侯爵令嬢になったら、王子から声をかけられた
銀の鮮やかなロングヘア、切れ長の瞳は見事な蒼色、瞳の色に合わせた露出の全くないドレスは白い首筋をさらに細く見せている。レイラ・ドールは現在10歳。
まだ子供ながらも将来美しくなることが約束された様相の彼女は、現在父親の陞爵パーティーに参加している。
大陸の小国、ライスター王国に曾祖父が移り住んでから順調に爵位が上がり、今年侯爵となった。
曾祖母はライスター王国の独立戦争において、我がドール家の秘術”人形操作“により勝利をもたらし、子爵を受爵。
祖父は国の整備、王城建設の人員確保などによる功績をたたえられ伯爵へ、そして父はその仕事を継ぎ、いまだ揺るがない功績により、いよいよ侯爵となった。
「美しいお嬢さん、私と踊りませんか?」
壁の花になっている私に声をかけてくる貴族令息はこれで7人目。
自分の顔を鏡で確認してから声をかけてもらいたい。
私は、魔力を制御して回りに立つ一体のドールを操る。
「申し訳ないが、私のレディに声をかけないでいただけるかな?」
騎士のようにガタイが良く、大変に皆目麗しい蒼髪の貴族男性が私をかばう。
実は、今日父の代わりに私をエスコートをさせた人形だ。
ちなみに、”外国の貴族で伯爵家相当の衣装”を着せている。
「…い、いえ、申し訳ありません」
今回は素直に引き下がったらしい。
それでも粘る奴が5人は居たのだ、うんざりする。
まったく、まともにメイクもせず髪の艶もないガリガリの中級貴族令息ごときが、侯爵令嬢になる私と一緒に踊れると思っているのか…
「自立起動に移行、しょうがないダンスの相手をなさい」
「イエス、マイマスター」
いやいやながら、ダンスを一曲踊ることにした。
一応父が主役のパーティー、主催の娘として多少は目立っておかねばならぬ。
私をかばった貴族人形は私が手掛けたモノだ。
こういう夜会の時の障壁として急遽用意した。
雄型人形を作ったのは初めてだったが、なかなか良い出来だ。
急増なので、服の下までは仕上げていないが。
一曲踊りきると、周りから関心の声が聞こえる。
10歳のわりにダンスがお上手だ。
ドール家のご令嬢らしく大変美しいだとか、そういうやつだ。
侯爵家になるというので、それなりの貴族教育はしてもらっている。
この1年はしっかりと行ったダンスレッスンが生きてよかった。
ドール家は曽祖父の代からずっと美形ぞろいだったらしく、魔力がなく外に嫁いだ父の妹さんも絶世の美女だったそうだ。
ちなみに、外国の公爵家に嫁がれたとかで、一回もあったことがない。
さて、もう一度壁の花になろうかと思ったら、向こうから王族の一人が歩いてくる。
あれは第二王子のロナルド様か、こちらへ向かってくる。
この国の王族特有の綺麗な緋色の髪、赤色の瞳、スラっとしていながら筋肉がきれいについているのが衣装の上からも分かる。
私の好みではまったくないが…
「ドール侯爵令嬢、ぜひ私ともダンスを踊っていただけませんか?」
くそっ、王族じゃ断れねぇじゃねぇか。
「…はい、少々お待ちください」
ちゃんと顔は作れただろうか?
生身の男など触れたくもない。例外は父だけ。
手袋を直して出された手を取り、ダンスが始まる。
相手が体を寄せてこようとするが私はするりと躱す。
くそ野郎が、こっちに寄ってくんじゃねぇよ。
「ドール嬢は大変お美しいですね」
「…」
「まるで夜の月ような髪にその美貌、見惚れてしまいました」
「…」
リップサービスなんかいらねぇよ。
私は男になんて興味はない。
会話はすべて貴族的笑顔で流す。
1曲終わったので、私はサッとカーテシーをして父のもとに向かう。
「疲れただろうレイラ」
「えぇ全く。クズみたいな男どもに声をかけられると虫唾が走ります」
お父様がため息をつく。
「今のは聞かなかったことにしよう」
「レイラちゃんは本当に男の子に興味がないわね…」
「湯あみもまともにせず、香水で臭いをごまかす様な男など、近寄りたくもありません」
お母様までため息をつく。
私がこういう性格なのは今に始まったことではない。
4年も前からは男には興味がないと公言しているのだが、私の見た目はかなり綺麗なため釣書の山ができている。
キッチリすべてに対してお断りしている。
特に侯爵令嬢になるようになってから余計に届くが、すべてお断りである。
私の手を取ることを許している男性は父だけである。
「レイラ、そろそろお前に専属メイドをつけようと思うのだが、どうだろうか?」
「人間のですわよね?」
「あぁそうだ。…ちょっと訳アリでな」
訳アリか、拾ってきたのかな?
とはいえ、我が家は侯爵家ながら”生身の使用人”は片手で数えられるからな。
とりあえず会ってから考えることにする。
それにしても、このパーティー早く終わらないだろうか…
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