貴族学校へ入るための準備
最近はリラと一緒に作業をすることも普通になった。
私は人形を量産し、リラは服を修正する仕事をしている。
もはやメイドではないんだよな。
「リラは本当に裁縫がうまいわね」
「手先だけは昔から器用ですね」
「そういうところはドール家の血を引いているからかもね」
私も人形作りの腕は上がっている。
父に手伝ってもらった2体の補佐人形を作成したおかげで、顔の造形はかなり上がった。
レイラドールは例外的にうまくいっているが、男の顔の造形がなかなかできなかったのだ。
流石、両刀使いの父だなと感心してしまった。
今日の仕事を終え、夕食を食べる。
最近は、リラと二人で食べる。
母も最近は忙しいらしく城からの帰りが遅い、父も”愛玩人形”を制作しているからか、あまり部屋から出てこないのだ。
どうもテストに精が出ているらしい。
「そういえば、リラは父の仕事はどう思っているの?」
「へ!?え、あーと…」
リラは顔を真っ赤にし始める。
あぁ内容は理解しているのね。
「なんとなくわかったわ」
「私もレイラ様が擦り切れている理由もわかりました」
「まぁ来年には学校に行かないといけないと思うと面倒くさくて駄目ね」
「そういえば、レスター様から爵位をいただけると聞いたのですが」
「貴族学校に入るためね、子爵相当だからそれほど肩肘張らなくて大丈夫よ。すでにリラは伯爵家相当の淑女教育を完了しているから」
「え、そうなのですか?!」
「そうよ、聞いてなかったの?」
リラは頭をひねって思い出そうとしているようだが、私の淑女教育にも一緒に出ているのに何を驚いているのか。
「なので、リラは普通に学校で勉強してね。私は寮の部屋でのんびり人形でも作っているから」
「レイラ様は卒業資格をお持ちですものね…」
「学校にいる間に父から爵位を譲り受ける予定だしね」
「レイラ・ドール侯爵様…ですか」
実は、王家との約束の結果として、私が結婚することはないため父はすでに爵位を渡す気満々でいる。
なんなら母と一緒に別荘に引きこもりたいとも最近言い始めているので、どうしようもない人だ。
領地を持たないので、領地経営の知識は不要ではあるが、それでもいろいろ引継ぎというものがある。
実質この1年間で、父から実務を引き継ぐ予定だ。
第二王子は学園に入ってから女遊びに拍車がかかっているらしい。
普通の貴族は身の程をわきまえているが、帰国子女の男爵令嬢が天真爛漫に第二王子に粉をかけているらしく、殿下も乗り気のようだ。
よく学校でこの男爵令嬢を侍らせている。
しかも、この男爵令嬢。
私の人形を踏み台にして第二王子に近づいたのだ。
人の命令に純粋に従う人形なので、そこに付け込んだともいえる。
それにしても、どうも貞操感の緩い令嬢のようだ。人形に体を売ろうとするのはどうかと思うぞ。
それもあってか、第二王子からの手紙は本当に1枚ももらっていない。
この男爵令嬢と遊ぶ金として、”本来私用である”婚約者への資金を使い込んでいる。
会計人形が言われるがままに使い込んでいるだけだが、すべては殿下が命令するのが悪いのである。
「でも、リラとの寮生活は楽しそうね」
「はい、私も少し楽しみです」
「いっしょのベッドで寝たり、一緒にお風呂入りたいわね」
「そ、それは少々控えていただければと」
顔を真っ赤にしてちょっとだけ拒否するリラがかわいい。
一息ついた私は、席を立ってリラとダイニングを後にする。
「じゃあ、おやすみなさい」
私はそういって両手を広げる。
リラは私が何をしたいのか理解してそっと身を寄せる。
私がぎゅっと抱きしめると、まだ少し体がこわばっているのがわかる。
まだ慣れないようだが、こうして体を許してくれるようにはなってきている。
学校にいる間にもう一歩以上距離を詰められるといいのだが。
「…っおやすみなさいませレイラ様」
「もぅ、様はいらないのに」
「し、親しき中にも礼儀ありです…」
そういって、リラは自分の部屋へ戻っていった。
うん、まだまだかもしれない。
とりあえず今日は寝よう




