バケツ
「お茶入れたぜ」
友人宅に遊びに行くと、友人がお茶を出してくれた。
「ありがとう」
俺は礼を言って、お茶に口をつける。味わいながら、半分くらい飲んで、置いた。すると、周囲の物がどんどん大きくなっていく。なんだ。どうなっている。
「どうやら、成功のようだ」
彼の声が聞こえる。目の前にいた友人は見上げなければならないくらい巨大化していた。成功。どういうことだ。
「なあ、これはどうなってる。なんで、周りが巨大化しているんだ」
「巨大化したんじゃねぇ。お前が小さくなったんだよ」
そんなことにも気づかないのか、と友人が呆れた声で呟く。なんだって。おれがミニマムサイズになっていたのか。
「なんで、俺がこうなってんだ」
「俺が小さくなる薬をお茶に入れたからだ」
彼はドヤ顔で説明する。そんな薬がこの世に存在するのか。いや、現に俺は小さくなっている。存在はするのだろう。
「どうして、こんなことをする」
理由が分からなかった。何故友人がこんなことをするのか。すると、彼は信じられないことを口にした。
「いや、人を小さくしたかったんだよな。で、ちょうどお前の顔が思い浮かんできたから、試してみようと考えたわけ」
そんな理由で俺を小さくしたのか。
「早く元に戻せ」
「断る」
俺の叫びに友人はそう言った。すると、友人は俺を素手で掴んで来た。くそ、離せ。暴れて逃れようとしたが、友人の巨大な手に為す術もなかった。そして、そのまま友人は俺を持ちながら、歩き始める。それから、少し歩いたところにあった蓋付きのバケツの蓋をもう片方の手で開ける。蓋を置いた後、俺をそのままバケツの中に入れる。
「うわあ」
入れ方がやや乱暴だったので、俺は驚いた声をあげる。しかし、彼はそんな俺を気にしないで、バケツの蓋で閉じる。途端に真っ暗になった。何も見えない。辺り一面闇が広がるのみだった。恐怖を感じた俺は叫びながら、バケツの側面をグーで叩く。何度も。何度も。
すると、バケツが突然揺れだした。ものすごい揺れだ。俺は何度もバケツの側面に激突した。痛い。
「あんまり、うるさくするなよ。近所迷惑だろ」
外からくぐもった声友人の声が聞こえてくる。恐らくバケツを思いっきり揺らしたのは彼の仕業だろう。ふざけるな。俺を閉じ込めた奴が正論を言ってんじゃねぇ。だが、うるさくすると、またやられそうだったので、俺は叫んで叩くことはやめた。
時間が経過した。俺はいつの間にか眠っていたようだ。
「うーん。今日も良い朝だ」
外から友人の声が聞こえてきた。どうやら、昨日一日寝ていたようだ。あれから何も口にしていない。あいつは俺を餓死させる気だろうか。
どれくらいの時間が経ったか分からない。意識がもうろうとしている。なにも飲食物を口にしていないから、当然であるが。あ、意識が。
俺は意識を失って倒れた。