表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/69

第二十九話 晃対優花

 屋上へ辿り着いた時、空はもう真っ暗だった。

 もうすぐ梅雨だと言うのに、吹き荒れる風は冷たい。

 静かな呼吸音と、単発に聞こえる足音、時折火花と共に金属音が聞こえた。

 大地が私を降ろし、静かに息を吐く。

 ココに来る途中で、色々と説明を受けた。彼の名前が大地だと言う事。パートナーの名前は優花で、二人は人影トカゲと言う鬼獣討伐の任務中だと言う事。そして、現在、その人影が晃に寄生していると言う事。

 色々、分かった上で、目の当たりにする晃の姿。何か黒いオーラの様なモノが見た。アレが、晃の中にあった闇なのだろう。


「おい。分かってると思うが、手は出すなよ」

「わ、分かってるわよ! どうせ、足を引っ張るって言うんでしょ!」

「足を引っ張るとかそう言うんじゃないんだよ。何て言ったらいいかな……」

『正直に言えばいいじゃないか。今、下手に手を出したら、どっちかが命を落とす事になりかねないって』


 大地に変わって、そのサポートアームズ、グラットリバーがそう告げた。

 その言葉で、理解する。もう、私が手を出していい次元の戦いでは無いと言う事を。

 漆黒の刃を振るう晃が、不適に笑みを浮かべる。

 一方の優花も、息一つ乱さず、大きな鎌を構え真っ直ぐに晃を見据えていた。


「くはははっ。この体は良い。強い闇に、強い力。もう、貴様等から逃げる事も無い!」

『ケッ! 多少強い力を得て、図に乗ってんじゃねぇよ!』

「ふっ……なら、コレならどうだ!」


 素早く地を駆け、優花との間合いを詰めると、漆黒の刃を下から上へと切り上げる。切っ先が床を抉り後塵と火花を散らす。


『あめぇよ!』


 彼女のサポートアームズ、キファードレイが、そう返答すると、優花は上体を反らし刃をかわす。と、同時に慣れた手つきで大鎌を振るう。それは、無駄の無い素早い一撃。晃はすぐに飛び退いたが、それでも衣服が切れ腹部に血が滲む。

 距離を取った晃は左手で腹部を擦りながらも、余裕の窺える表情でキルゲルを構えなおす。


「人影。いい加減、人の中に隠れるのはやめたらどうだ? どれだけ、逃げ回っても、私はお前を逃がさない」

「くくくっ。この体の力は、この程度じゃねぇ。次の一撃で、このつまらない追いかけっこも終わりにしてやるよ」


 晃が腰を低くし、キルゲルを腰の位置に構える。私はあの技を知ってる。キルゲルが何度か使った事のある得意の技。破壊力は凄まじく、一撃で全てを破壊する程の力を持っている。間違いなく切り札だろう。

 その晃の行動に、突然横に立っていた大地が首の骨を鳴らす。


「さて。そろそろ、動くか」

「えっ! ちょ、ちょっと、あんた手を出すなって!」

「俺はガーディアンだからな。ちゃんと守ってやんなきゃいけないんだよ。だから、お前はそこから動くんじゃねぇぞ?」

「ちょ、待ちなさいよ! あんたの属性って!」


 私の声を無視して、走り出す大地。私の予想が正しければ、彼の属性は土。風の属性を持つ晃とは最悪の相性。そんな相手に、一体何を考えているのか、理解出来なかった。

 大地はそのまま優花の前に立ち、真っ直ぐに晃の方を見据える。


「おう。手を貸すぞ?」

「……数秒でいいわ。後は私が何とかする」

『数秒? いやいや。無理だって。俺、一応、土――』

「黙って数秒耐えなさい」

『は、はい……』


 優花の静かな威圧に、グラットリバーが大人しく返答する。何と無く、二人の位置関係が分かった気がする。


「時間切れだ。行くぞ!」


 漆黒の刃に風が集まり、甲高い音が響く。不適な笑みを浮かべ、右足を踏み込むと、風の道が大地と優花に向って一直線に伸びる。突風が大地の体を僅かに押し、足がズルズルと下がっていく。優花は大地の体が風除けとなって、長い髪と短いスカートが僅かにはためく程度ですんでいた。


「くぅ! グラットリバー! モード黒金!」

『分かった。やりゃいいんだろ! やりゃ!』


 グラットリバーが諦め、その姿を具現化する。大地の右手を覆う黒い硬物質。砂鉄か何かをコーティングしたグローブ型のサポートアームズなんだろう。黒光りするその手を振り上げ、大地は叫ぶ。


「全てを受け止めるぞ!」

『無茶言うな』

「うっせぇー! 行くぞ!」


 大地が叫ぶと、晃が一気に漆黒の刃を横一線に振り抜く。風の道を一直線に走る風の刃に対し、大地は右拳を握り締め、勢い良く突き出す。衝撃音が轟き、爆風が大地の体を吹き飛ばしたのを目視したが、凄まじい衝撃に思わず目を伏せてしまった。

 突風が髪を撫で、服をはためかせる。あまりの衝撃によろめき、壁に背を預けた。衝撃が収まると、周囲が静まり、別の風音が耳に届いた。


「ありがとう。大地。準備は出来た」

「ああー……任せたからな……」


 優花の遙か後方で倒れる大地が左手を上げ手を振る。


「クッ! 相殺しただと! そんなバカな――」

「残念ね。でも、当然の結果よ。あなたが、その子の体を奪おうと、その力を最大限まで引き出す事は出来ない。だって、あなた自身は適合者では無いのだから」


 静かに優花はそう言い、大鎌を振り上げた。風がその大きな刃を包み、轟々と音を轟かせる。


「ま、待て! お前、コイツを殺す気か! こ、コイツは適合者! お前達にとって――」

「そうね……。その歳で、適合者だなんて、私達にとっては、貴重な存在なのかも知れない。でも、これで、死ぬ様なら、それがその子の運命……」

「き、キサマ! ほ、本気か!」

「本気かどうかは、試してみれば分かるんじゃない?」


 優花がそう言って、左足を踏み込むと、上半身を僅かに右へと捻り、大鎌の切っ先を空へ向けた。柄と刃の付け根が、床に触れてしまうんじゃないかと言う程振り被り、肩越しにジッと晃を見据えている。そのまま鎌を振り下ろしたら、その刃はどれ程の破壊力を生むだろう。

 ジッと二人を見ていると、晃がわずかに後退するのが分かった。この行動に優花も気付いているのか、大鎌を握る手に力がこもる。


「動かない方が身のためよ」

「わ、分かった。この体は返す。だから――」

「――!」


 突如後方へと飛びのくと、そのまま柵の手摺の上に乗る。


「晃!」


 私が叫ぶと、晃がコッチに顔を向け、不適に笑った。と、同時に優花が叫ぶ。


「大地!」

「チッ! 分かってる!」

「じゃあな。赤い眼の死神――」


 晃がそう告げ、体を投げ出す様に手摺を蹴った。


「セイラ!」


 叫ぶと同時に具現化される白翼。もう体力なんて残っていない。それでも、晃を助けたい。それだけを思い、飛び立つ。速度は今までで一番最速。地面スレスレを高速で移動し、手摺を越えた。


「あのバカ!」

「大地急いで!」


 手摺の向うで、大地と優花の声が聞こえた。でも、それも一瞬で、体は一気に急降下する。いや違う。多分、私も落ちているのだろう。徐々に晃との距離は無くなり、私は手を伸ばす。


「晃……もう少し――」


 一生懸命手を伸ばし、私はようやく晃の手を掴んだ。

 そして、そのまま晃の体を抱き寄せ、具現化したセイラに力を込めた。だが――


『だ、ダメ! 愛ちゃん……今のままじゃ――』


 白翼は一度も羽ばたく事無く、その姿を消した。音も無く、静かに光となって――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ