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勇者の重臣

 ブルドーズ国の最後の砦であるフレート城を囲んで1ヵ月が過ぎようとしていた。


 フォード国から仕掛けて7ヶ月で、ついにここまで来た。城の陥落までもう一押しだろう。そうなれば、この戦は終わる。

 あごに生やした髭を擦り、攻城戦を仕掛ける兵士達を見る。勝ち戦が目の前だからか、士気が高い。

 防衛側に回っているブルドーズ国の兵士も必死で戦ってはいるが、押される一方だ。


 フレート城は魔法使いの張る防壁魔法によって守られており、こちらからの魔法に即座に対応している。

 ただ、常に防壁を張れるほどの余力はないだろう。この1ヶ月、ずっと攻撃に晒されているのだから、そろそろ魔法使いも限界に違いない。

 防壁の手が緩めば、こちらから一気に仕掛けることができる。今はそれまで、間断なく攻撃をし続ける必要があった。


 籠城は援軍が来るか、敵軍が引くかの可能性がなければできない。孤立無援では、耐えきるのは難しいのだ。

 今現在、フレート城を救援する軍隊は、フォード国軍の別動隊が抑えている。

 フレート城の兵士の心が折れるのも時間の問題だ。


 腕組みをして、戦いの状況を見ていると、背後から足音が聞こえた。振り替えると、王都で執務をしているはずのレイライトがいた。

 細面で涼やかな顔つきのレイライトは、羽扇うせんをゆっくりと扇いでいた。


「レイライト、王都にいなくて良かったのか?」


「ガイゼル殿の奮闘を間近くで見たくなりまして。ついつい王都を抜け出してしまいました」


 冗談めかして言うと、俺の横に並んだ。

 この男は掴み所がない。優秀な男で政治や軍事にも明るく、魔法にも精通している。

 魔王を倒せたのも、この男がいなければできなかったかもしれない。


 レイライトは羽扇で口を隠すと頬を緩めた。これが奴の癖だ。

 笑みを隠す癖がある。羽扇がなければ手で隠して笑うのだ。上品な笑い方なのかもしれないが、俺は好きになれない。


「陥落も間近ですね。デスティン様に吉報を持って帰れそうです」


「まだ決まったわけではない。ここから、粘るかもしれん」


「確かに。あちらも必死ですからね。何せ負ければ、王の首は斬られ、姫は側室行きですから」


 また口を隠して笑った。

 降伏勧告で出した条件が今言った内容だった。こんなもの受け入れられる訳がない。

 いや、受け入れないと分かってて言ったのだ。この国を完全に手に入れるために。


 この戦は半分難癖のようなものだった。

 フォード国の重臣が、ブルドーズ国に出向いたときに殺された事件が切っ掛けだ。

 誰が殺したか明確にはなっていないが、フォード国はブルドーズ国の仕業だと言って、戦争を仕掛けたのだ。


 重臣の敵討ちという大義名分を掲げての戦争。

 そんな戦争の降伏条件が卑劣なものだったことに、不快感を覚えたが、それが戦争というものだ。

 勝てば全てを得て、負ければ全てを失う。実に簡単な話だ。


「ガイゼル殿? いかがいたしました?」


「いや、何でもない」


「そうですか。少し伺いたいのですが、ブルドーズ国で何か問題はございませんでしたか?」


「何か?」


 戦争状態だから何か問題と言われても、問題だらけだ。

 レイライトが何を言いたいのか分からない。逆に問うことにした。


「戦争以外に問題があるのか?」


「そうですね。国には多くの問題が潜んでいるものです。問題があれば先に知っておくことで、対応策の検討ができます。目の前の戦争に勝つことも大事ですが、戦争後の統治も考えての戦争をしなければなりません」


「ほう。それならば、戦況以外の話は耳に入ってきてはおらん」


 俺の言葉を聞いて、レイライトは少しだけ考え込むような素振りを見せた。

 何を考えているのか、全く想像できない。知者の考えは俺達のような前線で戦う者達とは丸っきり違うのだ。


「分かりました。それでは、早期に戦を終わらせなければなりませんね。そろそろ、麦の種植えの時期になりますので」


「ああ。ん?」


 フレート城から火の手が上った。こちらの魔法が着弾した訳ではない。

 攻めかけていた自軍も異変を感じ取り、攻撃の手を一旦緩めた。その時、城の門が大きな音を立てて開く。

 中から、大量の兵士が気炎を巻きながら、突撃を仕掛けてきた。


「自害しましたか」


 レイライトは呟くと、羽扇で口を隠した。


「勝敗は決しましたね。後はあの残党を始末するだけです。ただ、あの手の輩は少し厄介です。命を捨てて戦う者は加減を知りませんから」


「分かっている。ここからは、俺が出る」


 背負っていた大斧を手にし力強く空を斬って、魔力で体を強化する。これで、この斧も木の枝を振るように軽く扱える。

 レイライトが、真っ直ぐな目で俺を見つめた。


「不倒のガイゼルの勇姿、この目に焼き付けて王都に戻ると致します」


「デスティンに、よろしく伝えておいてくれ」


「はい。ご武運を」


 大斧を天に掲げて雄たけびを上げる。俺の部隊の兵士が配置に着くと、一気に敵に向けて駆け出した。

 戦いに生きることができる。何も悩まなくて良い。ただ戦って勝てばいいのだ。何と単純な世界だろうか。持ちうる限りの力を出して、相手を屈服させる。

 例え、それが死であっても、戦場ならば許されるから、細かなことは考えなくていい。俺は思うがままに、戦場で生きる。そして、勝つ。デスティンと共に魔王と戦い、勝利を収めた時のように。


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