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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愚かなるは

作者: 初月・龍尖


 柿の木の上に猿が一匹。

 彼はのんきに柿の実をかじっていた。

 彼の手元には焼き魚もあった。

 まだ湯気の立つ焼き魚を手で扇ぎながら柿の実をかじる。

 木の下から何やら罵倒が聞こえるが彼はそれに耳を傾けなかった。

 罵倒をするのは兎であった。

 兎が丹精込めて焼いた魚を猿は掠め取っていったのである。

 文字通り風のように。

 兎は何度も何度も木の上へ向かって叫んだが帰ってきたのは青い柿の実だけだった。

 猿の投げた柿の実は兎の額に直撃し兎は昏倒した。

 そこへ通りかかったのは犬であった。

 犬は兎を咥えてその場を後にした。

 猿はそれをみて愚かものが食われる瞬間をみられるかもしれない、とこっそりと犬の後をつけて行った。

 犬は歩く速度を上げ小山の手前、猿から見えないと判断した所で藪の中へ入った。

 気絶した兎を横たえ犬は伏せ息を殺した。

 その目の前をステップを踏むように猿が通り過ぎてゆく。

 十分な距離を取った所で犬は兎の頬を舐めた。

 兎は悲鳴を上げた、かったが息を吸い込んだだけで声は出なかった。

 

 猿が犬の巣へ向かっている。

 兎が噛み殺されるのをみたいからだろう。

 

 それを聞いて兎は縮み上がった。

 藪の中へ連れ込まれて自分は殺されるのだ。食われるのだ。その恐怖でガタガタと震えた。

 犬は腹は満ちているし遊びで殺さんよ、と言い。猿には一度、仕置をしておきたかったと続けた。

 何度か言葉を交わし藪を出た兎と犬は二手に分かれ行動した。

 犬は猿を後ろから追い、兎は藪を突っ切って猿の先へ出た。

 藪は棘が沢山あり兎の身体はまるでもて遊ばれたかの様に血塗れになった。

 小山を越え猿が下を見やるとそこには血塗れで倒れる兎が居た。

 両手を叩きながら喜び踊る猿の後ろから犬が吠える。

 突然の事で動転した猿は簡単に足を滑らせ小山を転がり落ちた。

 小山を転がる猿を見て犬は遠吠えを上げた。

 遠吠えを聞き兎はその場から急いで離れた。

 

 犬は興奮している。

 次は自分の番だ。

 

 と兎の本能が叫んだからだ。

 兎は振り向かず走った。

 長い耳は伏せ一心不乱に。

 気がつくと先程まで居た柿の木にたどり着いていた。

 かじりかけの柿の実と冷え切った焼き魚が落ちておりそれ以外は何もない。

 静寂だけがあった。

 遠くから何かの絶叫が聞こえた気がしたが兎はそれに気が付かぬふりをして再び走り出した。

 

 

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