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p.5

 ようやく晴れ間の覗く日が戻ってくると、それに合わせたように、黒尽くめの子も、再び公園に姿を見せるようになった。黒尽くめの子は、相変わらず、気配を消しては、真由の背後に近づき、突然言葉をかけてくる。


 久しぶりに会った際は、以前の別れの気まずさから、真由はほとんど口を利かなかったのだが、それでも気にすることなく黒尽くめの子は、毎日のように声をかけてきた。いつしか二人は、昼のひと時を一緒に過ごすようになった。


 真由は、相変わらずタバコのポーチを持って公園へ来ていたが、黒尽くめの子がそばにいる時は、タバコを吸わなくなった。それから、もうひとつ公園へ持ってくるものが増えた。


 小さなパックの牛乳である。長雨が終わり、日差しが戻ってから、とても暑い日があった。そのとき、真由は、ふと、黒尽くめの子のために、パックのジュースを持って行ったことがあったのだが、受け取ってもらえなかった。ジュースは飲まない。できれば、牛乳が良いというので、それではと、翌日パックの牛乳を持っていくと、その子は、とても嬉しそうにそれを飲んでいた。


 黒尽くめの子が牛乳を飲んでいるあいだ、ぼんやりと空を見上げていた真由は、愛猫クロのことを思い出していた。


 クロが居なくなってから、早1カ月半ほどが過ぎていて、もう戻ってこないのだろうと、何となくは感じていた。少し前の雨の日に見かけたあの黒猫がクロかもしれないと思っていたが、確認しようにも、あれ以来黒猫の姿を見かけることはなかった。隣に座る黒尽くめの子に、黒猫のことを聞いてみたこともあったが、「知らない」の一言で片づけられてしまった。


 動物は、死期が近づくと姿を消すと聞いたことがあるから、もしかしたら、クロもそうだったのかもしれないと思いつつ、最期の時を看取ってやれないことがとても寂しく感じた。自分なら、最期の時まで誰かの温もりを感じていたい。そう思い寂寥感に浸っていると、牛乳パックから口を離した黒尽くめの子が、何気なく問いかけてきた。


「ねぇ。もしも夢が叶うとしたら、どうする?」

「は? 何よそれ? 世の中そんな簡単に奇跡なんて起きないわよ」


 真由は、これだから子供はと、呆れたように夢のない言葉を口にする。


「もしもだよ。もしも。そうだな。3つあなたの夢を叶えますって言われたら、何をお願いする?」

「そんなの決まってるじゃない。金、男、安定……って、こんなこと、子どもに言うもんじゃないわね」

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