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ナマモノ萬歳  作者: CGF
3/6

庭先の攻防


窓から眺める庭は緑。


花壇には季節ごとの花が、葉の緑に色を添える。




庭に出て近寄ってみよう。ぐっと近寄ってみよう。


葉の裏、茎などに目を凝らすと胡麻の粒に似たものが群れている。




アブラムシ。別名アリマキ。




単為生殖にして卵胎生────雄雌の区別があるのに雌だけで子を増やし、しかも腹の中で卵を孵す。


産まれてくる子は母と100%同一遺伝子のクローンだ。


しかもこの子の腹では既に卵が孵化している。


娘が孫を孕んだ状態で母から産まれてくる。そして娘も孫も母にしてみれば『私』である。



アリマキと呼ばれる理由は防衛策によるものだ。


アブラムシには退けようの無い天敵がいる。



天道虫テントウムシ


幼虫も成虫もアブラムシを捕食する純肉食性甲虫である。


鎧に身を包みながらも脚が速く、更によく飛ぶ。機動力と移動力に長けた虫。


対するアブラムシは草の汁をちゅうちゅう吸う以外何もしない輩。沢山増えた『私』は一匹の天敵によって全滅してしまう。



そこで登場するのが蟻。


蟻の好む汁を出す事で、アブラムシは護衛を得る。


蟻という数の暴力に天道虫は無力だ。





蟻は家畜を飼う畜産家の如くアブラムシの世話をする。


アリマキ──蟻牧──の由来である。


蟻にしてみればアブラムシの汁は『確実に入手出来る餌』ではあるが、これは貯蓄出来る類いのものでは無い。


蟻の本分は群を維持するに足る食糧の確保であって、蟻牧の分泌液はおやつ程度のものだ。



蟻は運ぶ。食べられるものなら何でも運ぶ。


運べるものが無ければ襲う。


蟻に弱味を見せたものは蟻の餌となる。


孵化したての蟷螂かまきりは蚊や蟻などを狙うが、一つ間違えれば──いや、シチュエーションが少し違えば──蟻に喰われる。



時たま、餌を探して単独行動をとっている時、罠にはまる者もいる。すり鉢状の罠は乾いた縁の下に多く、蟻の通るのを待っている。




蟻地獄。


すり鉢の縁に脚をとられた蟻に、大量の砂が叩きつけられる。


すり鉢の底には巨大な──蟻にしてみれば巨大な──顎が待っている。この顎で砂をぶっかけ、獲物を引き摺り込むのだ。縁の下に蟻地獄が棲むのは『乾いた砂場でなければ罠を作れない』為でもある。



しかし、蟻地獄は蟻の天敵たりえない。


蟻の天敵。




それは他の群の蟻。


群を維持するには食糧を確保する為の土地──縄張り──が必要だ。これは蟻に限らない。


その縄張りのなかに別の群が存在すれば食糧の奪い合いになる。


仲良く分ける?生きる為に必要最低限の栄養を半分こにすれば……双方共に餓死する。


餓死しない為、群を存続させる為、蟻は戦争を開始する。戦争はどちらかの巣が全滅するまで続く。



群を存続させるには縄張りと掟が必要だ。


群とは国家。縄張りは領土。掟は法律。



掟とは『同じ群の仲間を殺してはならない』単純にして明快な基準。




『人を殺す事がいけないのなら、何故戦争では人を殺してもいいのか?』愚か者は問う。


答:仲間を殺してはならない。別の群は仲間では無い。






窓から眺める庭は緑。


花壇には季節ごとの花が、葉の緑に色を添える。


……その花の陰で天道虫が油虫を喰い散らし、コオロギが鈴虫を襲い、蜘蛛が巣を張り、蟷螂が蝶を捕まえ、蟻地獄がじっと待ち構える。


油虫が自ら蟻の家畜となり、尺取り虫が枝に擬態し、毛虫が毒毛に身を包む。




生きるとは食べる事。食べるとは殺す事。


そして生きるとは殺されない事。



庭先に、軒下に、毎日ごくごく当たり前に繰り広げられる食物連鎖。




花の陰に殺戮があり、戦争があり、謀略がある。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 「仲間を殺してはならない。別の群は仲間では無い」 凄いなあ。「神に選ばれたユダヤ人だけが人であり、他は人ではない」みたいなものか。 自然界には学ぶべきこと全てがある。 それにしてもアブラム…
[一言] うーん。 深い。そして、重い。 生きるって大変ですね。
[良い点] おおお!? 鳥肌が立つくらい読みごたえありましたっ もし、黄色のマーカーを引いたなら、60%くらい塗りつぶしちゃうっ((((;゜Д゜))) アブラムシの子どもが生まれたときに、すでにそ…
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