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第二十七話 晃の心の闇

 大分道草を食ったが、ようやく雪国さんの住むマンションの入り口まで辿り着いた。

 火野先生と二人きりにして、大丈夫だっただろうか。心配になり、足早に部屋の前まで行くと、背後でコトッと何かの落ちる音がした。振り向くが、そこには何も無く、首を傾げる。

 前を向き直り、ドアをノックすると、背後で殺気と濁った雑音の様な声が発せられた。


『強大な心の闇……貴様の闇を我が糧に――』

「――!」


 声に振り返ると、漆黒の闇が突如として視界に広がり、それが全てを包み込む。ドアの開く音に、振り向く。闇に包まれるその合間に雪国さんと視線が合う。


「あき――」


 雪国さんが叫ぶ声が途切れ、全てが闇に包まれた。無明無音の闇の中にとらわれ、意識が奪われた。



 闇の中で、どれ位意識を失っていたのか分からないが、目を覚ますと、そこに見知らぬ少女の姿があった。闇の中だと言うのに、妙に体が光っている様に見えるのは、彼女が真っ白なワンピースを着ているからだろうか。ボンヤリの少女を見ていると、少女がこちらに手招きした。

 眩しい位の笑顔を向ける少女に、ゆっくりと歩み寄ると、何も言わずスッと右手を差し出す。彼女に右手に手を添えると、彼女がその手を握り走り出す。

 わけも分からず、手を引かれ走っていると、闇の中に一筋の光りが見えた。と、そこで彼女が足を止めると、ジッと僕の顔を見上げる。


「光と闇は対極。けれど、光も闇も一つでは存在できない」


 少女が静かに言葉を告げる。言いたい事は何と無く分かった。光があるから闇が存在し、闇があるから光は輝ける。そう言う事なのだろう。しかし、それが一体、なんだと言うのだろうか。彼女の顔をジッと見ていると、彼女はニコッと笑みを浮かべ、


「対極だけれど、二つの存在は互いを強める。光は闇を濃くし、闇は光を眩くする」

「光があるから闇は更に濃くなり、闇があるから光は眩く輝く……そう言う事?」


 彼女にそう尋ねると、静かに頷く。

 そして、僕の胸の位置を指差すと、


「あなたの心も同じ。光があれば、必ず闇がある。知らぬ間に、その闇は広がりやがて光を覆う。今のこの状況の様に」

「今の状況?」


 思わず聞き返すと、彼女は頷く。輝く光が徐々に闇に覆われ、その明るさを弱めていた。


「今のあなたの心は、闇に飲み込まれている。小さな光明を見逃さないで」

「小さな光明……」


 呟くと、彼女が笑顔で頷く。やがて、彼女の姿が薄れ、一つの声が聞こえた。聞き覚えのある声。


『……我の声が……。晃……声が……』


 雑音で聞き取り難いが、間違いなくキルゲルの声だった。何処から聞こえるのか、周囲を見回す。あるのは小さな光と闇だけ。だが、そこでおかしな点に気付いた。

 キルゲルとは一心同体のはず。何故、遠くの方から声が聞こえるのかと。


「おい! キルゲル! どう言う事だ!」


 叫び周囲を見回す。その声に、雑音混じりの声が、


『晃……聞こえ……お前……』

「な、何だ? 良く聞こえない!」


 キルゲルの声に聞き返す。だが、返って来る言葉は雑音でよく聞き取れなかった。


「……一体、どうなってるんだ?」


 周囲を見回す。光が一層弱まり、更に周囲は暗い闇に包まれていた。


「光が、弱まってる。でも、何で……」


 光に手を伸ばす。光は手の平へと落ちると、弱々しく輝く。そして、その光の向うから、キルゲルの声が聞こえてきた。


『晃。聞こえるか!』


 今度はハッキリとキルゲルの声が聞こえ、


「ああ。聞こえる。一体、何が起こってる!」


 と、聞き返す。


『晃! お前! 今、何処にいる!』

「何処って? 闇の中?」

『くっ! そうか。なら、お前の意思ではないと言う事か。まぁ、分かってた事だが……』

「何の話だ?」


 ブツブツと言うキルゲルにそう聞くが、すぐに返答は無かった。暫く待つと、


『晃。お前、闇の中にいると言ったな』

「あ、ああ……それがどうしたんだ?」

『我を具現化しろ! 今すぐだ』


 突然の言葉に、戸惑う。具現化しろと言われても、自分の意思でキルゲルを具現化した事など無い。もししていたとしても、それは無意識で行ったモノ。自分ではどうにも出来ない。考えていると、キルゲルの怒声が響く。


『早くしろ! 時間が無い!』

「は、早くしろって言われても、僕は自分の意思でお前を具現化した事無いんだよ! どうすればいいんだ?」

『念じろ! 我の力を求めろ。そして、全ての形を創造しろ』

「念じ、力を求める……」


 頭の中でいつものキルゲルの形を創造――。手の平の上に乗った光が眩く輝く。眩い光に目を伏せ、光が弱まるのを待つ。暫く瞼を開く事が出来ないでいると、


「ったく……どう言う事だ?」


 と、鮮明なキルゲルの声に瞼を開くと、そこに一人の少年が座っていた。見たことの無いその少年をジッと見ていると、


「何だ? お前が、我をこのような姿に具現化したんじゃないか」

「えっ! じゃ、じゃあ、お前! キルゲルか!」

「何だ? 問題でもあるのか?」


 不満そうな表情でこちらを睨むキルゲルに、引き攣った笑みを返す。まさか、こんな形で具現化するとは思わなかった。サポートアームズと言うのは、てっきり武器の形にしか変化できないと思っていたので、少し戸惑った。

 だが、キルゲルは気にしていない様子で両手を握ったり開いたりする。その姿を見ていると、本当の人間の様に見えた。ジッとキルゲルを見ていると、キルゲルがコッチに目を向け、「何だ?」と睨みを利かせる。


「い、いや。サポートアームズって、人間にもなるんだなって、思ってさぁ」


 苦笑混じりでそう言うと、キルゲルが不思議そうな表情を浮かべ、


「何を言ってるんだ? サポートアームズは武器にしか変化しないに決まってるだろ?」

「……はぁ? じゃあ、何で、お前、人……」


 当然と言わんばかりのキルゲルに半ば呆れ気味にそう問うと、小さくため息を漏らし、


「お前、気付いてないのか?」

「気付いてないって何に?」

「ここは、お前の心の中だ」


 キルゲルの言葉に思わず「はぁ?」と言う声が出た。その声に不満そうな表情を浮かべるキルゲルは、


「今のお前の心は闇に覆われている。そう言う事だ」

「ちょ、ちょっと待て! じゃあ、僕はどうなってるんだ?」


 ここが僕の心なら、今、僕の体はどうなってるのか。気になりそう問うと、キルゲルが眉間にシワを寄せ、


「お前は、闇に飲み込まれた。多分、何らかの鬼獣に飲み込まれたんだろう」

「な、何らかの鬼獣って!」


 声を荒げると、キルゲルが更に不満そうな表情を浮かべ、


「これは、全部お前の責任だ。我は言ったはずだ。我の力はお前の願いと思い。そして、お前はあの日、具現化した。漆黒を纏った我が刃を」

「なっ! そ、それが、一体なんだって言うんだ! 大体、お前、あの日から声掛けても返事すらしなかったくせに!」

「我は今まで闇の中にいた。我は何度も呼びかけたさ。だが、この分厚い闇が、それを通さなかった。闇と光は対極だ。我の力が光だとすれば、あの漆黒を纏った刃は闇。アレは使ってはいけない力」


 突然、真剣な表情で語り始めるキルゲル。その表情に、今の状況がどれ程危険な状況なのか分かった。キルゲルが言いたい事も、何と無く理解出来た。全ての原因は僕自身。あの日――水守先生が殺された日、既に心は闇に飲み込まれていた。だから、鬼獣にその心の闇に付け込まれた。

 自分の心の弱さを不甲斐無く思い俯くと、それをキルゲルは鼻で笑い、


「今更、落ち込んで何になる? 今、お前に出来るのは、この闇を切り裂く事だ」

「切り裂くって……闇を斬る事は出来ないだろ?」

「我を誰だと思っている」

「キルゲルだろ?」


 キルゲルにそう返答すると、表情を顰め、


「バカにしてるのか?」

「い、いや、そんな事無いけど?」


 笑みを浮かべると、キルゲルは小さくため息を吐き、静かに口を開く。


「我は、お前の願い、思いによってその形状を変える。お前がこの闇を切り裂きたいと願えば、我はそれに添う武器へと変化する」

「って、事は……僕次第って事?」

「そういう事だ。我は元の姿に戻るが、もう一度具現化しろ。次は、願い強い想いをぶつけろ。そうしなければ、大変な事になるぞ?」


 キルゲルが強い口調でそう言うと、その姿は消え弱々しい光が手元に戻った。

 大変な事になる。その言葉の意味は、分かっている。そして、この現象を引き起こした鬼獣の正体もおおよそ見当はついていた。

 静かに息を吐き、瞼を閉じ願う。

 この闇を裂く力を――。

 どんな道をも切り開く力を――。

 もう誰一人失わない為の力を――。

 願い、強い想いを手の平に乗った弱々しい光へと込めた。

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