名も知らぬあなたが、
※冒頭に虐待描写があり、ご注意下さい。
あなたが幸せになればいい。
他にはもう、なにも望まない。
バチ、ドカ、ガッ
ずっと続く音。
「なんで、あんたは、そんなに、出来が悪いのよお!!!!!」
女の金切り声。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
泣き叫ぶのを、押さえている声。
「ごめんなさ」
ごとん、
酷く鈍い、音。
荒々しくドアが閉められた。
残された部屋には、残骸のようなアザだらけのお腹をよろよろと抱え、小さな部屋の隅に行く、少女。
その隅にはガラクタと、ほこりが散らばるのみ。
でも、彼女には見えていた。
首に縄を、ぐるぐるに巻き、髪をボサボサと伸ばした、色白を十に通り越した青い女が。
その女に、少女は、てを伸ばした。
「ま ま」
涙で濡れたぐちゃぐちゃの顔で、女に向かって嬉しそうにてを伸ばす。
その手に、少女に、女は触れられないとわかっていながら、抱きつく。
女の水滴を残さない涙が頬に伝う。
「まま、まま」
すり抜ける女のからだ。
それでも一番最初に抱きしめてくれた女を、透明なからだを、
「まま」
少女は自分を抱き締める事になりながら、縋るように、甘えるように、抱きついていた。
あなたが、名前も知らない小さなあなたが幸せになるのであれば。
その為ならばこの世に漂う事しか出来ない身を煉獄の炎で焼かれても良い。
なのに、その方法が分からない。ただただ、あの自分の娘を殴り放置する女を呪う事すら出来ず、此処に浮かぶ事しか出来ない。
ああ、どうか、仏様、だれか、どうか、どうか……………
透明な、何も掴めない手で、ただ、ただ、思う。
どうか、可愛いこの子に幸せを。
どうか、どうか、どうか、
どうか、