭い生活を強いられることになったり、学園長とレイが模擬戦を行ったりなど、いろいろなことが起きるのだが、それはまた、別のお話。

面白いと思ったら、感想やレビュー、お願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ