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第五十七話 役者は揃った

 静寂の中、久遠と睨み合う。

 キルゲルの伝えた光属性と言う言葉に驚きを見せていたが、すぐに久遠の顔に笑みが戻る。

 確かに、衝撃を受ける直前、久遠の手から光が放たれていたが、まさかそう言う属性だったとは思わなかった。

 キルゲルの柄を握り締め、右足をすり足で僅かに前に出すと、


「知っていたのか。まぁ、流石と言うべきか。でも――」


 久遠の声が途切れ、その背後に一つ影が浮かぶ。腰まで届く髪を揺らし、綺麗な顔立ちのその人物に、思わず声を上げる。


「み、皆川さん! な、何で!」

「あの二つは引き合うんだよ」


 僕の声にそう返答したのは久遠だった。口元に笑みを浮かべ、こっちを見据えるその瞳が不気味に輝く。


『クッ! まさか!』


 久遠の言葉にキルゲルが焦った様な声を上げる。焦るキルゲルの様子に僕も状況をすぐに把握した。引き合う。それは、封印された力と鍵の事だろう。強大な力同士が引き合い、鍵を持つ皆川さんがこの場に引きずり出されたのだろう。

 奥歯を噛み締め、キルゲルを握る手に力を込めた。体重を右足の指先への乗せ、一気に地を蹴る。集めた風が背中を押し、一陣の風になった様に久遠との間合いが縮まり、キルゲルを一閃する。

 だが、その刃は久遠の首筋に触れる直前にピタリと動きを止めた。何か強い力で押さえつけられている様な感覚だった。

 柄を握る手に力を込めつつ久遠の顔を睨む。すると、久遠の口が静かに開く。


「君の刃は俺には届かない。彼女は死ぬ。確実に」

「――ッ!」


 その言葉に振り抜いた剣を振り上げ、叩きつける様に振り下ろしていた。刃が空を切り地面を砕く。砕石が土煙と一緒に舞い、久遠は白銀は翼を広げ空へと飛び上がっていた。皆川さんを背に、空中に舞う久遠を睨む。


「クフフフッ……。心が乱れているよ」


 不適な声に、奥歯を噛み締め眉間にシワを寄せ怒鳴った。


「黙れ! お前だけは――」

「晃君?」


 僕の怒鳴り声に、皆川さんが我に返りそう呟いた。穏やかで優しいその声。そして、彼女の澄んだ大きな瞳が僕を真っ直ぐに見据え、その視線がキルゲルへと移されると、驚いた様に手で口を押さえた。


「あ、晃君……それ――」


 切っ先に付着した血を指差す皆川さんが一歩下がった。瞳孔が開き明らかに畏怖しているのが分かる。それでも、言えるのはただ一言だけだった。


「ごめん。今は説明出来ない。でも――」

『来るぞっ!』


 キルゲルの声で気付き、思わず皆川さんを突き飛ばす。彼女を巻き込んではいけない。そう判断して。

 衝撃が体をなぎ払い、地面に激しく体打ち付ける。激しく舞う土煙が体を覆い、視界が遮られた。体を起こすと同時にキルゲルが体を支配する。

 だが、すぐにキルゲルの体がよろめき、立膝をつく。遅れて、轟音が響き、激しい衝撃が体を襲う。


「くっ……」

(キルゲル!)

「大丈夫だ。安心しろ」


 キルゲルが静かに呟き、構えた刃を振り抜いた。風の刃が土煙を裂き、その向こうに久遠の姿を捉えた。


「クッ!」


 予期せぬ一撃だったのだろう。久遠は刃を頬に掠め鮮血が僅かに宙を舞う。


「我、望む! 貴様の死を!」


 キルゲルが低音の声でそう述べ、取り巻く風を放出し土煙を吹き飛ばした。体が異様に軽かく、不思議と力が増した感覚を感じた。キルゲルとのシンクロ率が上昇しているのだと、初めてその身に感じる。


「晃……君?」


 不意に聞こえた皆川さんの声。僕とキルゲルの意識が入れ替わった事に気付いたのだろう。

 だが、それを無視し、キルゲルは右足を踏み出す。右手を引き剣を顔の横で水平に構え、静かに息を吐く。耳に聞こえる風の音に静かに瞼を閉じ、すぐに見開くと、腰を僅かに落としたかと思った瞬間に一気に地を蹴った。

 衝撃と土煙だけを残し、空中に浮く久遠の背後へと回り込んだ。これならいける。そう思い刃を振り抜く。だが、刃はいとも容易く受け止められた。久遠の手に形成された光り輝く光の剣によって。


「全く、いい加減にしてくれないか」


 一瞬で剣が弾かれ、無防備になった腹に蹴りが入った。地面へと激しく叩きつけられ、爆音と衝撃が土煙と一緒に広がった。だが、キルゲルはすぐに体を起こし走り出す。その瞬間、久遠の手から剣が放たれる。切っ先を確り見据え、紙一重でかわすと久遠へと跳ぶ。


「君の行動には飽き飽きだ。来い! 水虎! 馬駆炎ばくえん!」


 二枚のカードが久遠の手から放たれ、二体の鬼獣が召喚される。一体は水の虎、もう一体は蹄に炎を灯した馬。その二体を見据え、キルゲルは小さく舌打ちをし、地上へと降り立った。

 久遠との間に立ちふさがる二体の鬼獣を睨み、すぐに視線を久遠へと上げる。


「久し振りの外の空気だ」


 雄々しい声が耳に届く。その声の方に目を向けると、青色の液体の様な肉体をした虎が牙をむき出しにコチラを睨んでいた。その隣りに佇む漆黒の馬体を揺らす蹄に炎を灯す馬が、長い首を揺らす。


「――状況は……分かった」

「ヘッ……。奴を食らう。それだけだ!」


 水虎が地を駆ける。牙をむき出しにして。その姿を見据え、キルゲルは眉間にシワを寄せたかと思うと、ゆっくりと歩みを進めた。そして、静かに二人の体が交錯し、疾風が駆ける様に一陣の風が吹き抜けると、水虎の肉体が弾け消滅する。

 その瞬間、馬駆炎が驚き、怒鳴った。


「き、貴様!」


 怒りに任せ突っ込む馬駆炎に対し、キルゲルは鋭い眼差しを向け、


「邪魔だ。消えろ」


 と、剣を一振りした。刃は何もなかった様に振り抜かれ、何事も無くキルゲルは足を進める。その横で弾ける様に消滅する馬駆炎。ただ、風だけが吹きぬけ、二枚のカードが宙を舞った。

 ゆっくりと顔を上げ、久遠を睨む。剣を顔の横に水平に構え、すり足で一歩左足を前に出す。


「これで――」


 そこで、キルゲルが言葉を止め、渋い表情を浮かべる。風が急激に弱まり、久遠も校門の方へと視線を向け不適に笑う。


「これで、役者は揃ったみたいだ」

「――くっ! こんな時に」


 僅かに焦りの見えるキルゲルは、静かに校門に佇む少年、火野守とその武器フロードスクウェアを見据える。無造作な黒髪を揺らし、その体格に似つかわしくない大剣を握る守。身長は僕とそんなに変わらない様に見えるが、大剣の所為か彼の姿は少しだけ小さく見えた。


『アイツは――』

「月下神社で見かけた彼――みたいだけど……」

『なら、アイツが原因か』


 のん気に校門の前で佇み話す二人に、宙を舞う久遠が突然口を開く。


「初めまして。火野守君。そして、フロードスクウェア」

『知り合いか?』

「今、初めましてって、言ってたでしょ」

『そうか?』


 唐突にコントの様な掛け合いをする守とフロードスクウェアに、キルゲルが怒鳴った。


「てめぇら、何しにきやがった!」


 キルゲルの声に、彼はゆっくりと右足を一歩踏み出すと、先程まで穏やかだった表情を一変させた。空気が一瞬で張り詰め、妙な迫力に呑まれる。だが、それもつかの間だった。


「火野君!」


 と、言う皆川さんの一声で、彼は驚き奇妙な声を上げうろたえ始める。


「うおっ! な、なな何でみ、皆川さんが!」

『ば、馬鹿! 動揺してる場合じゃ――』

「邪魔だ。消えろ!」


 うろたえる彼に対し、キルゲルは一気に地を駆ける。一瞬の事に驚く彼に、キルゲルは右足を踏み込み一気に刃を振り抜いた。

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