母との会話と断れない釣書
リラが専属メイドになってから数日が過ぎた。
今日は、お母様と久しぶりにお茶をする。
別に、普段顔を合わさないわけではないですよ?
朝夕の食事の時間ぐらいしか合わせる機会はないけれど。
母であるアシュレイは仮にも元王女、父に代わって王城へ出仕している。
父は日ごろ、各貴族からの依頼で人形を作っているし、私は父が作り切れない下級貴族用の人形などを作っている。
「お母様、お誘いいただきありがとうございます」
「こうしてゆっくりお茶をするのは久しぶりね」
母の誘いでテーブルに着く。
アシュレイ・ドールは元第7王女であるアシュレイ・ライスター王女であり、第7王女といえど王女教育は受けていたので、その所作は大変綺麗である。
その母にしつけられた私も、マナーとダンスのレベルだけでいえば準王家レベルにあると自負している。
この教育のおかげで、ドール家の人形は練習用意ダンスパートナーを務められるまでになっている。
「そういえば、お母様。リラから事の成り行きは聞きましたが、ずいぶん爛れた関係だったようですわね」
ぐっと変な音がしたが、お母様は表情を変えずに飲んでいたカップをソーサーに戻された。
「レイラちゃんは、何を思ったのかしら」
「お父様とお母様の間に愛はなさそうだなとは思っておりましたが、そもそも私と同じで同性愛者であったとは思いませんでしたわ。それでも貴族として子となすために愛人まで利用していたとは恐れ入ります」
「はぁ…どうしてレイラちゃんはこんなに擦り切れちゃったのかしら…」
「お母様とお父様の娘ですので、当然ですわ」
私はお茶を一口飲む。
「まぁレイラちゃんが思っている通りよ。あれでレイラちゃんを授かってよかったと思うわ」
「そうですわね、ドール家がなくなるのはライスター王国の損失かと思いますので」
うん、この焼き菓子美味しいわね。
「そうえいばレイラちゃん、王家から婚約したいと打診があったわよ」
ぐっっ!!!
口に含んでいた焼き菓子を吹き出しそうになる。
くそ、こんなことで意趣返しされるとは思わなかった。
しかし、王家からの打診となると、断ることなどできないではないか…私が男に興味がないのはお母様だってよく知っているだろうに…
「ちなみに、第二王子のロナルド様があなたに一目ぼれしたそうよ」
「くそったれの馬鹿王子が、いい迷惑だわ」
「聞かなかったことにするわね」
「いっそのこと、そのままの言葉で手紙を送りたいですお母様」
「やめて頂戴。レイラちゃんの生首なんて見たくないわ」
「お母様も第二王子の”お噂”はご存じでしょうに」
「だからこそのレイラちゃんへの”依頼”よ」
そういって涼しい顔でお母様はお茶を飲む。
王家からの”依頼”?婚約は依頼じゃなかろう。
「王家からの依頼は、”第二王子の根性を叩き直してくれ”よ」
「はぁ」
「なので、レイラちゃんが”婚約”する必要はないわ」
とんでもない話をしているはずのなのに、お母様はずいぶん平然と話されているが、つまりは替え玉を使ってもよいと言っているではないか…ん?まてよ。
「お母様、それはつまり”人間である必要もない”と認識してよろしいでしょうか?」
「えぇ、その認識でいいわ。レイラちゃんは一切”汚れない”から安心よ。それに…これを読みなさい」
そういって、お母様付きのメイド人形が手紙を差し出す。
裏には王家の紋章で封印されている。
この紋章、第一王子のものだ。
私は黙って手紙を開く。
『親愛なるレイラ・ドール様
この度、我が家のバカがご迷惑をおかけすることになりそうだ。
ただ、あいつは王族としてはあり得ないクズであり、私に次ぐ王位継承権を持つが、とてもではないが奴に王位を譲るわけにはいかない。
これを機会に、ドール家の力を借り奴を追い落としたい。
レイラ嬢には、身代わりの人形を制作していただき、奴が愚行を起こすよう差し向けてほしい。
見返りは君の好きなように要求してかまわない。
なおこの手紙は開封後100を数えるまでに自動的に消滅する』
ポッと端に火がついたので、私は手紙を宙に放つ。
証拠を残したくない手紙は、このように自動消滅する魔法をよく使う。
「なるほど、ではまず第一王子宛に返事を書いてもよろしいですか?」
「えぇ、その代わりその時点で王家からの依頼に対して、契約成立になるけれど大丈夫?」
お母様の顔が大変に笑顔だ。
事が順調に進んでうれしいのだろう。
いくらクソ野郎でダメ王子でだとしても、何の失態もなく廃嫡にはできない。
ようは、私にその口実を作れという”依頼”なのだ。
第二王子からの婚約話は丁度いい口実でしかないというわけか。
「問題ありません。ちょうどよい人形が出来上がったところです。せっかくだからこの依頼を受けて王家に恩を売りましょう」
「ところで、レイラちゃんは王家に何を望むの?」
何を当たり前のことを聞いているのだ、次期国王になる人間がなんでもくれるというのだ。
むしろ、母ですら望んだことだろう。
「もちろん、女同士の婚姻ですわ!」
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