専属メイドを得る
パーティーの翌日、我が家の人形たちが大ホールの片づけを進めている。
今日のホールの掃除は私の仕事だ。
今日は動きやすいように白のブラウスに黒のスカートを出してもらった。
人形の造形に関しては父や母に及ばないが、制御できる台数には自信がある。
最大で100体を同時制御するのなんて楽なものだ。
曾祖父様は1万の兵士人形を自由自在に動かしたと聞いている。
細かい制御が不要な自動制御人形であれば、私も同じぐらいの台数をうごせるだろうが、こういう作業をさせるとなると、個別制御が必要になるため、制御台数が稼げない。
今は30人を同時に制御している。
本当はもう少し、自立思考できる人形を増やしたい。
「レイラ、片付きそうかい?」
お父様のレスター・ドールが声をかけてきた。
どうも今日の仕事は終えたらしい。
「もう少しですわ。さすがにこれだけのパーティー会場を片付けるのは骨が折れます」
「まだ10歳で、この数の精密制御ができるだけ十分すごいんだがな…」
「ところでお父様、昨日の件はいつお話しいただけるのです?」
「片付けが終わったら話すので、執務室に来なさい」
「わかりました」
お父様が立ち去る後ろをお父様製作のメイドがついていく。
お父様の専属メイドは本当に素晴らしい造形をしている。
私もあれほどの顔の造形が出来るようになりたいものだ。
ただ、父にもプライドがあるらしく、お母様より美しくなる人形は作らない。
母は作るだけで、制御は出来ないのだが。
とはいえ、お母様は現在も国一番の美女と名高いので、それを超えるものを作るとなると相当骨が折れるだろう。
ちなみに、一般販売する人形については、王族よりきれいには作らないようにしている。
そのレベルであれば私も十分実用に耐える人形をすでに自作できるので、それなりに家の手伝いをしている。
この国ライスター王国は、はっきり言って小国である。
人口は200万人程度。主要産業は農畜産業である。
ほとんどの市民は農畜産業に従事しており”貴族を下支えするほどの人的資源”が少ない。
それでも、今の騎士団に”人形”は納品されていないが。
常に人手不足と言える我が国での、ドール家の貢献度は高い。
ライスター王国が小国家ながら、周辺国同等以上の文化レベルを保てているのは、祖父の代より貴族向け下働き用侍女・従者人形の斡旋を始めたおかげである。
おかげで、我が国に奴隷制度はない。
今やライスター王国内で我が家のドールが1体も入っていない貴族家はないと言える。
高位貴族向けの皆目麗しい侍女やメイドなどの製作はいまだに父と母の仕事だが、洗濯や掃除をするメイドなんかは私が製作している。
あと、愛玩用は父の専売だ。
あの内部造形は私にはまだ無理である。
そんなドール家の為、我が家には父と母の専属従者と、執事ぐらいしか”人間”がいない。
他の屋敷を維持するための人員はすべて人形だ。
自分の屋敷内で、より高度な自立制御人形を開発テストし、売ることを生業としているため、我が家には領地がない。
王都の屋敷と、山奥にある別荘地だけである。
ようやく片付けが終わり、父の執務室へ向かう。
「お父様、お時間よろしいでしょうか?」
「あぁ入りなさい」
先触れのメイドを向かわせていたのでスムーズに入ることができた。
執務机に座る父の前、私と同い年ぐらいの少女が一人、しっかりと頭を下げていた。
平民の礼だ。
髪はくすんだ銀髪ながら、艶はある。
風呂にも入らぬ平民のように臭くもない。
私と合わせるので、父も気を使ったのかもしれない。
「リラという…大変いいにくいが、一応お前の妹だ…」
「不潔ですわね。お父様」
隠し子を私のメイドにするというのか。
「アイシャには許しを得ている…それに彼女の母親はレイラの乳母だったのだ。」
「お母様の許しどころか、私の乳母だったと?信じたくない事実です」
「甘んじてその言葉は受ける、だがリラは先日母を亡くし、孤児同然となってしまったのだ。
私個人で今まで支援してきたが、流石に放置するわけにはいかない為引き取ることにしたのだ」
それで、私のメイドに着けようというわけか。
信頼している父の浅はかな一面を見た。
「要件は私の専属メイドにするとのことだったと思いますが、私がそれを認めると?」
「あぁ、レイラは認めるはずだ。私は確信している」
私が、このリラという娘をメイドとして認める?
寝言は寝てから言っていただきたい。
しかし、父は現当主であり私はその娘だ。
命令とあればメイドとして働かせるが役に立たないようなら即刻首を切ってやる。
「リラ、面を挙げなさい」
お父様の声に、リラがゆっくりと頭を挙げる。
平民のわりに、しっかりと教育されているようだ。
いや、私に会わせる前に教育したのだろう。
「私が認めるわけが…」
しっかりとこちらを見据えたリラを見て、私は言葉を途中で止めてしまった。
私に劣らぬ美少女がそこにいた。
瞳の色は私よりは明るい空色。
平民として生活していた割には白い肌。
そのスタイルの良さも私に劣らない。
「レイラお嬢様、専属メイドとなりますリラと申します」
再度礼をする。
中々にきれいな所作である。
今の私では、このリラほど美しい人形は作れない。
私と違い左目の下にある泣き黒子と少々垂れ目なところが、庇護欲をそそる。
それよりも、さっきから私の心臓の音がうるさい。
「…えぇ、よろしくね。リラ」
ようやく絞り出した言葉は、了承の言葉となってしまった。
きっとこれが一目ぼれなのだろう…
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