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p.3

 翌日、真由はポーチを抱え、食後の一服をするために、再び公園へとやってきた。相変わらずの人気のなさなのに、真由は公園の敷地へ一歩足を踏み入れるなり、がっかりとした。


 今日もまた、真由の指定席には、黒尽くめの子どもが陣取っていた。服はもちろん、顔が隠れてしまうほど大きな鍔のついた黒い帽子から、先の丸まった黒い靴まで、全てが昨日と同じ格好の子がそこに居た。


 指定席とはいえ、真由が勝手に定めただけの場所なので、先客が居ては、その場所は諦めるほかない。彼女は、黒尽くめの子どもの前を無言で通り過ぎると、昨日よりもさらに先客から距離を取ったところに腰を落ち着けた。


 いつもと違う場所に、多少の落ち着かなさを感じつつも、早速ポーチからタバコとライターを取り出し、カチリと火を付ける。


 思いっきり吸った煙を、空に向かって細く長く吐き出していると、その煙と一緒に、日ごろの疲れが空に溶けていくような気がした。


 肺の中の煙を出し切り、再びタバコを咥えようとしたその時、呆れているような声が投げられた。


「タバコは、やめなって言ったのに」


 真由がビクリと肩を揺らし、声のした方へチラリと視線を向けると、黒尽くめの子がすぐそばに立っていた。まるで気配を感じなかったため、大いに動揺した真由は、それを隠すかのように、無意識に手を口元へと運び、タバコを咥える。


 大きく吸い込めば、それだけで激しく波打っていた鼓動が、いくらか落ち着きを取り戻した。それから、そばにいる子どもに煙が掛からないよう顔を背けて、深呼吸をするかのように、深く息を吐き出してから、小さく息を吸うと、子どもの方へと顔を向けた。


 気配は感じさせないくせに、そこに居ると分かってしまうと、痛いくらいにヒシヒシと視線を刺してくるその子に向かって、真由は、大人げなく顔を(しか)めて見せる。


「構わないでくれる? あなたには関係ないよね?」


 真由の殊更に鬱陶しそうな物言いに、普通ならばそこで、言葉を失うであろうに、その子は臆することなく、言葉を返してきた。


「関係なくないから、言ってるの」


 その子どもらしからぬ物言いにカチンときた真由は、思わず声を尖らせる。


「何? 副流煙とかが迷惑とでも言いに来てるわけ? だったら、近寄って来なければいいでしょ? こっちだって、それなりに配慮して距離取ってるんだから」


 シッシと手であしらえば、黒尽くめの子はそれ以上は何も言ってこず、クルリと踵を返し去っていった。

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