行きたくもないお茶会へ行く
届いた手紙の裏を見た瞬間全てを察してしまった。
送り主は王妃様。
王宮で7~12歳の貴族学園未入学の貴族令嬢を集めてのお茶会をするという。
きっと、第二王子の婚約者に私が決まったことを周知したいんだろう。
ちなみにこの手紙が届くまでの間に、第二王子からの手紙はない。
どうせ城でちやほやされて、私のことなど忘れているのだろう。
そのまま忘れてくれていて良いのだが、王家との密約がある以上そうもいかないだろう。
既にレイラドールはメンテナンスが終わっているし、参加自体は問題ない。
「あー気が進まない」
「レイラ様のそんなお顔初めて見ました」
私の隣で裁縫をしているリラが声をかけてきた。
今は依頼されている量産型メイド人形用の衣装にドール家の家紋を入れてもらっている。
これは、とある商人からの依頼で作っている簡易型外装のメイド人形だ。
魔石で動き、単純作業ができる。
部屋に置いておいて起動すると、周囲を確認して部屋の中を掃除してくれるものだ。
ちなみに、簡易型外装のため、あまり人間っぽくなく、人形だと分かる形状をしている。
高級品になると、魔法で人工皮膚をかぶせ、より人間っぽく造形するが、この子たちは塗装はされているがベースの木目がちょっとわかる形状をしている。
「この掃除メイド人形はすごいですよねぇ。勝手にお部屋を綺麗にしてくれるのは見ていてほれぼれしました」
「何言ってるのリラ?我が家でその辺を歩いてるメイドなんて全部人形なんだからこの子らよりよっぽどすごいわよ」
「…え?良くお部屋でお茶を入れてくれるソシエさんは人間ですよね?」
「何言ってるのアレは人形よ」
「はへ?!私こないだ普通に世間話してましたよ彼女と」
そういえば、リラはこないだソシエと楽しそうに話していたな。
人形のテストに付き合ってくれているのかと思っていたわ。
「それはそうよ、彼女にはそういう回路をつけているから。一般的なメイドの仕事がこなせ、主人に流行りの情報を伝え会話できるように調整してあるから」
「ほへー」
「ただ、自分が話せない話題については、”申し訳ありません、分かりません”と答えるのよ?」
「そういえば、お化粧から素材の話になったら、そういわれた気がします…」
「素材まではプログラムされていないからね。あと恋愛の話とかふると相槌は打ってくれるけれど、何にも聞いてないわよ」
基本的に、スパイ用の人形でない限りは会話や相手の動作などを記録しない。
ちなみに、レイラドールにはスパイ用の記録装置が入っている。
その影響もあって私が遠隔操作するようにしている。
貴族令嬢の一般会話ができるように回路を組むと、人形の頭には収まらないのだ。
「まぁお茶会は1ヶ月後だから、しっかりとメンテナンスをしましょう。リラがソシエに話しかけてくれたおかげで、会話回路についてはちょっとは進化しているはずだし、バージョンアップできそうね」
出来る事なら、私の制御化を離れてしまった時に短時間でも違和感なく貴族令嬢をしてもらえるのであればそのほうがいいのだ。
*****
お茶会当日。
私はお付きのメイドとしてリラと一緒に馬車に乗って移動している。
そして、向かいにはうっすら微笑みきっちり座っているレイラドールがいる。
今回、一部自立機動を組み込んでいるので、少々私から制御が途切れても貴族令嬢として粗相はしないと思われるが、より人間っぽく見せるためには、やはり直接操ったほうが良い。
私はお嬢様付のメイドとして、また茶色のウィッグをかぶり参加する。
今回は”貴族のお茶会”であるので、私が直接参加することも、人形の横に立つこともないが、同じ空間に居ることは出来る。
さて、第二王子にどんな嫌がらせをしてやろうか…
まぁすでにこのレイラドールが嫌がらせになる体形をしているんだけどな。
改造した通り、今日のレイラドールは少々ふくよかになっている。
ぽっちゃりではないし、ドレスも破れるほどパンパンではない。
ただ、明らかに超絶美少女からはちょっと外れている。
第二王子の反応が本当に楽しみだ。
どうせ出てくるだろ今日。
王城につき、案内状を見せるとサロンの一つに通された。
メイド姿の私は部屋の壁際で花ですよ。
席に案内され、レイラドールは座って待たせる。
顔見知りの令嬢から挨拶されるので返事をしているが、皆微妙な顔をしている。
そうだろ、侯爵令嬢に太ったわねとか言えないよね。
この年代の高位貴族では私は一番上。
公爵令嬢とかは居ますが王太子殿下と同い年や1個上などでこの会には参加していない。
既に学園も卒業されている年齢だからね。
第二王子は来年入学か。
「王妃殿下の御なりです」
ホールの奥、舞台の上座から王妃殿下が入場される。
私はすぐに制御を精密に切替、サッと立ち上がらせカーテシーをさせる。
私達メイドはカーテシーではなく頭を深く下げる。
うむ、レイラドールに片目をリンクする。
「苦しゅうない。皆面を上げなさい」
私はスッと姿勢を戻す。
メイドとしても顔は伏せたままで、お辞儀だけをやめる。
レイラドールから周辺情報を読み取る。
「今日は皆に報告がある。ドール侯爵令嬢、こちらへ」
「はい」
事前に聞いていたことだが、王妃様に呼ばれたのでするすると人形を移動させる。
王妃様の前まで来て今一度カーテシーをして振り返り皆の方を向く。
「ドール侯爵令嬢、レイラは第二王子の婚約者となった。皆覚えておくように」
つまりは、第二王子にもう手を出すんじゃないぞと釘を刺したわけだ。
まぁそれで王城に親の力で忍び込んでまで第二王子と繋ぎをつけたいというどうしようもない家が浮き彫りになるのだけれど。
王であれば側室を持つことも可能だが、そうでなければ基本浮気は許されない。
それでも、王族をそそのかそうとする貴族は知らないうちに社交界から消えることになる。
「おめでとうございますドール様」
「レイラ様おめでとうございます」
貴族令嬢達からお祝いの言葉をかけられるが、それ人形なのよね。
まぁ”騙せている”のだからよいか。
と思っていたら第二王子が入ってきた。
おい、執事に止められてんのに何ずかずか入ってきてんだ?
「レイラ!!貴様俺と婚約したのに、なぜ会いに来ない!!」
あ、アホな発言をしに来たのか。
招待状もなく王城に入れるわけないのもしらないのか?
「私は、第二王子殿下から王城へ来るよう招待状はこの2か月間一度ももらっておりません。招待状もなく王城へ来ることは出来ませんが?」
「そんなことなかろう、ここにいる令嬢達とは王城でよく会うぞ!」
「存じ上げません、他のご令嬢は別の要件で王城に呼び出されたのではございませんか?ただふらりと王城へ寄っても入ることができるのは一般公開されている正門から玄関ホールまでですよ?」
今にもつかみかかりそうな第二王子を王妃様が止める。
「ロナルド、何か勘違いしているようね?本来、貴族令嬢は勝手にあなたの住む王宮に入ることは出来ませんよ」
「な、なんですか母上、私はよく彼女らと会いますが」
「はぁ…どうせ父への届け物を持ってきたなどと言い、貴方に迫っていたのでしょう。それに引っ掛かる貴方も今一度王子教育が必要なようですね」
王妃様の言葉でロベルト様が固まっている。
また、ロベルト様に目線を合わせられた子爵家や男爵家の令嬢は固まっている。
バレていないとでも思っていたのか?
尻軽には尻軽が寄っていくのね…
「ロナルド様、私と婚約されているのですから浮気をされては困りますわね」
「な、なにを言う浮気など…」
「それならよろしいですがね」
レイラドールがフンと鼻を鳴らす。
ちったぁ常識をつけてから出直せ。
「だが、今日のお前を見れば招待状を出さなくて正解だったな。お前の今の成りでは俺の横に立つのにふさわしくない」
「さようでございますか、まぁご招待なく私が王城へ行くことはありませんでご安心くださいませ。これはあくまでも政略での婚約でございますから」
「全くかわいげのない…くそっ」
王子としてその言葉遣いはどうかと思いますよ。
ぷりぷりと怒りながら、第二王子は来た道を戻っていく。
まぁ私に興味を失ったのであれば成功だ。
「みな、ロナルドが失礼を致しました…皆様はこのように教養のない方はいらっしゃらないと思いますので、今日は節度を持って楽しんでくださいましね」
そういうと王妃様も退場された。
そこからは普通のお茶会が始まり、まったりとした時間を過ごしたあと、私は城を後にした。




