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第六話 朝から……

 封術師――それは、鬼獣と呼ばれる化物を封じる事の出来る者。

 ガーディアン――封術師を守り、鬼獣と戦う事の出来る者。

 サポートアームズ――封術師・ガーディアン。双方の持つ意思のある武器で、鬼獣と戦う為には必要なモノ。

 突然、そんな説明をされ、数日が過ぎた。

 普通はそんな話をされても信じないのだろうが、自分の身に起きた事を考えれば、素直に信じられる。世の中には自分の知らない事がまだまだある、と思い知らされた。

 雪国さんは封術師で、とある組織の第一東支部に所属しているらしい。水守先生もその組織の一員で、現在はこの町一帯を管理している、と本人は言っていた。組織名は現在は無いらしく、水守先生曰く、一昔前は『クロノス』と名乗っていた様だ。


「ふぅーっ……」


 不意に零れる吐息は、これで数十回目となる。自分の置かれた状況や、自分が踏み込んだ嘘の様な世界。いっそこれが夢なら良いと何度も思い床に就くが、目が覚めればあれが夢で無く現実だと突きつけられてしまう。その原因は、僕自身の体。そう、僕の中に眠る『共喰らい』と呼ばれる存在。それが、毎朝の様に問いかけて来るのだ。


(我を解放しろ)

(力を欲せ)

(貴様の望みをかなえてやる)


 毎朝、そんな言葉で目を覚ませば、ため息も吐きたくなるものだ。そして、もう一つの目覚ましが部屋の外からドタドタと足音を響かせてくる。


「今日は僕が――」

「違うよ。今日は私が――」

「へへーん。起こしたもん勝ちだもん!」


 美空の勝ち誇った声が聞こえ、戸が乱暴に開かれた。その瞬間に、「ダメェェェッ!」と優海の叫び声が響き渡る。朝から二人とも元気だ。でも、優海が叫ぶを久し振りに聞いた気がする。いつ以来だろう――と、物思いにふけっていると、


「あぁーっ! 晃、起きてるし!」

「うううっ……今日は私が……お兄様を……」


 涙声の優海がコソッと戸の向うに顔を出す。眼鏡越しに涙を溜めた目がキラキラとこちらを見ている。その表情は愛くるしく、何故か罪悪感を感じる。


「ご、ごめんな。でも、もう高校生だから、自分で起きられるからな」


 とりあえず謝ると、瞳を潤ませながら僅かに頷く。が、その言葉に反発する人物が一人。美空だ。不服そうに頬を膨らし、唇を尖らしブーブーと文句を言い出す。


「晃〜。こんな可愛い妹が起こしてあげるって言うのに、その言い方はないだろ」

「いやいや。こんな事してる暇あったら、学校行く準備しろよ」

「晃は分かってない! こんな可愛い妹に毎朝起こしてもらう。その需要を分かってないよ」


 妙に『可愛い妹』と、言う言葉を強調して聞こえる。まぁ、可愛いのは認めるけど、自分で言うのはどうかと思う。

 その後も、美空は色々と文句を言っていたが、軽く受け流しつつ部屋から追い出した。部屋を追い出しても戸の向うから聞こえてくる美空の声に、小さくため息を吐くと、頭の中にあの声が聞こえてきた。


(ウルサイ連中だな)

「……はぁ〜」

(朝から疲れてるようだな。我はいつでも代わってやるが――)

「はいはい……。勝手にいつも出て来るだろ……。疲れてるとか関係なく」


 多少、苛立っていた。突然、自分の中に現れた、キルゲルと言う存在に。この先、ずっと一緒かと思うと憂鬱になる。さっきも言った様にキルゲルは勝手に体を使う。別に体を使うのがダメと言うわけではなく、自分の知らない場所で自分の体で色々されると、言うのが嫌なのだ。

 実際、キルゲルは何度も体を利用したらしく、今噂になっている夕刻の化物の正体も、彼の事らしい。いや、正確には僕の体を借りたキルゲルなわけだから、傍から見れば僕がその化物と、言う事になる。雪国さんと初めて対峙したのも、僕の知らない場所で僕の体を使ってだった。

 小さくため息を漏らし、制服に着替え終えると、頭の中にもう一度キルゲルの声が聞こえた。


(悪かったな)


 突然謝られた。背筋が凍り付き、体が機能を停止する。な、なんだろう。今、凄く気持ち悪かった。そう思った矢先、


(貴様には二度と謝らん)


 そこで、理解した。キルゲルには、僕の思考が伝わっているのだと。深く息を吐くと、更にキルゲルが言葉を続けた。


(言っておくが、我とて好き好んで、貴様の思考を読んでるわけじゃない)

「僕は何も言って無いですけど」

(言って無くても、考えただろ)

「そりゃ、考えるだろ。突然、こんな状況になったら」

(我とて、永い眠りから起こされてみれば、この状況なのだからな)


 迷惑そうにキルゲルがそう言う。キルゲルの言い分だと、誰かに起こされたと言う事になる。けど、一体誰に? そんな疑問が生まれたが、考える前に廊下から美空の声が響く。


「晃ァァァァッ! ご飯冷めちゃうだろォォォォッ!」

「……」

(朝から、元気だな)

「全くだよ……」


 小さくため息を吐き、カバンを持ってから部屋を後にした。一階に下り顔を洗ってから、リビングへと向う。足取りは相変わらず重いが、漂う朝食の良い匂いが、自然と足を動かした。リビングでは優海が自分の指定席で朝食を食べ、キッチンでは美空が忙しなく動き回っていた。

 自分の指定された席に腰を据え、小さくため息を零すと、斜め前の席に座る優海が心配そうな視線を向け、


「大丈夫? あんまり、無理すると倒れちゃいますよ」


 と、優しい言葉を掛けてくれた。相当疲れた様な顔をしていたのだろう。

 心配掛けまいと、微笑んでみせる。すると、優海も微笑み、ゆっくりと箸を動かす。のんびりしていると言うか、おっとりしていると言うか、何ともマイペースな優海の動きがピタリと止まる。

 優海が停止して数秒の後、キッチンから美空が足早に登場。その手には朝食の乗ったお盆とハリセンが一本。


(ハリセン? 何に――)


 キルゲルが僕に問うより先に、美空の鋭い一撃が優海の頭部を叩いた。ハリセンが良い音と奏でると、優海が目に涙を溜めながら美空の方へと顔を向ける。


「い、痛いよぉ〜。美空ちゃ〜ん」

「食事しながら寝るからだ!」


 怒鳴られシュンと縮こまる優海は、またゆっくりと箸を動かす。優海は何処でも寝てしまう癖があるが、まさか食事中に寝るとは――恐ろしいな。そんな優海に小さくため息を零した美空は、お盆を僕の前に置き、


「これ、晃の分。味わって食えよ」

「何故、上から目線」

「僕が偉いからだよ」


 どの口がそんな事を言う。そう言いたかったが、ここは美味しい朝食にありつく為に我慢する。しかし、美空も苦労してるんだな、とシミジミ感じる。もしかすると、学校でもあのハリセンで――流石に無いか。

 自分にそう言い聞かせ、静かに美空の作った朝食を頂く事にした。鮭の塩焼きに大根の味噌汁、厚焼き玉子にきんぴらごぼう。朝から盛大な事で……。厚焼き玉子を一口――美味い。流石、美空と言った所だろう。料理は天下一品だ。


(ハリセン……)


 ボソッとキルゲルの声が聞こえたが、無視して朝食を食べ進めてると、美空が思い出した様に、


「そう言えば、晃知ってる?」

「唐突になんだ?」

「今朝、落雷あったんだって」

「へぇ〜っ。気付かなかったな。この辺か?」

「いえ。確か、お父様が言うには隣り町の青桜学園に落ちたみたいだよ」


 のんびりとした口調で優海が横から口を挟み、またゆっくりと箸を動かす。憮然としてるのは美空。天然なのか、狙ってやったのか分からないが――恐ろしいな。味噌汁を啜り、静かに優海の方に目をやるが、本人は至って平然としていた。ワザとやったわけでは無い様だ。憮然としている美空も、それを知ってるからか、特に文句を言う訳でも無く話を続ける。


「その取材に行くって」

「取材? 落雷で?」

「何でも、スクープの匂いがするって」

「ただの落雷がねぇ……」


 味噌汁を啜り、静かに呟いた。

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