巣から卵は
一羽の小鳥が餌をくわえて巣へ戻る。
巣には餌を待ち構えて大きく口を開く雛鳥。
その姿は親には似ても似つかない。まずもって身体のサイズが親を軽く凌ぐ。
どう見ても自分の子ではない雛の口に、“親”は餌を押し込む。
それは本能。
大きく開いた口を見ると、餌を押し込まずにはいられない。
解っている。自分の子では無い事を。
親の名は百舌。
雛の名は郭公。
カッコウはモズなどの巣を見付けると、そこに卵を一つ産む。
托卵、と呼ばれる行為だ。
何故、托卵をするのか?別にカッコウは卵を産み捨てている訳では無い。
モズの巣に卵を産んだカッコウは、数を合わせる為に一つ盗んでいく。増えたままではモズにバレるからだ。
カッコウの体温は低く、抱卵しても雛を孵す事が出来無い。
それ故、他の鳥を利用せざるを得ないのである。
カッコウにとって理想的な巣は、托卵先の鳥が卵を産んですぐの巣。
カッコウの雛は養い親の卵より先に孵化出来るからだ。
先に孵化したカッコウの雛は、回りに転がる他の卵を尻で押し、一つ残らず巣から落とす。
この時カッコウの雛には羽毛一本生えておらず、また目も開いていない。丸裸の雛が肉だけの翼を広げ、ヨチヨチと卵を巣から押し出していく。
当然、落とされた卵は割れる。
モズの巣にカッコウ一羽。
残酷だ無慈悲だと、この雛を責めるのは無知によるものだ。
スズメ目に属するモズは手乗りサイズ。巣に産む卵の数は五個ほど。
その内の一つをカッコウが自分の卵と取り替える。
仮にカッコウの雛がモズの卵を落とさなければ、モズの親は五羽の雛に餌を与える。
カッコウはモズの倍以上の図体になる。
五等分の餌ではカッコウの雛は餓死してしまうだろう。育てば育つほど他の雛より体格の差が出るカッコウの雛は、それだけ餌を余計に食べなければならない。
不可解なのは、誰もカッコウの雛に教えていないのである。
────巣のなかの卵を捨てなければ餓死する事を。
モズの親は、自分より大きくなった雛が我が子ではない事に気付いている。
だが、餌を与えずにはいられない。
自分の頭がすっぽり入るほどに大きく開けた雛の口。そこに頭をねじ込んで、モズは餌を与える。
モズの卵には模様がある。
次の年、モズは卵の模様を変える。余所者の卵を見分ける為に。カッコウの卵を見付けて巣から蹴り落とすのだ。
モズのみならずカッコウはオグロやヨシキリなど小鳥の巣に托卵する。
親が離れた巣に乗り込み、卵を産み、数合わせに卵を盗んで逃げるまで──
──所要時間:約10秒。
『カッコー』と鳴くのは雄のみであり、雌の鳴き声は『鷹の声』に似ている。雌は托卵直後この鳴き声を“わざと”聴かせる事で托卵先の親鳥に恐怖を抱かせ、注意力を削る。
結果、卵の判別の機会を托卵先の親鳥は失ってしまう。
進化は環境に適する形で進む。
托卵されない様に進化すれば、托卵する側も進化する。
進化の攻防はいつまでも続いていく。