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第十六話 加勢

 どれ位の時間が過ぎただろう。

 幾度と無く続く火渦子の攻撃。立ち上る火柱をギリギリでかわしながら、一定の距離を保つだけで、神経を削られていく。

 ギリギリでかわしていると、言ってもそれは火渦子が本気で当てようとしていないからであって、本来なら、一撃で焼き殺されているだろう。


「はぁ…んぐっ…はぁ…はぁ……」


 呼吸をするのが辛く、足が思う様に動かない。地面には幾つモノ黒焦げた痕が残され、黒煙が僅かに漂う。

 額から溢れる汗を左手の甲で拭い、制服の襟元を掴み、第二ボタンまで外す。呼吸が苦しく、どうにかして呼吸を楽にする為にそうしたが、全く効果は無い。

 顎先から汗が雫となって零れ、襟元を掴む手に落ちる。体中の水分が搾り取られている様だった。

 霞む視界の先に映る火渦子。不適な笑みを浮かべ、未だに余裕が窺えた。神経を研ぎ澄まし、火渦子の動きを見逃さない様にジッと見据える。


「ふふふっ……。中々、洞察力があるみたいだな。けど、そろそろ遊びも終わりにしよう」


 火渦子の発言に、胸の奥で何かが弾ける感覚が襲う。何かが来る、そう感じ、身構えると、キルゲルも何かを感じたのか、不意に叫ぶ。


『晃! 後方に飛べ! 次のは――』

「もう遅い……」


 火渦子が指をパチンと鳴らす。その刹那、地面が砕ける音が聞こえ、地面から今までとは比べ物にならない程の火柱を吹き上げる。逃げ遅れ、完全に周囲を炎に包まれた。逃げ場所など無く、吹き荒れる炎の熱で、意識が朦朧とし始めた。


「さて、その中で、どれ位持つかな?」


 炎の向こう側で火渦子の声が僅かに聞こえた。


「しかし、この町に派遣された封術師とガーディアンは最弱だな……。今まで行った町では、もっと骨のある連中だったが……」


 独り言の様にそう呟く火渦子に、キルゲルが小さく舌打ちしたのが聞こえた。最弱と言われたのが屈辱的だったんだろう。だが、火渦子は言葉をやめる事無い。


「前の町では、危うく命を落とす所だったが、ここなら傷の回復も容易だな。こんな最弱のガーディアンがいる場所だか――ぐっ!」


 突如、火渦子の声が途切れ、呻き声が聞こえた。何が起こったのか分からず、耳を澄ませていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「誰が最弱だって? 言っておくけど、弱いのはそいつだけよ」


 雪国さんの声だ。そして、何気に傷付く一言をコッチに向ける。雪国さんも悪気があるわけじゃない。ああ言う性格なんだと、自分に言い聞かせるが、


「ったく、あんたの所為で、私まで最弱だって思われるでしょ! しっかりやりなさいよ!」


 グサグサっと、胸を刺す雪国さんの言葉に膝を落とす。安心したと言うのもあったが、一番は心を折られたと言うのが原因だった。この辛い状況で、あの傷口を抉る様な毒舌。心が折れない方がおかしい。

 膝を落とし静かに呼吸を続けていると、右手に握ったキルゲルが頭の中に直接語り掛ける。


(おい。まだ動けるか)

「はぁ…はぁ……」


 返事をするのが辛く、荒い呼吸をしながら静かに頭を縦に振った。その返答にキルゲルが小さく笑い、もう一度頭の中で声が聞こえる。


(よし。なら、意識を集中しろ。苦しいだろうが、このピンチを最大限に利用する)


 呼吸が苦しく質問する気力も無かった。その為、キルゲルに言われた通り自らの意識を一点に集中する。その一点とは、もちろん右手に握るキルゲル本体だ。その最中、頭の中でキルゲルの声が何度も聞こえた。


(イメージしろ――。鋭い刃を――。全てを切り裂く――。鋭い刃を――)


 その言葉通りに頭の中でイメージする。鋭く全てを切り裂く刃を想像する。頭で思い描くイメージが徐々に鮮明になり、同時にキルゲルの声が響く。


(振り抜け! イメージをそのままに!)

「――ッ!」


 奥歯を噛み締めキルゲルを一息で振り抜く。刹那、疾風が駆ける。鋭い刃と化して。

 目の前の炎の壁を裂き、その向うに仁王立ちする火渦子の姿が僅かに見えた。だが、すぐに地面から噴出す炎が視界を塞ぐ。それに遅れ、僅かに火渦子の呻き声が聞こえた。


「うぐぅ! くっ……あの死に損ない!」

「なんだ、やれば出来るじゃない」


 火渦子の声に遅れて聞こえた雪国さんの皮肉に、小さく息を吐きながら笑うと、冷気が周囲を包んだ。燃え盛る炎の音か消え、寒気が全身を襲う。突然の事に体が過剰な反応を起こし、体の節々がズキズキと痛む。


『あの小娘! おい! 晃! しっかりしろ! くっ! 今すぐ体を変われ!』


 キルゲルの声に無意識に頷くと、意識が一瞬途切れ、キルゲルが体を支配する。しかし、その瞬間、体が重くなり、キルゲルが膝をつき苦痛に表情を歪めた。


「くっ……な、何だ……」

(ど、どうしたんだ?)

「体が……重い……」


 キルゲルがそう言うと、凍り付いた炎が音を起て崩れ、火渦子と空を舞う雪国さんの姿が視界に映った。右手に蒼い銃を握る雪国さんは、膝をつく僕を見て怪訝そうな表情を浮かべる。


「なに…してるわけ?」

「見て……分かるだろ……」


 奥歯を噛み締め、ゆっくりと立ち上がろうとするが、すぐに膝を落とす。


「くっ…ダメだ……。晃……変われ……」


 キルゲルが苦しそうな声でそう言うと、もう一度意識が飛び、キルゲルの意識が体から抜け、意識が戻った。体がダルイ。これも、キルゲルと体を共有しているからだろう。それでも、何とか体を起き上がらせ、肩で息をしながら立ち上がる。

 顔を上げれば、火渦子の姿が視界に映った。右脇腹に左手を沿え、服の下から滲み出る真っ赤な鮮血。先程放った刃が掠めたのだろう。致命傷では無い様だが、少しでも傷を負わせる事が出来たのは幸いだった。


「くっ…くくっ……やってくれる……。やはり、とっとと……トドメを刺しておくべきだったな」


 眉間にシワを寄せ、こちらを睨む火渦子だが、突如視線を逸らすと、その場を飛び退く。

 遅れて聞こえたのは乾いた破裂音。そして、衝撃と共に冷気が周囲に広がり、地面が凍り付いた。その後も何発も破裂音が轟くが、火渦子は表情を歪めながらも、軽やかなステップで全ての弾丸をかわす。


「チッ! ちょこまかしてんじゃないわよ!」

「くくくっ……それでもちゃんと狙っているのか? 悔しければ当ててみろ」

「へぇ……いい度胸ね。ヴィリー。全力で行くわよ」


 白翼を羽ばたかせ空を舞う雪国さんの声に、『出力全開!』と子供の声が蒼い銃から聞こえ、銃口の奥で蒼白い光りが収縮される。その光りが徐々に強まり、火渦子も危険を感じたのか「くっ」と、単音の声を発したのが聞こえた。だが、その声もすぐに掻き消す程の轟々しい風音が周囲に響く。

 その音を発するのは雪国さんが持つ蒼い銃。銃口の奥の蒼白い光りが更に眩く輝き、周囲の空気を冷やし白煙が薄らと漂い始めていた。その銃のグリップを両手で握り締め、右手の人差し指が引き金に掛かる。その手が僅かに震えて見えた。雪国さんの体も、その銃から発せられる冷気に耐え切れないのだろう。

 雪国さんの口から漏れる白い息。何かを話している様に見えるが、僕には聞こえない。それから程なくして、僅かに表情を歪め、「いけっ!」と言う叫び声と同時に引き金が引かれた。

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