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第三十七話 罠

 送別会が終わってすぐ、僕は呼び出された。

 呼び出したのは、他でもない愛だった。


「どうかしたのか?」

「いいから、ついて来なさい」


 先程から愛はずっとこの調子だった。

 もう家を出てどれ位歩いただろう。何か深刻そうな表情を浮かべている様にも見えるが、この暗がりではよく表情が読み取れなかった。

 暫く歩き続け、町外れの廃墟に足を踏み込もうとして、頭の中でキルゲルが叫ぶ。


(晃! 離れろ!)

「えっ?」


 その瞬間、轟音が轟き、足元で何かが爆発した。後方へと投げ出され、地面を転げる。顔を上げると、土煙が舞っているのが分かった。そして、先程まで居た場所に大きな穴が開いているのにも気付いた。キルゲルの声が無ければ、今頃木っ端微塵だっただろう。

 同時に、体はキルゲルへと入れ替わる。右手に握られた剣を構え、キルゲルは叫ぶ。


「どう言うつもりだ」

「晃! 逃げて!」


 愛の声に、キルゲルが訝しげな表情を浮かべ、目を凝らす。その視線の先に鉄骨に縛り付けられた愛と円さん、武明の姿が見えた。何がどうなっているのか分からず、キルゲルはその場に立ち尽くしていた。


「どう言う事だ?」

(ちょ、前!)


 目の前に居る愛が、パイプを振り下ろす。だが、キルゲルは何事も無かった様に彼女を切り捨てた。すると、斬った愛は煙を吹き消滅した。わけが分からず混乱していると、キルゲルは不適に笑みを浮かべ、剣を肩に担いだ。


「ほぉー。今では、こう言うサポートアームズも存在するのか。興味深いな」


 その声に、一つの足音が聞こえ、闇の中に一つの影が浮かぶ。やや細身で背丈は高く見える、そいつは、ゆっくりと足を止めた。何も言わず、ただこちらを見据える鋭い眼光が闇に浮かんでいた。全く気配の無いその人物に、キルゲルは静かに笑うと、切っ先を向け叫ぶ。


「貴様も、さっきの様な人形じゃねぇだろうな」

「あんた、キルゲルね! いいから、ここから逃げて!」

「黙れ。小娘。我は、今、コイツと話している」


 愛の忠告など聞く耳持たず、キルゲルは更に言葉を続ける。


「貴様が誰かは知らんが、我をバカにしているのか? この程度の泥人形で、我の力を計ろうなど甘く見られたものだな」


 鼻で笑い、そう言いのけるが、反応は無い。やはり、アレもキルゲルが言う通り、人形なのかと、そう思った瞬間だった。奴は動き出し、持っていたナイフを突き出してきた。

 だが、キルゲルはそれを容易に避けると、そいつに膝蹴りを見舞った。その一撃が決まると、白い煙を吹き、またその姿は消えた。


「やはり、人形か……」

(どう言う事だよ?)

「我が思うに、アレは土属性のサポートアームズを持つもの、もしくは、鬼獣。だが、我はこんな回りくどい戦い方をする鬼獣など知らん」


 キルゲルがそう言うと、続けざまに別の泥人形がナイフを手に持ち襲い掛かってきた。しかし、キルゲルは剣を振るう事無く体術だけで、それを撃退していく。キルゲルにしては珍しいその戦い方に、少々違和感を感じた。

 どれ位の泥人形を撃退しただろうか。息一つ切らさず、キルゲルは仁王立ちし鉄骨に縛られた三人を見据える。


「封術師にガーディアンが揃って、何をしてるんだ……」

「ば、バカ! そいつら――むぐっ」


 愛が何かを言おうとしたその瞬間、口を押さえられた。


「おっと。それ以上は企業秘密だよ」


 突如愛の横に茶髪にパーカーを着た男が現れた。少々長めの前髪をゴムで結いちょんまげの様に立てている。右手には黄色の水晶が煌くリングがはめられ、彼がサポートアームズを所持するものだと理解した。キルゲルも気付いたのか、動きを止め口元に静かに笑みを浮かべた。

 そんなキルゲルを見下ろす男。サポートアームズを具現化していない所を見ると、大分格下と思われているのか、それとも具現化出来ない理由があるのか。定かでは無い為、キルゲルも動くに動けずにいた。


(どうする?)

「得体の知れない奴だ。うかつに手は出せねぇだろ」


 キルゲルが問いに即答し、すり足で左足を半歩前に出した。だが、その瞬間、破裂音が響き、その足先に弾丸が打ち込まれた。


「それ以上動くな」


 別の男の声。穏やかで先程の茶髪の男とは明らかに声質が違った。

 どうやら、相手は複数いる様だ。そう言う事ならば、相手が余裕なのは頷ける。僅かに表情を曇らせたキルゲルは、その弾丸の軌道を探り、もう一人の男の影を見つけた。

 愛と茶髪の男のいる位置から、更に上のむき出しの鉄骨の上。そこに、白のマフラーを巻いた男が仁王立ちしている。手には銃を握り、その銃口からは薄らと白煙が舞っていた。


「悪いけど、僕らはチームで動いてるから。君たちみたいに、バラバラに行動はしないよ」


 茶髪の男がおどけた様な声でそう言うと、その上から低く穏やかな声が空気を揺らした。


土愚兎どぐうやめんか」

「だってさぁ、雷怨らいおんだって、そう思わない? 僕は、もう少し遊べるって、思ってたよ」


 土愚兎と呼ばれた男が肩を竦め、小さく息を吐く。と、同時だった。意識を失っていた様に見えた円さんが、双剣を具現化し、自らを縛る鎖を切り裂き、土愚兎の首元へと刃を向けたのは。一瞬の事で、反応出来ず、驚いた表情を見せる土愚兎が顔の横まで両手を上げ、


「おー怖い怖い」


 と、笑みを浮かべた。何故、笑みを浮かべたのか、その疑問が脳裏に過ぎるよりも早く、異変は起きる。「げほっ」と、咳払いと同時に円さんの口から大量の血が吐き出され、膝から崩れ落ちた。


「円!」


 愛が叫ぶが、円さんの体は鉄骨の上へと倒れこみ、具現化された双剣は光となり消えてしまった。何が起こったのか把握出来ていない中で、キルゲルが下唇を噛み締め、雷怨を睨みつける。


「貴様!」

「悪く思うな。仲間を傷つけられそうになったんだ。正当防衛だ」


 白煙をのぼされるその銃を消し、雷怨は当然と言わん態度でそう告げる。何処を打ち抜かれたのか、鉄骨を伝い円さんの鮮血がポツリ、ポツリと地面に落ちた。

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