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第四十二話 世界を変える力

 放課後。

 足早に帰路につく。

 特に今日は早く帰りたかった。

 昨夜の事が気になっていたと、言う事もあるが、体がまだ本調子では無かった。

 傷は癒えている様だが、昨夜受けたダメージは相当大きかった様だ。体の芯の部分にまだ疲労感の様なモノが残っていた。


(大丈夫か?)


 キルゲルが、頭の中でそう呟く。


「そう見えるか?」


 小声でそう返答すると、そうか、と静かに返答された。キルゲル自身も、昨夜の事で少なからず責任を感じている様で、今日はいつもよりも大人しかった。嘘でも「大丈夫だよ」と、言えばいいと思うが、僕とキルゲルは体を共有している為、大丈夫じゃないと言う事はキルゲルもすぐに分かり、余計に落ち込むと思うのでやめた。

 静かに一人自宅へ向かう道を進んでいると、不意に違和感を感じ足を止めた。人が居ない。いつもなら、この時間下校する生徒達や近所の人達が行き交う道なのに。幾らなんでもここまで人が居ないなどと言う事はおかし過ぎる。

 それに、何か不気味な感覚が体を取り巻いている様に感じた。


(晃!)


 キルゲルの声に顔を上げると、そこには白銀の翼を広げた一人の男が浮かんでいた。愛のセイラよりも、美しく輝きを放つその翼が大きく羽ばたき、その風が髪をなびかせる。両足で確りと地面を踏みしめ、その風に耐えながら、その男を見ていると、男は口元に笑みを浮かべ、


「桜嵐晃……だよね。キミの持ってる鍵を、渡してもらおうか?」


 突然そう告げると、右手を差し出す。

 一体、何の事だかさっぱり分からない。現在持っている鍵の事だとすると、それは家の鍵位だ。こんな見ず知らずの人がそんなモノ欲しがるとは思えない。

 一人で考えていると、不意にキルゲルの声が聞こえた。


(アイツの言う鍵ってのは、我の事だろう)

「えっ? それじゃあ、アイツが欲しがってるのって……」

(ああ。我だろうな)


 冷静にそう返答する。

 その間に男はゆっくりと地上へと降り立ち、背中から生えた翼を消すと、こちらに静かに笑みを浮かべる。男とは思えない程綺麗な顔立ち。金髪の髪はまるで日本人とは思わせぬ程美しく煌いていた。


「さぁ、そろそろ、渡してくれるかな?」

「一体、何の事を言ってるんだ?」


 落ち着いた口調でそう返答した。キルゲルから聞いて、狙いは分かっていた。だが、本当に狙いがキルゲルなのか、それを探るためにそう返答した。それに、コイツに渡してはいけないと、心臓が大きく脈を打った気がした。

 僕の返答に対し、困った様に腕を組んだ男は、右手で鼻先を掻く。


「そっかそっか。ゴメンゴメン。言い方が悪かったかな?」


 と、清々しい程の爽やかな笑顔を向ける。けど、その笑顔が僕には何処か不自然に見えた。数秒の間が空き、男の口元が僅かに緩み、


「キミの中に隠れている弱虫を、俺に渡せ」


 その言葉にキルゲルが切れた。一瞬で、キルゲルの意思が体を支配し、「貴様!」と言う怒鳴り声が響く。右手に具現化されたキルゲル本体である剣を構えながら、その男へと迫る。が、キルゲルが剣を振り下ろすと同時に、彼は空へと舞い上がった。


「くっ! 逃げるのか!」

「まさか。俺の目的は鍵であるキミの確保だよ? 逃げるわけ無いだろ」


 ニコヤカにそう述べた男は、静かに赤い屋根へと降り立つ。


「戦う前に、自己紹介をして置こうか? 桜嵐晃。いや、今はキルゲルかな?」

「どうでも良い。貴様の名前に興味は無い」


 キルゲルがそう告げるが、体に異変が起きる。突如、僕とキルゲルの意識が戻ったのだ。具現化されたままのキルゲルは、この現状に小さく舌打ちをする。


『チッ!』

「チッじゃないだろ! どうなってんだよ!」

『拒否反応が強くなってるんだよ。人の体に二つの意思があれば、そうなるだろ』

「それじゃあ、僕が戦うのか?」

『当たり前だろ!』


 当然と言わんばかりにそう述べたキルゲルに、「おいおい」と小さく呟き男の方へと視線を向けた。今まで戦いはキルゲル頼りだったのに、それが使えない。戦闘経験の殆ど無い僕に一体何が出来るだろう。不安になる中で、キルゲルが小さく呟いた声が耳に届く。


『心配するな。いざとなれば、我がフォローする』


 その言葉に何だか安心し、小さく息を吐いた。


「話は終わったかい?」

「えぇ」


 短くそう答え、キルゲルを構える。剣を構えた事など無いが、小学生の頃良くホウキでチャンバラごっこをしてたのを思い出し、あの当時していた様に刃を下に向け腰を落とす。いわゆる、下段構えの体勢だった。


「じゃあ、改めて自己紹介から。俺は久遠達樹。キミの持つ鍵を貰い受けに来た。以上。質問はあるかな?」


 両手を広げ、何でも質問していいよと、言うかの様にニコヤカに笑う。


「それじゃあ――」

「おっと待った」


 その厚意に甘えようと質問しようとした矢先だった。久遠は右手をかざすと、人差し指だけを立て、


「質問に答えるのは一つだけ……だけどね」

『くっ。晃。相手にするな』


 苛立つキルゲル。正直、久遠は僕らの事など相手にしていない様に思えた。それ程、自分の力に自信があると見る。この場に愛が居たなら、間違いなくぶち切れて、突っ込んで行ってる所だ。もちろん、キルゲルの意識が体を支配していれば、とっくに突っ込んで行ってるだろう。

 立てた人差し指を左右に振りながら、質問を待つ久遠を見据える。


「どうした? キミは聞きたいんだろ? 色々? 一つだけ、答えてあげるって言ってるんだよ?」

「じゃあ、一つ確認する。それは、嘘偽り無く正直に全てを答えるって事でいいのか?」


 コイツは信用しては行けない。と、僕の中で何かが告げる。その為に、思わず発したこの言葉に、久遠は口元を僅かに緩めながら、


「その質問でいいのか?」


 と、告げた。思わず「くっ」と、声を漏らすと、彼は静かに笑う。


「冗談だよ。ああ。俺はちゃんと嘘偽り無く答える。まぁ、信じるか信じないかは、キミ達に任せるよ」


 両手の平を上に向けながら肩の位置まで上げ、小さく息を吐いた久遠に、静かに問う。


「その鍵を手に入れて、あんたは何をしようとしてるんだ?」


 質問に対し、久遠は「うーん」と唸り声を上げ、


「大まかに言えば世界征服かな」


 と、笑う。

 そんな答えにキルゲルは納得しない。


『ふざけるな! 貴様! 最初から答える気など――』

「大まかに言うとって、言ってるだろ? 俺は、世界を変えるんだよ。あの力を手に入れて」


 あの力――と、言う事は鍵は何かの力を引き出す為のモノと、言う事だろう。しかも、世界を変える程の力をもたらす危険なモノ。コイツにそんな力を渡しては行けないと。直感的に思う。キルゲルもそう思ったのだろう。だから、こうして張り詰めた空気を作り出しているのだろう。

 右足をジリッと前に踏み出し、右手に握るキルゲルの柄に左手を添える。あまり重さを感じない、細身の刃。手にしっくり来るのは、これが僕の意思によって具現化された武器だからだろう。

 胸がざわめく。戦う事は初めてじゃないはずなのに、鼓動が早まるのを感じた。

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