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第十七話 やるべき事

 口から漏れる息が真っ白に凍り付く。

 手に握ったサポートアームズである銃、ヴィリーのグリップが冷たく手の体温を奪い、漂う冷気が全身の筋肉を締め付けていく。引き金に掛けた人差し指が震えるが、それでも、真っ直ぐに火渦子を見据える。名前から分かる様に奴の属性は火。水属性を持つ私にとっては相性の良い相手だ。

 だが、どうしてだろう。胸騒ぎがする。それが勘違いであって欲しいと願いながら、静かに息を吐き引き金に掛かった指に力を込める。


「いけっ!」


 声を発すると同時に、引き金を引く。衝撃が両肩を突き抜け、蒼白い光りが冷気を纏いながら地上にいる火渦子へと迫る。速度は上々。威力は最大級。これなら、奴も一撃で――そう思った時だ。突如晃の声が耳に届いた。


「避けろ!」


 その声で私は気付く。自分に迫る赤く細い棒の様なモノに。それが何かを考えるより先に、体が自然と回避運動を開始する。だが、大きな翼はそれを避ける事が出来ず、左翼に直撃し『くっ!』と、セイラの呻き声が耳に届く。

 左翼が燃え上がり、体を支える事が出来ず地上へと落下する。


「くっ! セイラ!」

『ごめん! 愛ちゃん!』


 愛の声にそう返答したセイラは具現化を解き、もう一度白翼を具現化し、地上へとゆっくりと降り立つ。再生が間に合わず多少黒焦げた左翼。これじゃあ、暫く飛ぶ事は不可能だろう。渋々と、具現化を解き、右耳にしていたイヤリングを取る。


「ごめんね。セイラ。私の不注意で……」

『気にしないで。一日休めば回復するから。それよりも、気をつけて。今までの鬼獣とは違うみたいだか……』

「分かってる。私も何と無く危険だと言う事は分かるわ」


 静かに火渦子の方へと目を向ける。全力を込めた一撃を浴びて、全く無傷の火渦子。相性はいいはずなのに、何故……。そんな疑問を抱いた刹那、火渦子と視線が交わる。すると、僅かに口元が緩み、意味深な笑みをこちらへと向けた。思わず銃を発砲しそうになったが、それをセイラが制止する。


『愛ちゃん。落ち着いて。相手の挑発に乗っちゃダメよ。水守さんから教わった事を忘れたの?』

「……分かってる。まず、相手を観察し、情報を集め、相手の事を知った上で戦闘する」

『そう。それじゃあ、まずは、相手を観察しましょう』


 セイラが優しくそう囁き、私はジッと火渦子を観察する。

 名前は火渦子。その意味は案山子から来ているのだろう。いわゆる、畑に居る人形。そして、その名の意味は、火の渦をあつかう子供と言う事だろう。その証拠に、火渦子の姿は幼い子供そのモノ。先程の攻撃も、炎を渦状にして吹き上がらせたモノだと、私は推測している。弱点は間違いなく水属性である事は間違いないが、果たして中途半端な水属性の私で勝ち目があるのだろうか……。

 不安に思わず喉の奥から「くっ」と声を発した。誰にも聞こえない程の小さな声だったが、火渦子にはその声が届いたのか、不適な笑みを浮かべると、


「考察は済んだのか? 私を倒す策は浮かんだか? 中途半端な貴様の能力で、私と対等に戦えると思うか?」


 火渦子のこの言葉で、確信する。コイツが、既に私達の情報を知り得ていると。どう言う経緯でその情報を知り得たのかは分からないが、こちらの正確な情報をあっちは持っていると見て間違いないだろう。


「どうして、お前が私達の情報を知ってるの」

「さぁ? どうしてかな? 貴様等が私達の情報を知ってる様に、鬼獣達が貴様等の情報を知ってても不思議じゃないだろ?」


 その言い分は確かだ。だが、幾らなんでも知り過ぎている。私が中途半端な能力と言うのは、組織の中でも限られた人しか知らない情報。しかも、あの攻撃もまるで分かっていた様に対応してきた。こう言う事は考えたく無いが、組織から情報が漏れてるとしか……。でも、一体誰が、そんな事を……。

 色んな情報が頭の中でゴチャゴチャと回る。そんな私に、ヴィリーが叫ぶ。


『姫! 来るよ!』

「チッ! 考えをまとめる時間を与えないつもりか!」

「そんな必要は無いさ。貴様等は、ここで死ぬんだから!」


 叫び声と同時に火渦子が迫る。が、その横っ腹に晃の蹴りが見事に決まった。


「ぐうっ! 死に底無い!」

「はぁ…はぁ……死に底無いで結構……。死に底無いは死に底無いなりに、必死に生きてるんだよ……」


 苦しそうな呼吸。立っているのも辛いはずなのに、どうしてそんな行動をとったのか理解に苦しむ。そして、苛立つ。ボロボロの体で立ち向かうその姿が――。だから、私は怒鳴る。苛立ちをぶつける様に。


「あ、あんた、何してるのよ! 大人しく寝てなさいよ! バカじゃないの! そんなボロボロの体で!」


 怒鳴り声に晃が僅かに横顔を見せる。

 真剣な眼差しが緩み、穏やかな笑みをこちらへと向け、


「毎回……守られてばっかりじゃ……男として情けないだろ? 少し位……良いカッコ……したいもんだよ……男ってのは……」


 静かにそう述べ、顔を正面へと向け直す。その後姿は何処か懐かしく思えた。

 だが、すぐにその懐かしさも消え、私はもう一度怒鳴る。


「バカ! あんた、戦闘経験浅いんだから、こんな奴相手に何前に出て行ってんのよ!」

『黙れ! 今、すべき事を考えろ!』

「分かってるわよ! あんたに言われなくても! でも、だからって、何であんたが前に出んのよ!」


 私の言い分は最もだ。戦闘経験の少ない晃が火渦子と対等に戦えるはずが無い。向うは何人もの人間を殺し、何度も私達封術師やガーディアンを相手にして生き延びてきた戦闘のスペシャリスト。しかも、相手はコッチの情報を知り尽くしている。

 ……知り尽くしている? いや。違う。もしかすると――。


「分かった! 暫くあんたに任せる!」

「エッ? きゅ、急にどうし――」

「いいから! 暫く任せるから! ちゃんと、持ち堪えなさいよ!」

『晃! 意地でも、あの女を守れ』


 キルゲルと呼ばれる晃のサポートアームズが僅かに濁った声でそう言うと、晃も小さく頷き「わ、分かったよ」と了承する。

 私は、静かに一枚のカードを取り出す。そのカードに描かれる蒼き獅子。階級はCランクで、私が一番最初に封じた最も長い付き合いの鬼獣。名は水獅。『水死』と言う意味を持ち、水害が起きた場合の原因が、この鬼獣の所為だと言われている。


「頼むわよ……あんたの力を貸してちょうだい……」


 静かに目を閉じ、右手に握る蒼い銃ヴィリーへと力を込める。心を静かにし、意識をヴィリーへと集中した。そして、左手に取った水獅のカードを静かにヴィリーへと添える。カードは溶け込む様にヴィリーの中へと消えていく。

 一般的に封術師は高度な術を使う時に、こうやって封じた鬼獣の力を借りる場合がある。例外もあるらしいが、それはほんの一握りの選ばれた人間だけだ。師匠ですら、鬼獣の力を借りなければ術を使う事が出来ない。どんなに頑張っても埋める事の出来ない天性の才能だと、師匠は教えてくれた。実際、そんな奴を見た事は無いが、師匠の妹はその才能を持っていたらしい。

 意識を集中する間、耳に届く激しい爆音。時折、晃の呻き声の様なモノが聞こえ、火渦子の高笑いが響く。何があっても心を静かにし、意識を集中する。晃を信じて。

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