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プロローグ

 小鳥のさえずりと共に、ベッドで眼を覚ました。

 携帯のアラームが鳴る前にそれを解除し、小さく欠伸をして体を起す。荷物の整理が終わり、殺風景な部屋を一通り見回し、もう一度欠伸をする。

 眠過ぎる。結局、一時間チョットしか、眠る事が出来なかった。

 ベッドから立ち上がり、水色のカーテンを開く。眩しい朝の日差し――は無く、淀んだ灰色の雲が暗いグラデーションを広げていた。


「雨……降りそうだな」


 ため息の後にそう言葉を続けた。

 とりあえず、出掛ける支度をしていると、ドアの向うから激しい足音と声が二つ。


「今日は僕が起こすんだよ!」


 朝から元気いっぱいの明るい声。一方、


「駄目だよ。お兄様はお疲れなんだから」


 ゆったりとした落ち着いた口調に、優しく暖かな印象を与える声。どちらも僕のよく知る声だった。


「はぁ〜っ」


 小さなため息。と、同時に部屋のドアが開かれ、妹二人が部屋に乱入してきた。


「あきら〜!」

「美空ちゃん。駄目だよ」

「なら、優海ゆうみは下で待ってろよ。僕は晃を――」


 美空の言葉が途切れ、眼が合う。暫しの沈黙の後、笑顔を見せ、


「おはよう」

「――て、起きてるし! 優海がうるさいから!」


 黒のショートボブの美空がそう叫ぶ。やや吊り目がちの目を、更に吊り上げそう怒鳴ると、その後ろに居た茶色みを帯びた黒髪のショートボブの優海が、申し訳無さそうに謝る。


「ごめんなさい。お兄様」

「別に優海の所為じゃないよ。既に起きてたし」


 笑顔でそう答えると、優海の顔も笑顔に変わる。

 美空と優海は僕の双子の妹だ。黒のショートボブに、やや吊り目の目、幼さが残る顔立ちの方が美空。体型は子供っぽい。運動神経はよく、学校でも人気者らしい。

 一方、茶色みを帯びた黒のショートボブに、オットリとした穏やかな目に眼鏡を掛けている方が優海だ。美空と違い、前髪をハート型のピンで留め、右目の目尻に小さなホクロがある。スタイルは良い方だと、思う。何故か、僕の事を「お兄様」と、呼んでいる。

 二人とも可愛い妹だと思う。

 支度をしている間中、文句を口にする美空に対し、優海は「うん、うん」と頷く。一応、優海の方が妹なので、文句も言わず話を聞いているのだろう。

 支度を終えると、それを待ってましたと言わんばかりに、美空が笑顔を向けた。


「晃、晃、ご飯どうする?」

「あのな……。一応、注意して置くけど、僕の方が年上だからな」

「いいじゃん! 一つしか変わらないんだし、それより、ご飯どうする?」


 やはり、言っても無駄だった。もはや、恒例行事のやり取りに、優海が楽しそうに微笑む。半ば諦めため息を漏らすと、不満そうに美空が頬を膨らす。


「何? 僕にもお兄様って、呼んで欲しいわけ?」


 背筋がゾッとする。美空にお兄様……ありえない。


「悪い。もう言わないから」


 すぐさま謝った。


「それで、ご飯は?」


 しつこくそれだけを聞くと言う事は、今日の朝食は美空が作った様だ。だが、待ち合わせまで時間が無い為、残念だが今回は――。


「悪い。今から、待ち合わせなんだ」

「エーッ! 今日のは力作なんだよ!」

「また、今度食べさせてくれな」

「何だよ、何だよ! もういいよ!」


 乱暴に扉を開き美空は部屋を出て行った。

 小さくため息を漏らすと、今まで黙っていた優海が、


「お兄様、帰って来てからでも、食べてくれませんか?」

「残してくれれば、食べるけど……どうして?」

「美空ちゃん、朝早く起きて頑張ってたから」

「そっか……。悪い事しちゃったな」

「大丈夫です。美空ちゃんはお兄様の事が好きですから」


 何のためらいもなくそんな事を口にする優海。聞いているコッチが恥ずかしい。それを口にした優海も恥ずかしかったのか、少し頬を赤らめている。考えてみれば分かる。恥かしがり屋の優海が、姉の為にどれ程勇気を出してあんな言葉を口にしたのか。本当に出来た妹だ。

 そんな事を思い、優しく頭を撫で「ありがとうな」と、口にして部屋を後にした。



 ――待ち合わせ五分前。

 隣町の神盛町しんじょうちょうに在る駅前の一本桜の前に居た。ここは、目立つし待ち合わせには最適だと、聞いていたが……先客が多く存在していた。これじゃあ、待ち合わせ相手が居ても見つけられないんじゃ――などと思うが、そこは誰もが持つ現代機器、携帯電話と言う便利なものがある。待ち合わせ時間になれば、メールでも電話でもすればいいじゃないか。

 ボンヤリと八分咲き程の桜を見上げる。満開の時に来たかったな。何と無く頷き、視線を落とすと、人混みの向うから黒のフードを被った男が、大きなケース型のカバンを持って飛び出してきた。

 突然、目の前に現れたその人物をかわす事が出来ず衝突した。その衝撃に視線が一変し、後ろの人を巻き込んで倒れていた。


「イタタタッ……」

「す、すいません」


 すぐさま後ろの人に謝る。すると、寝癖頭を右手で摩りながら、僕の方へと顔を向けた。


「俺は大丈夫です。それより――」


 彼の言葉が詰まり、周囲を見回す。僕もそれに釣られて周囲を見回すと、足元に見た事の無いアクセサリーが散乱していた。そして、スーツ型のカバンが開かれ、フードを被った男がそれを集める。

 どうやら、その男の持ち物がぶつかった衝撃で散ばってしまった様だ。ぶつかって来たのは向うだが、避け切れなかったこっちにも非はある。そう思い、散ばったアクセサリーを集めるのを手伝う。すると、僕が巻き込んで倒れた少年も一緒になって集め始める。


「すまん。すまん。急いでてね」


 アクセサリーを全て集め終わると、穏やかな口調で男がそう言う。この人も待ち合わせなのだろう。しかし、もう暖かくなって来たと言うのに、何故この人はそんなに厚着をしているのか、疑問に思う。

 赤黒い髪がフードの下から見え隠れするが、その顔立ちはよく分からない。顔をジッと見ていたのに気付いたのか、男が僕の方に目を向けた。だが、すぐに僕の隣りに居た少年の方に顔を向け、スーツ型のカバンから一つのネックレスを取り出し、


「これは、お前にピッタリのサポートアームズだ。拾うのを手伝ってくれたお礼にくれてやる」

「あっ、イヤ……。そんなつもりじゃ……」

「嫌々。遠慮する事は無い。貰っておけ」


 半ば強引にネックレスを手に握らせる。迷惑そうな少年。そりゃそうだろう。あんな高価そうなアクセサリーをただでくれるなんて、怪し過ぎる。忘れた頃に高額料金を要求されるんじゃないだろうか。

 そんな心配を他所に、男の体がこちらに向く。咄嗟に身の危険を感じ、一歩左足を後退させると、そこで携帯電話が鳴った。

 これを逃すわけには行かないと、すぐに会釈し、


「すいません。僕、待ち合わせしてるんで」


 と、言葉を残し、その場を切り抜けた。

 この時、僕は気付いていない。僕が彼の運命を戦いの中へと巻き込んでしまったと言う事を――。

 本編のガーディアンでは語られない、もう一つの戦士のお話ですが、楽しんでもらえる様に頑張っていきたいです。

 今回は完全に桜嵐晃の視線から送る一人称の物語となっていますが、本編同様よろしくお願いします。

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