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無限を歩くルア  作者: 九重ウメ
第二章 ルアとラウバレル人造兵団
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第四話 人さらい

■第四話、人さらい


 龍樹を後にしたルアは、ブツブツと一人思考を巡らせその歩みを進める。何かしら得るものはあったにせよ、まだまだ情報が足りない。


(フルカネルリに、古代の戦争)

 

 ルアが知る、フルカネルリと言う名を出した女「ジェーン・ドゥ」。彼女はルアの知る限り、風の様に掴みどころのない、へらへらとした、決して自分の本心を悟らせない女であった。ラギータの言う、儚げで、もの悲しい印象とは随分と違う。そんな人物像の差異も相まって、ルアは何かむずがゆい気分となっていた。


「あまり進展は無かったけれど、何かの手がかりにはなるかしら」


 大きく嘆息を付き、ふと顔を上げる。いつの間にかラウバレルの町に戻って来たことにルアは気づく。


 ラウバレルの町は、このディプレシオンの中でも最も発展した町であり、レンガや石畳で舗装された道、街道には電柱が幾本も並び、電気が町全体に行き渡っている。


 水道や下水などのインフラも進んでおり、蛇口と言うものを捻れば、いつでも飲み水がそこから流れ出る。町は活気に溢れ、そこかしらに露店やブティックなども並ぶ。


 そんな街並みを走るのは、道の真ん中に埋め込まれている線路にそって電気の力で走る路面電車。この乗り物が人々の交通や商業を支え大きく発展したのだ。


 町の電気は、水蒸気を利用してタービンを回す「蒸気発電」が主なものである。その為、夏の地という事も相まって、少し蒸し暑くも感じる町である。魔法と化学の力で生み出された「魔導タービン」と言うものも存在するが、そちらは燃費が悪い代わりに小型の為、その他の目的や蒸気機関の補助等に使われていた。


 そういった事もあって、随分と人にとって過ごしやすい町であるから、必然と人は集まる。この増えた人口を解消するために、集合住宅なども建設されており、その街並みは他の地とは大きく違うものであった。


 日も随分と落ちたはずなのに、この町は昼間の様に明るい。これも町に行き渡る多量の電気が、数多の街灯を灯すからである。花明りの村にも電気はあるが、ここまで大掛かりには行き渡ってはいない。


 ルアの館の電気は、魔導タービンを発展させたオリジナルの物を使用していた。しかし、彼女は普段の生活に電気は多用しない。昔ながらの生活を営む。これは彼女なりのこだわりであった。


 そんな賑やかな街並みを、南に向け帰路に就くルアを後ろから呼び止める声が聞こえる。


「ルア? ルアじゃない!」


 聞き覚えのある声にルアは振り向く。声の主は、「リリカナルシリカ・イクセントラッヘ」であった。


 彼女はあれから、ルアの元で研究の手伝いと魔術や錬金術に関する知識を学んで過ごしていた。


 そうする中で、無人となった星月夜の村を復興させたいという自分の目標を見つけた。半年前、その資金の調達も含め世界を見て回るため、ルアの元から旅立ったのであった。


 薄紫の光を纏う白髪に黄金の瞳。白いドレスの胸元には、亡き友の形見、情熱を帯びた様に深く赤い紅玉に、美しい細工の光るブローチと銀のペンダント。少し身長も伸びたであろうか? 半年ぶりの再開に、リルカは弾む様な足取りでルアの元へと駆け寄った。


「久しぶりね、リルカ。こっちでの生活にはもう慣れたかしら?」


「えぇ、仕事も見つけたし順調よ。ルアが町に出るなんて、随分珍しいじゃない?」


「龍樹に行ってたのよ」


「あぁ、ラギータ様に。どうだった? 何か進展は?」


 ルアは少し口を噤んだ。女神と魔人の戦争。いくら気の知れた友人、リルカと言えど簡単に話す事は出来ない。


「……特に、無かったわね」


「そう。そうだ、時間はあるかしら? 少しお茶でも飲んでいかない?」


 リルカの提案に乗ったルアは、彼女に手を引かれ少し歩いた先にある喫茶店のテラス席に案内された。そのテラス席の屋根には細い配管が通っており、そこからはとても細かい粒子の霧が発生していた。その霧のおかげか、先ほどまで熱気を感じていたのが、随分とひんやりとした感覚になった。


「考えたモノね」


「この『ミスト・カーテン』のおかげで、ここのテラスは随分快適なのよ。レーベンブロイ博士っていう人が開発したらしいわ」


「ミスト・カーテン」と言う言葉に、ルアはピクリと反応する。先ほど自身の、「ステルス・カーテン」にネーミングセンスが無いとラ

ギータに煽られた事が脳裏に過ったからである。


「まぁ、中々のネーミングセンスね」


「……?」


 二人の席に、給仕の男性が現れ注文を取る。リルカはアイスティーを、ルアはアイスコーヒーを頼んだ。程なくして彼女たちの目の前には、良く冷やされ、氷がギッチリと詰まったグラスがスッと差し出された。賑やかな街並みと違い、この喫茶店はテラス席でも静かな、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。


「それで、今はどんな仕事をしているの?」


「占い師よ。この先を真っ直ぐ行った先にある、『瑠璃鐘楼』っていう占いの館に、住み込みで働かせて貰ってるの。私、これでも評判良いのよ」


「へぇ、アナタ占いも出来たのね」


「死霊術師だもの。守護霊に問いかけたり、簡単な降霊術ならお手の物よ」


 クスリと笑いながら話すリルカに、「随分、詐欺っぽいわね」とルアは毒づいた。


「そんな事ないわ、これも立派な技能職よ」と言い返すリルカの顔は、一年前の彼女からは想像もできない程、朗らかなものであった。

そんなリルカの笑顔を見たルアは、心の中で少しだけ引っかかっていた何かが取れた様な気になり、フフッと笑いながら、アイスコーヒーを一口含んだ。


 お互いの近況を離し終える頃には、すっかりと夜も更け町ゆく人々の姿はまばらになった。


「いけない、随分話し込んでしまったわ」


 リルカは周囲の人気のなさに気が付くと、ジットリと結露したグラスに残る紅茶を一息に飲み干した。


「明日も仕事かしら? 時間を取らせて悪かったわ」


「私は大丈夫、明日はお休みを貰ってるから。それよりも、ルアの帰りが……」


 リルカは、ルアが夜道を一人歩く事を心配している様子であった。いくらルアが優れた魔術師であり錬金術師だとしても、女性である事は変わりない。それに見た目は年端も行かない女の子である。


「心配しなくても大丈夫よ。フーゴ、姿を見せなさい」


 ルアがフーゴに命じると、彼女の隣の空間がペロリと暖簾を分ける様にめくれ、そこからリルカに向けてフーゴが顔を覗かせた。


「あら、フーゴ」


「こういう事よ、だからリルカが心配する事はないわ」


「そうね、フーゴが着いていてくれるのなら」


 リルカはフーゴの事を随分と信頼をしていた。館での生活の中、物言わぬフーゴの事を始めは少し怖くさえ感じていた。しかし、彼の草花や動物へ対する様子や、自身が困っている時に手助けをしてくれる姿に、今では最も信頼の出来る、最も頼りになる、強く優しい存在だと考えを改めたのであった。


「でもルア、最近妙な噂が町に流れてるの」


「妙な噂?」


「えぇ」


 リルカの話は大方このようなものだった。


 ラウバレルの町では、人さらいが出ると言う。ある少年が友達と遊んでいる所、黒い服の大人が数人現れる。彼の友達が何か話していると思うと友達と大人たちは一瞬の内にその姿を消したと言うのである。


 この事を親に相談した少年はラウバレル自警団に相談するも相手にはしてもらえず、行方不明になった子の親は必死に我が子を探すが、ついには自警団に精神に異常をきたし、過剰な迷惑行動を行ったとし施設に強制入所させられたという。


「……それ以来、人さらいの噂が絶えないわ。昨日もどこかの誰かが行方不明になったとか囁かれてるの」



「人さらい……ねぇ」


 ルアは視線を少し店の外にやると、ハァっと軽く溜息を付いた。


「リルカ、出ましょう。送っていくわ」


「えぇ、ありがとう」


 二人は会計を済ませると、足早に喫茶店を出た。




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