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第四十八話 赤い少女と真実

 深夜の神楼学園。そこに僕は居た。

 静けさ漂うその屋上で、冷たい風を体に浴びる。

 雲が流れ、僅かに欠けた月が町並みを照らす。そんな町並みをフェンス越しに見ていると、背後に人の気配を感じ振り返る。紅蓮の長い髪を揺らす一人の少女。体つき・背丈、全てが小学生位に見えるその少女は、一歩前へと出ると軽く頭を下げた。

 ゆっくりと顔が上げられ、鋭い赤い眼光がこちらを見据える。思わず身構えると、少女は右手をスッと前に出し小さな口を静かに開いた。


「あたしはゼロの使い。今回はあんたと争う気は無い」

「…………」


 彼女の言葉に肩の力を抜くと、頭の中にキルゲルの声が聞こえる。


(気をつけろ)

(分かってる)


 頭の中でそう返答すると、彼女はそれに気付いたのか、右手の人差し指にはめた赤い水晶の付いたリングを外し、それを具現化した。彼女の背丈以上の大きな刀が現れ、その柄頭で小さな赤い水晶が光を放つ。


『我が名はヘイスト。我が主、鋭炎えいえんの手により生み出されたサポートアームズ』

「生み出された?」

「そう。あたしが作ったのよ」


 思わず聞き返すと、鋭炎と呼ばれたその少女が静かに答え、その刀を自らの右隣に突き刺した。『イタッ』と、切っ先が床に刺さると同時にヘイストは声を上げるが、鋭炎は気にせずジッとコッチに赤い瞳を向ける。

 可愛らしい顔立ちだが一切表情を変えず、赤いワンピースの裾だけが夜風に揺れる。赤が彼女のトレードマークなのだろう。赤い髪・赤い瞳・赤いワンピース。これで靴まで真っ赤と来た。見ていて清々しい程だった。

 相当、訝しげな表情をしていたのだろう。鋭炎の表情がやや不機嫌そうに変わり、胸の前で腕を組むと、一層鋭い視線を向ける。


「何か言いたい事でもある?」

「い、いや。別に……」

「そう。それじゃあ、あんたも具現化しなさいよ」


 彼女のその言葉に思わず警戒し眉間にシワを寄せると、キルゲルが「いい。具現化しろ」と頭の中で囁いた。軽く頷き拳に力を込めると薄らと光が拳から漏れ、手の中に綺麗な柄が握られ、細身の白刃が静かに姿を見せた。


『我がキルゲル。コイツのサポートアームズだ』

「あんたがキルゲル……ふーん」


 意味深にそう呟いた鋭炎の目付きが僅かに鋭くなった。観察する様なその眼差しに、キルゲルは不快そうな声を上げる。


『貴様は何者だ』

「あたしは鋭炎。鋭い炎と書いて、鋭炎。ちなみに、名の意味は――」

『主よ。そこまで、聞いてはいない』


 鋭炎に対しヘイストが静かにそう述べると、「そうね」と鋭炎は静かに答え小さく息を吐き、自らの刀の柄頭を撫でた。愛しい人でも見る様なその優しげな眼差しに、『やめろ!』とヘイストが抗議するが、その言葉を鋭炎は無視し、「ふふふっ」と静かに笑う。なんとも微笑ましい光景だが、それは犬や猫ではなく刀だと言うのがどうにも違和感たっぷりだった。

 暫しその光景を眺めていると、キルゲルが呆れた様に大きなため息を一つ吐き、鋭炎がその手を放しこちらに僅かに赤く染まった顔を向けた。


「あ、あたしはゼロの使い! あんたに伝言を伝えに来た!」


 恥ずかしそうに早口でそう言う鋭炎に、思わず笑いを噴出した。その瞬間に、キッと鋭い眼差しを向けるが、その顔はあまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤に染めていた為、余計におかしく笑いを堪えるのに必死だった。


「な、何がおかしい! 貴様!」


 頬を赤く染めながら怒声を響かせる鋭炎が、どこか幼い子供の様に見えた。こうやって見ると、そこら辺にいる人と変わりない彼女の姿。本当に彼女が鬼獣なのかと、思わせる程だった。

 ムスッとした表情を浮かべる鋭炎は、腕を組みそっぽを向きながら刺々しい口調で言い放つ。


「二日後。久遠達樹が青桜学園に現れる。狙いは鍵である皆川奈菜を殺す事」

「えっ! み、皆川さんが鍵!」

「何? 知り合い?」

「えっ、ああ……まぁ」


 思わずそう返事をしたが、内心動揺し、殆ど生返事だった。皆川奈菜は、中学の時の同級生だ。同じ生徒会に所属し、結構仲は良かった。恋の相談なんかもされ、入学式前、僕は二人きりで会い、その相談に乗ってあげて以来になる。まさか、こんな所でその名前を聞くなんて、思っても見なかった。

 困惑していた。正直、どうして皆川さんが鍵なのかと、言う疑問ばかりが頭に浮かぶ。そんな考えを悟ったのか、鋭炎は小さく息を吐き告げる。


「皆川奈菜は、幼い頃、この街に住んでいた。ある事件に巻き込まれ、その時あんたは彼女を助けている」

「えっ?」


 思わぬ鋭炎の声に驚きの声を上げると、鋭炎のサポートアームズであるヘイストが静かに告げる。


『お前が一度死んだ。あの日だ』

「記憶は戻りつつあるはずだよ。ゼロの話だと、そろそろ完全に思い出すはずだって」

「そう……だね。薄らとだけど、記憶は戻ってきてるよ」


 正直にそう言うと、「やっぱり」と鋭炎は静かに呟き、腕を組み右手を口元へと当てた。何かを考えている様なそんな姿に、キルゲルは不快そうな声を吐く。


『何かあるのか、コイツの記憶が戻る事が?』

「……そうね。あんた達には言っておくわね。キルゲル。あんたの封印はあと二日で消えるわ」

『なっ! そんなバカな事があるか! アレは完全に――』

『お前だって感じているはずだ。自分が封印したんだからな。あの鍵の力が漏れ始めているのを』

『くっ!』


 ヘイストの言葉に、図星を突かれたのかそう声を吐く。ハッキリと分からないが、キルゲルも感じていた様だ。封印の力が弱まっているのを。だが、それは気のせいだと、自らに言い聞かせていたのだろう。

 暫しの間、沈黙が流れた。キルゲルは押し黙り、鋭炎は小さく息を吐き難しそうな表情を浮かべる。ヘイストは何を考えているのか分からないが、ただ黙りこちらを窺っている様に見えた。

 僕自身は、何も考えていられなかった。ただ、自らの心を鎮めるだけで精一杯だった。皆川さんが鍵で、幼い頃にあっている。もしかすると、加奈が言っていた女の子と言うのが、皆川さんだったのだろう。でも、どうして彼女が鍵を――。

 頭の中に浮かんだ疑問を、ぶつけようと視線を上げると、口元に手を当てていた鋭炎が眉間にシワを寄せながら、


「彼女は生まれもって鍵を所有しているわ。鍵に選ばれたのよ。彼女は。いいえ……もしかすると、彼女自身が姫の生まれ変わりなのかも知れないわ。だから、鍵は彼女の元に――」


 鋭炎の言葉に瞳孔が開く。


「ちょ、ちょっと待てくれないか! どう言う事だ? 鍵って言うのは、今まで何処にあったんだ? 何で、皆川さんに――」

『だから、それは鍵がその女を――』

「違う! そうじゃない! 皆川さんの中に入る前だ!」


 声を大にして言い放つと、鋭炎も怪訝そうな表情を浮かべる。


「言われてみれば……それは、調べてなかったわ。確かにそうね。思えば、一番疑問を抱かなきゃいけない所だったわね」

『どう言う事だ? 鍵がその女を選んだのだろ?』


 ヘイストが何を言ってるんだと、言いたげにそう言い放つと、鋭炎は小さく息を吐き、呆れた様な表情を浮かべる。


「いい。今は、その娘の中にあるかも知れないけど、彼女が生まれて、せいぜい十六年程よ? 鍵が出来たのはいつだと思ってる? 数百年も前の話よ? その間、鍵は何処に存在していたって言うのよ?」

『それは、我が封印していた。ずっとな』


 突然、キルゲルがそう言葉を発する。その言葉に、思わず「えっ」と鋭炎と同時に声を上げると、キルゲルは『すまん』と、小さく謝った。


『晃。元々、我はその娘の中で、鍵と共にあった。今までも、ずっと……封印を施した時から、鍵の存在を知られぬ様に、多くの人に寄生しながら長い時、鍵を守っていた。だが、あの日、気付いた者が居た。あの娘の中に眠る我の存在……いや、鍵の存在に。その時、大きな戦いに、一人の少年が巻き込まれた。鍵を持つ少女を守る為に、犠牲になったのだ。辛くもその戦いで鍵の力を奪おうとする者を撃退した二人の女性が居た。一人は我と鍵の存在に気付き、少年を助ける為に我の力を借りたいと申し出た。彼女は必死だった。戦いに巻き込み、失われた少年を助けたいと、涙ながらに我に訴えた。我としても、そうしたかったが、鍵自身がその娘の中から離れようとしなかった。その為、彼女は苦肉の策として、我だけを取り出し、その少年の心臓として埋め込んだ――』


 キルゲルが静かに一気にそう告げると、鋭炎は静かに頷き、僕も理解した。自分が死んだあの日の事を。

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