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第三十五話 霧咲と火野

 教室を出ると、待ち構えていた様に一人の少女が、立ちはだかった。

 つり上がった目が鋭くこちらを睨み付ける。なんとも懐かしい感じがした。


「え、えっと……霧咲さんだっけ?」


 自分の中の記憶を辿り、ようやく導き出した彼女の苗字を告げると、「むふっ」と、息を鼻から吐くと、腰に手を当てたまま僕の顔を見据える。

 ここ暫く、色々あって、姿を見ていなかったが、以前は休み時間の度に教室に来ていた事を思い出した。一体、何の為だったのかは、いまだに分かっていない。

 久しぶりに見た霧咲さんは、やや不機嫌そうで、いつも以上に眉間にシワを寄せていた。


「おい。晃。そいつ誰だ? もしかして、かの――ぐふっ」


 武明のみぞおちに、加奈の肘が入った。意図して行ったのか、たまたまなのかは分からないが、加奈は慌てた様子で、両手を合わせる。


「ご、ごめん! つい!」

「つ、ついって、お前……」


 蹲る武明に、苦笑し、目の前の霧咲さんを見据える。

 だが、何も言わず、ただ睨む様にこちらを見る霧咲さんは、急に辺りを気にする様にキョロキョロと見回し始めた。何かを警戒している様で、僕もそれに合わせ、周囲を見回す。廊下には特に気になる生徒などおらず、小さく首を傾げると、霧咲さんも小さく息を吐き、もう一度こちらに目を向ける。


「えっと、どうかした?」

「い、いや。この前は、邪魔が入ったから……」

「この前?」


 思い返す。初めて会った時の事を。

 確か、あの時は水守先生が、乱入してきて、鋭い蹴りを受けていた記憶が――。

 多分、アレがトラウマになっているのだろう。思い出し、苦笑していると、霧咲さんが怒鳴る。


「な、何がおかしい!」

「い、いや、今回はあの時みたいに邪魔は入らないと思うけど?」

「んな事、わ、分かってる! じゃあ、単刀直入に言うぞ! アタシはお前――」

「おーい! 桜嵐くーん!」


 霧咲さんの言葉を遮る様に、火野先生の声が廊下に響く。声の方に顔を向けると、火野先生がこちらに手を振っていた。


「何ですか? 火野先生!」


 手を振る火野先生に声を返すと、火野先生が駆け足でこちらへと近付いて来る。


「はぁ、良かったよ。まだ、学校に残っててくれて」

「何かあったの?」


 加奈が尋ねると、火野先生は笑いながら、


「えっと、その、私、明日で教育実習終わるから、送別会しないかなぁ? って」

「それって、普通、生徒が自主的に行うんじゃねぇの?」

「自分で言わないよね?」


 武明と加奈の言葉に、火野先生が肩を落としながら、鼻声で「だよねぇー」と呟いた。別に、僕らのクラスも、送別会を企画していないわけじゃないが、当日まで本人には内緒と言う事になっており、何も知らせていないだけなのだ。

 肩を落としたまま背を向ける火野先生に、霧咲さんもさげすんだ目をこちらに向ける。


「お前ら、冷たいんだな」

「えっ、いや、そ、それは……」


 チラチラと火野先生を横目で見ながら、霧咲さんの方へと顔を近づける。


「ち、違うんだよ。一応、送別会は企画してるんだ。ドッキリでしようと思ってて」

「それは分かるけど、幾らなんでもアレは……」


 霧咲さんもチラチラと火野先生を見る。相当凹んでいる様子で、「どうせ、私なんかー」とぶつぶつと言っていた。

 苦笑しながら、加奈と武明の方へと顔を向けると、二人は瞬時に視線をそらし、


「さて、俺は円達と合流するかなぁ」

「私も、ちょっと部活で――」

「待て! 加奈は、部活入ってないだろ!」

「見学よ、見学!」


 加奈はそう言って、ウィンクして武明と共にその場を逃げ出した。残されたのは、他所のクラスの霧咲さんに、凹む火野先生と僕。この状況をどうしろと言うのだろう。困った様に霧咲さんが何度もこちらに目を向ける。


「ど、どうすんだ? このまま放置するのか?」


 霧咲さんが痺れを切らせ、顔を近づけそう言うが、流石にこのままにして置く訳にもいかず、


「じゃ、じゃあ、これから、家で送別会しますか?」

「ふぇっ! してくれるの!」


 振り向き、目を輝かせる火野先生。なんだか、こう言う所が、水守先生に似ていた。何処か子供っぽく、それでもいつも他の人の事を見ている。そんな所が、皆から慕われる理由なのだろう。

 機嫌を直した火野先生が鼻歌を歌い、クルクルとその場で回転するのを見ながら、小さくため息を落とすと、横で霧咲さんも吐息を落とした。


「また、邪魔が入ったな」

「悪いな。よかったら、霧咲さんも、一緒に――」

「いや。いい。また今度で。別に、大した様でも無いし」


 送別会に誘おうとしたが、それをやんわりと断り、笑みを見せ、「じゃあな」と小さく手を振ってその場を去っていった。結局残ったのは、僕と火野先生の二人だけ。流石に、二人で送別会をすると言うのも寂しいと思い、携帯を取り出しメールを打った。

 とりあえず、愛と円さんに送り、加奈と武明にも送った。この場から逃げた二人だけど、人数は多いに越した事は無い。それから、優海と美空にもメールをして、信二と博人の二人にもメールを送った。

 数分も経たない内に、最初の返事が返ってきた。


『はぁ? 送別会? もう、クラスで企画してんじゃん。何言ってんの?』


 愛からだった。

 それから、遅れて一分ほどで、


『送別会なら、クラスでやるから私は参加しない』


 と、円から。

 今時の女子高生とは思えない程、素っ気無い返信に、がっくり肩を落とす。まぁ、あの二人の事だから、こうなるとは思っていた。

 肩を落としていると、また携帯にメールが届く。


『送別会かぁ。じゃあ、今日の助っ人はキャンセルして、僕も速攻家に帰るよぉ』


 と、絵文字たっぷりの返信をしてきたのは美空だった。部活の助っ人で忙しいはずなのに、申し訳ない事をしてしまった。そう思ってると、今度は優海から返信が来た。


『美空ちゃんと一緒に私も準備頑張ります』


 と、ぎこちない絵文字を織り交ぜたメールに、優海の頑張りを感じた。とりあえず、『悪い。頼んだ』と、美空と優海に送り、胸ポケットに携帯をしまった。少し離れた所で、「えへへ」と、笑う火野先生をチラッと見た。凄く嬉しそうだ。よっぽど、送別会をして欲しかったと見える。

 子供の様に浮かれる火野先生だが、流れてきた放送で我に返る。


<教育実習生の火野恵! 今すぐ職員室に来い!>


 篠崎先生の野太い声に、火野先生は「はわーっ」と大声を上げると、こちらに顔を向け、手を合わせる。


「ご、ごめん。今から職員会議なんだよね。えっと、後から、桜嵐君の家に行けばいいのかな?」

「そうですね。じゃあ、僕は家に帰って準備しておくんで」

「ありがとう。私も出来るだけ早く行くから、ごめんね。ホント」


 軽く頭を下げると、火野先生は慌しく廊下を走っていった。そんな火野先生の背中を眺めていると、胸ポケットで携帯が震えた。


『分かった。それで、何時ごろに行けばいい?』


 信二からのメールに、『出来れば、早く来て準備を手伝って欲しい』と、返事をすると、


『分かった。なるべく早く行く?』


 と、返信が来た。今日は隣町の道場に行くと、言っていたのを後で思い出し、悪い事をしたなぁ、と思いながら帰路についた。

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