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第二十八話 やるべき事

 突然だった。

 ドアを開けると、目の前に闇が広がっていた。そして、それは、今まさに晃を呑み込もうとしている。


「晃!」


 思わず叫び、右手を伸ばす。だが、その手は空を切り、晃の姿が闇へ消えた。一瞬だった。また、目の前で、失ってしまった。

 家族も――師匠も――パートナーも――私は全てを失った。そう思った時、自然と涙が頬を伝う。

 もう、涙がかれる位泣いたと思っていたのに――

 もう泣かないと決めたはずなのに――

 胸が苦しくなり、嗚咽を吐きながらその場に座り泣いていた。

 気が付けば、部屋の隅で膝を抱えて座っていた。火野と名乗った教育実習生は、泣きじゃくる私を心配していたが、買い物に行ったきり帰って来ない晃の事を探してくると、出て行ってしまった。

 抱えた膝に顔を埋め、鼻を啜る。それから、自らに問いかける。


“どうすればいいのか”


 と。

 答えは返って来ない。もちろん、分かっていた。答えは自分自身で出さなければならない事を。そして、その答えも。

 顔をゆっくりと上げ、涙の痕を左手の甲で擦り、ゆっくりと立ち上がる。自分が今すべき事を実行する為に、棚に置いた翼型のアクセサリーが付いたイヤリングを手に取った。


「セイラ。お願い! 晃の居る場所を探って!」

『分かったわ』

「出来るだけ、早くお願い」

『分かってる。ふふっ』

「な、何? 急に笑って?」

『やっと、いつもの愛ちゃんらしくなって来たから、嬉しくて』


 大人っぽく『ふふふっ』と笑う。セイラは私にとって、お姉さん的存在だ。元々、大人びた口調と態度の為、と言う訳ではなく。私が幼い時から、セイラとは一緒に居る。だから、私にとってセイラはもう姉妹の様な関係だ。

 そんなセイラの言葉に赤面していると、


『見つけたわ。愛ちゃん。ここから、西へ行った所に僅かに反応があるわ』

「西? って事は……」

(姫! その方角って言ったら、オフィス街だよ!)

「オフィス街? あんな所で何を――」


 頭の中に響いたヴィリーの声にそう返答すると、セイラが静かに、


『オフィス街って言ったら、沢山人がいるんじゃない?』

「多分、居ると思うけど、それと何か関係あるの?」

(姫! あの時の事を思い出してよ! 晃を包んだ闇は、きっと闇の属性の鬼獣だよ!)

「闇の属性? でも、そんな属性を持つ鬼獣なんて、今時居るの?」


 闇の属性とは、五大属性よりも上位の属性で、光と対なる属性。今となってはその存在すら確認されない程の希少なモノ。まだ育成生時代、一度書物で読んだ事があるが、光と闇は五大属性を遙かに上回る強大な力で、過去に何度も衝突しては大きな災害をもたらしていると言う。

 それは、随分と昔の事で、今現在ではその属性を所有する封術師やガーディアンも殆ど存在しない。育成生達の間では、都市伝説だとされていたが、まさか存在していたなんて。

 何か嫌な予感がした。だから、すぐにセイラを具現化し、窓から飛び出した。体が本調子ではなく、上手く力を使えず、フラフラとするが、セイラがそれを上手くサポートする。


『大丈夫? もう少し、スピードを落とした方がいいんじゃない?』

「大丈夫。何か、嫌な予感がするの……。あれが、本当に、闇の属性の鬼獣の仕業なら……」

(でも、今の姫の体じゃ、到底太刀打ち出来ないよ? 相手は五大属性を上回る力を持つ陰の力なんだから)


 セイラもヴィリーも心配してくれるが、私もこれ以上失いたくないモノがある。だがら、譲れない。白翼は風を効率よく捕らえ、更に加速する。頬を伝う風が冷たく、風に激しく揺れる髪。高層ビルが近付き、私は右手にヴィリーを具現化する。蒼い銃。どれ位、力が残っているか、分からないけど、全ての力を注ぐ様に力を込める。

 その瞬間、グラッと体が傾く。


『愛ちゃん! ダメ。力が乱れてる。このままじゃ落ちるわよ!』

『僕の具現化を解除して、セイラの方に集中しないと!』

「はぁ、はぁ……大丈夫。もう少し……飛べるでしょ」


 消耗が激しく、言葉が途切れる。意識がもうろうとするのは、やはりまともな食事も睡眠もとってない所為だろう。自業自得。だから、こんな時に力が出ない。師匠に言われていた。どんな時も体調管理はしっかりしろと。こんな形で、その言葉の重みを知るなんて、思ってもなかった。

 よろめきながら徐々に降下していき、民家の屋根へと降り立った。


「はぁ…はぁ……」

『無茶するからよ。こんな状態で、私とヴィリーを同時に具現化するなんて』

「で、でも……」

『でもじゃないよ。姫。気持ちは分かるけど、ここで姫に倒れられたら困るよ』

「わ、分かってるけど……」


 焦りが、判断力を鈍らせる。考えれば考える程、嫌なほうへと答えが向い、更に焦りが募る。

 やがて、右手に握った蒼い銃が消滅し、白翼だけが残る。


「ごめん……じゃあ、セイラ……お願い……」

『愛ちゃん……』

「急いで……何かあってからじゃ……」


 私の言葉に『分かったわ』とセイラが返答し、白翼が大きく空を掻く。羽ばたきと同時に体がゆっくりと浮き上がる。徐々に加速するが、先ほどよりもスピードは出ない。ヴィリーを具現化した事が相当力を消費したのだ。


『大丈夫?』

「えぇ。平気よ。それより、晃の気配は?」

『大丈夫。このまま行けば――!』


 突然、突風が吹き鋭い風音が耳元を過ぎる。


「えっ?」


 思わず声を漏らすと、右側の翼の感覚が消え、ガクッと体が傾く。

 落ちる。そう思った瞬間には体が急激に落下する。


『愛ちゃん!』

「くっ! だ、ダメ、間に――」


 思った時、突然体が軽くなった。気付くと、私は男に抱きかかえられていた。見覚えの無い知らない男。


「大丈夫か?」


 男の言葉に、頷くと「そうか」と、言葉を返された。

 歳は同じ位に見えるが、何処か大人びて見える。私を抱え、ゆっくりと民家の屋根に下りた男は、私を降ろすと、


「怪我は無さそうだな? それより、こんな時間に堂々と空を飛んで……お前、まさか、育成学校通ってないのか?」

「なっ! バカ言わないでよ! これでも、トップの成績で――」

「トップ? お前が? じゃあ、アレだな。お前の年は、相当出来の悪い生徒ばっかりだったんだな……」

「なっ!」


 男の失礼な物の言い方に、怒鳴ろうとしたが、頭がクラッと来てその場に膝を落とす。呆れた表情を向ける男は、


「そんな状況で、トップの成績って言われても、説得力がないんだよ。全く。お前、本当に卒業したのか?」

「し、したわよ……。あ、あんたこそ、色々知ってるみたいだけど……」

「俺も、一応ガーディアンだからな。で、お前のパートナーはどうしたんだ? こんなフラフラの相方を置いて、何処に行ったんだよ?」


 男が辺りを見回す。


「いないわよ……私は、そのパートナーを、探して……」

「探して? って、事は……もしかして、アレが、お前のパートナーだったりするのか?」

「アレって?」

「今、あの高層ビルの屋上で、俺のパートナーが、戦ってるんだけど……」


 歯切れの悪い男に、掴みかかる。


「どういう事! あ、晃は!」

「晃? やっぱり、あいつか……全く、厄介ごとばっかり……とりあえず、行くぞ。俺が連れて行ってやるから」


 男がそう言い、私を抱きかかえると、屋根から屋根へと飛び移る。男は、小さく「しっかり捕まってろよ」と、告げると、そのまま勢いよく走り出す。周囲の目など、気にせずに。

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