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無限を歩くルア  作者: 九重ウメ
第一章 ルアと星月夜の幽霊屋敷
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第一話「花明りの魔女」

突然ですが、昔から作品のタイトルを決めるセンスが絶望的にありませんでした。

友人のぽてさんからは、毎回(笑)とか物言わず煽られます。

今回は、結構な時間をかけて考えたんですがどうでしょうか?

個人的には、すっきりと名付けれたのじゃないかと思ってます。

ここまで、全然内容に触れてないのは流石に自分でも草が生えます。

このルアちゃんのお話は、短編くらいの長さで、複数の章に分けて書いて行こうかと思っています。

今回は秋の地「星月夜」の村にある幽霊屋敷のお話です。

とにかく書きたいお話が一杯あるので、頑張って走りきりたいと思います。

■はじめに


 私たちの住む世界とは別の世界「異世界」と呼ばれる場所は数多く存在する。そんな数多の異世界の中で、小さくも美しい場所がある。「ディプレシオン」と呼ばれるその世界は、春夏秋冬全ての四季が混在する、不思議な場所である。混在すると言っても、天候や気温変化がデタラメと言う訳ではない。ディプレシオンの海の果ては滝となり、いずこへと流れ落ちてゆく。海の真ん中・・・つまりは世界の真ん中に、それなりに大きな一つなぎの大陸が一つ。周りには、小さな島が無数に存在するばかり。

 

 そんな不可思議な世界の大陸は五つの地方に分かれており、分かれた地は各々の季節を一つ帯びている。まず、大陸中央には夏の地「青嵐あおあらし」西側は秋の地「星月夜ほしつきよ」。春の地「東雲しののめ」はその名の通り大陸の東に。永久凍土が広がる冬の地「細雪ささめゆき」は北方に。

 

 そういった具合に、この世界における四季は、その地を現すものであり、移り変わるものではない。東雲へと行けば、桜が咲き誇る麗らかな日和。青嵐へと向かえば、ゆらゆらと立つ陽炎を風が清清しく撫でる。色なき風吹く星月夜は……。目を閉じて想像してみて欲しい。あなたの思う美しい光景を。あなたの望んだその光景が、この世界には広がっている。

 小さな世界の端、大陸の南には「花明り(はなあかり)」と呼ばれる地がある。色とりどりの花や野草が年中咲く、少し特別な無垢の地。花明りに住まう者たちは、小さな村で生活をし、慎ましくも平穏に暮らしていた。森には小さな館がひっそりと存在する。見た目は古めかしいが、良く手入れが行き届いているようだ。門は来訪者を拒む様に、冷たく静かにたたずむ。その奥に広がる庭には、薬草や色とりどりの花々がキラキラと五色七彩に輝く。


「森の館には、二匹の鬼と魔女が住む」


 そんな噂話が、小さな世界でささやかに囁かれている。魔女は長い年月を生き、病に苦しむ人々がいれば薬をつくってやり、作物の不作に悩むと、不思議の薬で大地を癒す。しかし誰もその魔女に会った事は無かった。人々が困ると、村の中央にある女神の姿を模した石造の像の前に手紙と薬が置かれてあるのであった。ある人物が礼にと花明りの館へと向かうが、どうしてもたどり着く事が出来ない。村からは館が見えるのにたどり着けない。


 誰も見たこともない鬼と魔女、誰もたどり着けない不思議の館。ささやかに囁かれていた噂は、いつしか誰もが知る噂になっていった。

  



■プロローグ


 それは不可思議な力を使う術。古の人々は、自身の中にある常識を超えた力を魔術と呼んだ。見えざるモノを見、聞こえざるモノを聞き、あらざるモノを呼びおこす。様々な奇跡を生むその術を操る者は、魔術師と呼ばれた。


 彼らが起こす数々の奇跡の中でも、タブーとされる術がある。死者の魂を魔術で使役する、魔術の中でも最も忌み嫌われた術「死霊魔術」である。黒魔法、呪術、禁呪……いくつもの忌み名を持つその術は、死者への冒涜とし、命の、魂の、いわゆる道徳と言う物に従って否定されて来た。


 私たちが生きるこの世界では、宗教、道徳的観念、人権問題。例えば、神の与えたもうた命であったり、どんな命も慈しまなければならないだとか、人は皆平等でなければならないと教えられるだろうし決められている。命とは守られるものであり、大切なものなのだ。そうして我々人類は、平和や争いを無くそうと努力をしている。その思想を、根底からくつがえすこの魔術は、やはり都合が悪い者たちには都合の悪い代物である。あまりこういった話を深く掘り下げてしまうと、物語が進まないし、全く別の話になってしまうのでそろそろ本題に入ろう。


 とにもかくにも、この魔術は忌み嫌われている。たとえ、この魔術を生み出した者が、最愛の人ともう一度会いたいと言う理由で生み出したとしても、道徳と言う物がそれを許す事はないだろう。それは、私たちの住むこの世界とは違う、ディプレシオンの世界でも同じであった。


 小さな世界の「星月夜の村」で、死霊魔術師の娘として生まれ育った少女がいた。名は「リリカナルシリカ」。艶やかで美しく、良く手入れされた黒髪が特徴的な、優しく品のある女の子だった。彼女の操る死霊魔術は、必ずこの世界の人々の役に立つと信じた、両親の研究を受け継いだものであった。


 しかし、死を概念とする魔術を忌み嫌い、彼女とその家族は村の人々から強く迫害受ける。幼い心に闇を抱えて育つリルカの唯一の心のよりどころは、幼馴染で仲良しの宝石魔術師「カーネリア・カルセドニー」だけであった。二人はお互いの自分にはない才能を称えつつ、平穏に日々を過ごそうとしていた。

 

 ある日、行き過ぎた迫害は、村の人々の良心を奪い暴徒を生みだした。その弾みでリルカの父は、暴徒の凶刃の前に命を失う。母の必死の抵抗で、なんとか逃げ延びるリルカであったが、悪意の目は忌まわしき存在を逃す事は無かった。


 冷たく輝くナイフの刃が少女を襲う。


 恐怖に目を閉じたリルカが、温もりと重みを感じゆっくりと目を開けると、そこには血まみれのカーネリアが自分をかばう様に覆いかぶさっていた。


「良かった……リルカが無事で」

 

 カーネリアが優しく笑うと、彼女の体からゆっくりと力が抜けた。


「私のせいだ……」

 

 リルカは彼女を助ける為に、黄金に輝く瞳から涙を流し魔法を唱える。


「まってて、今助けるから」


 今ならまだ、蘇生の魔術が間に合うかもしれない。この蘇生の魔術は、大変な高等魔術である。死霊魔術を研究する彼女の一家は、この魔術をより実用的なモノにするために日夜研究を進めていた。


 リルカはすっかりと忘れてしまっていた。魔術師の魂に術をかけてはならないという母の教えを。魔術を操る者の魂は、輪廻の輪に返さなければ災厄を生み出すと言う教えを。カーネリアの体が光に包まれる。術は成功したように見えた。瞬間の事であった。光がカーネリアの胸の中へ入っていくと、猛々しい炎が彼女を包む。


「———!」


 同時に声にならない金切り声の叫びと共に、炎の中から怖ろしい姿のバンシーが飛び出した。その姿は、灼熱の炎を纏い、人であった頃の面影は消え去り、苦悶を叫ぶ口と目は、奈落に続く穴の様に深く、暗く、光を放たず、ただ苦しみにのたうつ様に空に暴れ狂い、その身から、触れるものは全て焼き尽くす呪いの火の粉を振りまいた。


「……え?」


 リルカはただ茫然とその光景を眺めた。今起こっているこの状況が理解できずに立ち尽くす。彼女が思考を働かせ、状況を理解する頃には炎のバンシーは村の全てを、命あるもの全てを燃やし尽くした後であった。それでもなお、怒りの、苦しみの炎を燃やし続けバンシーは、夜空を橙に染め上げ飛び回る。息する事も許さぬ熱気がゴウゴウと音を鳴らし空気を揺らす。草木や家屋が火に焼かれバチバチと弾ける。形を保てぬ建物が崩れる轟音。静かで、豊な秋の村は、見る影も無い地獄へと変わり果てていた。


「お願い……もうやめてカーネリア。私のせいだ……こんな事になるなんて」


 少女は只々、自分を責める事しかできなかった。




■第一話「花明りの魔女」


 ある日の昼下り。大陸の南にある花明りの村では、一年前の星月夜の村の大火災を追悼する式の準備に村人たちは集まっていた。


「本当に痛ましい事件だったな」


「あぁ。村はほとんど燃え落ちて、生存者は一人も無し。俺は救助隊に参加してたんだが、今でも胸が痛くなるよ」


 二人の男が話していると、救助隊に参加した男の妻が話へ入ってくる。


「ねぇ、あの火災の夜。空には炎の魔物が飛んでたって噂じゃない。きっとあの魔術師の一家が何かしでかしたのよ」


 妻の言葉に夫は憤る。


「今この場でそんな事言うものじゃない。噂はあくまでも噂だ。滅多な事を言うな」


 夫の強い口調に、妻は「そんなに怒らなくても良いじゃない」と少しボヤきながらその場を後にした。


「おいおい、ケンカは止してくれよ。こっちまで気まずくなっちまう」


「すまない。とにかく、俺たちだけでもしっかり供養してあげないとな」


「お前、確か友達があの村にいたんだよな」


「あぁ。ラウバレルの街で研究者になって、あの村から星を研究してたんだ」


「そうか……。しっかり弔ってやらないとな」


「そうだな」


「しかし、東雲の天罰と言い、恐ろしい事は突然起こるものだな。俺たちも何か起こった時のために対策を考えておかないと」


「その為にも、森の館の魔女と会って話をしたいんだがな」


「二匹の鬼を連れてるっていうあの魔女か?その話も何だか眉唾な話だけどな」


「魔女はいるさ。娘がな、熱でうなされてもうダメかって時に、薬をくれたんだ」


「会った事があるのか?」


「いや、女神像に祈りに行ったんだ。そうしたら、手紙と一緒に薬の入った小瓶が置いてあってな。藁にもすがる思いで娘に飲ませたら、次の日にはすっかり熱も引いて峠を越したのさ」


「本当かよ」


「あぁ。だから俺は館にお礼に行ったんだが……どんなに歩いてもたどり着けなかったんだ」


「じゃあ噂は」


「本当だ。俺は信じてる」


 男はそう言いながら、森へと目を向けた。村から見える辿り着く事の出来ない館を眺め彼は物思いに更けていた。




 そんな不思議な館の庭先で、午後の穏やかな太陽の光を浴びる植物達の世話をするのは、ガシャリガシャリと音をたてながら歩く大きな鉄の塊。彼は鋼のゴーレム「フーゴ」。館の主の望みのままに館の手入れを、植物達の世話をする無口で心の優しい存在。フーゴは乱雑に伸びた木の枝をその大きな手には似合わない小さなハサミで切り落とすと、ガシャリと音を立てながら視界に映る太陽を物言わず眺めた。


「……」


 そうしていると、彼の肩に羽休めにと小鳥が止まる。


「……」


 フーゴはしばらくその場から動かなかった。


「おーい、フーゴ」


 館の方から金属管の中で響く様な声が聞こえる。その声が聞こえ、フーゴの肩に止まっていた小鳥はまた空へと飛び立った。小鳥を見送ると、彼は声が聞こえた方へと向く。


「そんな所で突っ立って何をしていたんだい?」


 腕が四本ある小柄で細身の鋼のゴーレムが、手を振りながら近づいてきた。彼の名前は「バッゴ」。館の主の望むままに、小間使いを任されるおしゃべりな存在。


「……」


 フーゴがガシャリと音を立てると、バッゴは彼の言葉を察したかのように話す。


「え?小鳥が君の肩に?・・・はは、本当に君は優しいんだなぁ」


「……」


「え? あぁそうそう、僕は君を呼びに来たんだよ」

 

 バッゴが四本の腕をパタパタと動かしボディーランゲージをする。


「ルア様がお呼びだよ。僕は腕が四本あるけど、力が弱いからね。こういう時は君の出番だよ」


 フーゴはゆっくりと頷くとバッゴを置いて館へと歩いていく。館の扉の奥には広いエントランスがあり、フーゴはその奥へとがしゃりと音を立てて進む。奥には、立派な廊下がありその奥にはまた一つ扉がある。扉の奥からガタガタと音がしたと思うと、今度は女の子の声が扉越しに聞こえる。


「あぁ、フーゴ来たのね。お前の力が必要よ、手伝って」


 フーゴが扉を開けるとそこは、様々な本が散らかっており、奥には小さな女の子が椅子を何段も重ねて高い位置の本を取ろうとしていた。彼はグラグラと揺れる女の子に近寄ると、その大きな手で彼女を抱える。


「もう少し右へお願い……と、取れた」


 女の子が本をしっかり握ると、フーゴはゆっくりと彼女を床へ降ろす。


「助かったわ、フーゴ。……後、向こうの本棚倒しちゃったから片づけお願い出来るかしら?」


 腰まで伸びた金色のくせっ毛に、美しく輝く深い群青の瞳、そして特徴的な金縁の丸眼鏡をかけた女の子の名前は「ルア・マグノリア」。二体の鋼のゴーレム達の創造主にして錬金術師でこの館の主である。


「あぁ……しまったわ、この薬草の粉末は切らしてる。バッゴについでに摘んできてもらえば良かったわ」


 難しい顔をしながらブツブツとつぶやくルアをしり目に、フーゴは言われたままに本棚の片づけをする。その横で一冊の本がふわふわと浮かびながら、白紙のページに光る文字を浮かばせながらルアにまとわりつく。


「もう、アナタがそんなだからこうやって一々調べるのよ!」


 ルアはふわふわと浮かぶ本に文句をつけると、本は再び文章は浮かばせた。


「……大体、本が記憶喪失だなんて聞いたこともないわ」


 この記憶喪失の本は「ゲオルグの書」。全てのページが白紙の生きた不思議な本である。


「これでも錬金術の奥義書というのに、まったく……まったくだわ!」


 ゲオルグとルアのやり取りを横目に、フーゴは気にせずテキパキと片づける。館は静かに穏やかな時間が流れる。時折ルアがあーでもないこーでもないと、本を読んだりしながらつぶやく。


 どれくらいそんな時間が続いただろうか?外からあわただしくガシャガシャと金属の足音が駆けてくる。


「ルア様! 大変でございます!」


 バッゴが慌てた様子で部屋へと飛び込んで来た。


「うるさいわね……一体なんだというの?」


 ルアは不機嫌そうに読んでいた本を閉じ、バッゴの方へ向く。本棚をすっかり片付け終わったフーゴは、ふわふわと浮くゲオルグの書と戯れていた。


「館の……館の周りが無数の動くガイコツに囲まれております!」


 慌てふためくバッゴの話を聞くと、ルアは窓から外の様子を伺う。いつの間にか、日が沈んで空はオレンジに染まっており、いつもの夕暮れと変わらない様子がそこにあった。


「何よ……ガイコツなんて、どこにもいないじゃない」


 ルアがそう答え、バッゴの方へ向き直ると窓の外からカラカラと乾いた音がなる。振り返るとそこには、窓から中の様子を伺う様にガイコツの頭がフラフラとうごめいていた。


「うえええ!?」


 ルアは情けない声を出し腰を抜かした。




 ルアと二体のゴーレムが館の外へ飛び出ると、そこは無数の動くガイコツが闊歩していた。


「何なのよこれ……ドッキリにしては趣味が悪いわね」


 皮肉めいて呟くと、バッゴが震えながら話す。


「ぼ、僕はホラーはちょっと苦手なのですが」


「何よ、情けないわね」


「そういうルア様こそ、先程腰を抜かしておられましたが?」


「うるさいわね! 普通ああいうのはビックリするものでしょう!」


 ルアとバッゴが言い争いをしていると、ガイコツ達の間を縫うように、ぼんやりと光る何かがユラユラと飛んで彼女たちへと近寄る。


「あなたが、花明りの魔女ね? やーっと到着したぁ」


 青白く輝きふわふわと宙に浮く女の子がルア達へと話しかける。ムッとした顔でルアは答えた。


「私は魔女じゃないわ、錬金術師よ! その前にあなた何者?」


「えー? れんきんじゅつし? あたしそういう風には聞いてないんだけどなぁ?」


「質問に答えなさい!それに、草結びの結界をどうやって抜けたの?あれは簡単に越えられるものじゃないわよ?」


「あたしはレブナント! 星月夜の幽霊屋敷から来たよ! 森の周りにあった魔除けみたいなのはジェーンお姉ちゃんがどうにかしたよぉ?」


「どうにかって……」


 ルアは調子を狂わされながらも会話を続ける。


「でっ、この有様は一体なんのつもり? 私の館がこれじゃ、お化け屋敷みたいじゃない」


「あたしはねぇ、リルカお姉ちゃんからそのふわふわ浮いてる本を貰って来いって言われたのぉ。リルカお姉ちゃんは今手が離せないからあたしがお使いなんだよぉ! えらい! あたしえらい!」


 レブナントと名乗る少女はキャッキャと笑う。ルアはさらに不機嫌そうに顔をしかめながら答えた。


「リルカってのが誰だかは知らないけれど、この本は渡せないし、貸すなんて事も出来ないわ。さぁ帰りなさい、もう用はすんだでしょ?」


 ルアが冷たく言い放つと、レブナントの顔から笑顔が消える。


「えぇーじゃあ「じつりょく」で奪ってきなさいって言われたし……しょうがないよね。やっちゃえ、スケルトンさんたちっ!」


 レブナントの号令で様子を伺っていた、うごめくガイコツ達が一斉にケタケタとルア達にゆっくりと向かい動き出す。


「やろうっていうのね……降りかかる火の粉は払うのが私の主義よ。行きなさい! フーゴ! バッゴ!」


 フーゴは鋼の巨体を大きく前へせり出すと「ゴオオオオオオ!」と大きな音を立てる。


「えぇ!? 僕も戦うんですか!」


「私にも準備があるのよ! 時間をしっかり稼ぎなさい!」


「そんなぁ……僕、戦いなんてした事ないのにぃ」


 バッゴは渋々スケルトンへと向き合うと、「うぅ……怖すぎますよぉ」と弱音を吐いた。


「ガオオオオオオンンン!」荒々しく唸る轟音と共に、フーゴの大きな腕が無数のスケルトンを一気に凪払う。対照的にバッゴは「ひぃぃ!」と情けない声を上げ走り回っているが、彼も何かの準備をしているルアにスケルトンを近づかせまいと必死であった。


「あぁ、やめてやめて! そんなに叩いちゃ壊れちゃうよ!」


 バッゴは涙声でスケルトンたちに懇願していた。


「もう少し踏ん張りなさい!」


 そう叫ぶとルアはポケットの中から何かを取り出して、腰にぶら下げていたフラスコに入れては振ったりブツブツと呪文を唱えていた。


「そんなんじゃ、あたしは防げないよぉ!」


 レブナントは、フーゴの鉄壁とも言える守りをするりと抜け、ルアへ素早く近づいた。その時バチンと何かが弾ける様な音がし、ルアに近づこうとしたレブナントをはじき飛ばした。


「いったーーーーい! なんなの!?」


 困惑しながら痛がるレブナントに「あんたの名前は『レブナント』、戻ってくる者だとか幽霊って意味合いの名前よね?」とルアが言い放つ。傍らに浮かぶゲオルグの書は、光る魔法陣を輝かせていた。

 

「これは霊除けの陣、錬金術師は何でもこなすのよ」

 

 ニヤリと笑い「出来た!」とルアが叫ぶと、手にしたフラスコから光り輝く煙が上がる。そのフラスコを空高く投げると、バーンと爆発音が鳴り響き、大きな水滴が雨の様に大地へと降り注ぐ。


「このルア様お手製の、聖水の雨をお見舞いしてあげる! アンデッドなんてこれで一発よ!」


 聖水の雨に打たれたスケルトン達は、次々にガシャガシャと音を立て崩れ去り、やがて煙を出しながら消えていった。


「な、なに……これ?」


 レブナントがおろおろしながらあたりを見回すが、すでに形を保ったスケルトンは皆無に等しかった。


「さぁ、後はアナタ一人きりよ? まぁ、聖水の雨を浴びたアナタも、もう力を出す事なんて出来ないでしょうけど」


 ルアの言葉を聞き自分の体の異変にレブナントは気づいた。


「うぅ……なんだか体が重い気がする」


「アナタよっぽど強い霊体なのね……聖水の雨にあたって、まだ存在し続けられるなんて」


 そう呟くとゲオルグの書が輝きだしルアは呪文を唱える。レブナントの周りを光がつつみ、その姿を金色に輝く光の檻へと変えた。


「ちょっと! 何よコレ、外に出して!」


 レブナントが叫ぶと「アナタはそこでしばらく大人しくしてなさい」とルアが言う。ブゥーッと頬を膨らまし涙目になるレブナントをしり目にルアは少し考え事をする。


「フーゴ、バッゴ、出かける準備をしなさい」


 フーゴとバッゴはルアに近寄ると「こんな時間にですか?しかもこんな事があったというのに」とバッゴが言う。


「星月夜の村に行くわ。この子はそこから来たと言うし、色々と引っかかるわ」


 ルアは難しい顔をしながら答えた。


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