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7話 最強の種族vs最強の矛(筋肉)






 木々はない。あるのは吹きさらしの野山。春先に咲くであろう小さな花が風に揺れていた。


 首にミリアのロザリオをつけている。ミリアは後衛として戦いたいと言っていたけれど、正直言って、自然治癒術式しかまだ使えないミリアはドラゴンの的にしかならない。崖下の洞穴に隠れているよう説得した。


 この肉体がどれだけドラゴンに通用するかはわからない。けれどやるしかない。殺らなければ、殺られるだけだ。


 「きたな…ッ。」


 剛風が吹き荒れる。真紅の鱗に包まれたドラゴン。ファイアドラゴンが野山に降り立つ。ゴブリンを狩って小銭稼ぎしようとしたら伝説級の魔物と戦うことになるとは……運が悪すぎるにもほどがある。


 「グルァァァアアアッッッ…!」


 ドラゴンの瞳がヤマトの首元、ロザリオを捉える。


 「どうしよう、めっちゃ怖い。」


 カッコつけて登場したもののドラゴンの眼力にビビり散らかしてしまう。だって鱗めっちゃ硬そうなんだもん!ドラゴン半端ないって!!あんなんパンチ通らへんやん!普通!!


 「グルァッッ!!」


 ドラゴンが動き出す。涎を撒き散らしながら爪で野山を削る。ただの突進にもかかわらず、その迫力は新幹線並みだ。


 「あーーーッッッ!!もうどうにでもなれッッ!!」


 こちらも地面を蹴って突進する。これで通用しなければどのみち拳も通らない。いつかは触れなければならないのだ。


 両者、とんでもないスピードでどんどん近づいていく。風圧で木々、草花が揺れる。



 「ッッッ!!!!」



 ドラゴンを真正面から受け止める。肺の空気がすべて抜ける、息ができない。意識が朦朧とする、どうやら脳震盪を起こしているようだ。


 けれど…。



 「止まったなァ…トカゲ野郎……!」



 角を掴む。ヒビが入る。ドラゴンは堪らず悲鳴をあげた。


 突進の衝撃をもろに受けて意識が朦朧としている、けれどこの千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。



 「いくぜ…ッッッ! 渾身のッッッ!!!」



 軸足を蹴る、懐に飛び込む。ドラゴンの動きも鈍い、どうやら脳震盪を起こしているのは向こうも同じらしい。ヤマトは受け止めただけあって、比較的軽症ですんだ。


 あとは、この右拳を、全身で。



「突き上げるだけだァァァアアアッッッ!!」



 ドラゴンの柔らかそうな腹に渾身のボディーブローをたたき込む。


 鈍い音が野山全体に響いた。ドラゴンが宙に舞う。いや、舞うというより吹っ飛ぶ。



 「ガァァッ……!!!」


 口から喀血している。よかった、通用した。一撃でこれだけ効くならあと数発で仕留められる!


 「ッッッ!?」


 右拳がやけに涼しい。ふと目をやると白い棒状のようなものが見えた。




 骨だ。




 「ッッッ!チクショウ…! 痛ぇええ……ッ!!!」


 何トンもある巨大な体躯を空高く吹っ飛ばせる力を瞬間的に発揮すれば腕の骨が無事であるはずがない。一番危惧していたことが最悪のタイミングで起こってしまった。


 祈るしかない…!さっきの一撃でドラゴンが生き絶えていることを…!





 「グルァッッ…!」



 喀血しながらも上空を旋回している。まずい本当に最悪のパターンだ。


 一か八かドラゴンに飛びかかるか…?いやダメだ…。まだ自分がどれだけジャンプできるかもわからないし、なによりドラゴンにつかまれず着地すれば今度は足がどうなるかわからない。


 運動エネルギーを生み出す下半身が壊れれば、まともにパンチは打てない。ヤマトに攻撃の手段は無くなる。



 「降りてこいよッ! トカゲ野郎ッッッこのロザリオが欲しいんだろッッッ!!」



 大声で叫ぶ、ドラゴンはお返しとばかりに大きく口を開く。


 急激に周りの温度が上がったような錯覚を覚える。



 「お前それは反則だろぉおおお!!!」


 ドラゴンのブレスがヤマトを襲う。野山を焼き払い木々を焼く。春先に咲くであろう花も、真っ黒な消し炭になっていた。


 「ッッッ!!」


 右腕に炎が少しあたる。野山に飛び出した大岩に隠れる。骨が飛び出している右拳が想像を絶する痛みをうったえた、それでもヤマトはとまるわけにはいかない。ここで止まれば右拳だけじゃすまないのだ。


 花が焼かれる臭いを嗅ぎながら次の作戦を考える。空を飛びながらブレスで攻撃されれば勝ち目はない。なんとかドラゴンを地に落とさなければならない。


 「くそ……あのトカゲ…チートすぎるだろ…!」


 パンチ1発でドラゴンが喀血するほどの致命傷を与えられるヤマトの方が異常なのだが、今はそれに気付く余裕すらなかった。


 足りない脳みそをフル回転させても名案は浮かばない。背中に当たっている大岩がだんだん熱を帯びてくる。


 このままじゃジリ貧だ…!やっぱ一か八かドラゴンに飛び乗るしか…!!




 「ヤマト!!!!木を使って!!!あなたなら木を振りかざすだけで気流を起こせるはずよ!!!」




 遠くから鈴の音のような声が聞こえる。ミリアの声だ。


 「あの馬鹿…ッ!!」



 ドラゴンがミリアの方を向く、まずい、今のミリアは裸同然、魔術発動の為の媒体、ロザリオは俺が持っている。


 近くにあった燃えてない二本の巨木に両手をかける。右拳が悲鳴をあげているが関係ない。構わず力を込める。


 「ミリア!!!!逃げろ!!!!!」


 ドラゴンがどんどん遠ざかっている。右拳にさらに力を込める。血が溢れると同時に巨木が抜けた。


 「頼むッ!!!!当たってくれ!!!!!!」


 轟音と共に巨木がドラゴンの方に飛んでいく。ヤマトが投擲したのだ。巨木はどんどん加速し、ドラゴンの右翼を捉えた。体勢を崩す。


 奴を地面に落とすには今しかない。両手をもう片方の巨木にかけ、振り抜く。自然では絶対に発生しないであろう不規則な気流が発生する。


 巨木を捨て駆け出す。



 ドラゴンの方を見ると、右翼を風にとられ、旋回しながら落下している。視界の端に岩に隠れているミリアも見える。どうやら間一髪間に合ったようだ。



 「ふッ!!!!」


 ドラゴンに飛び乗り左翼をへし折る。悲鳴をあげ、暴れるドラゴンに振り落とされるがすぐに立て直す。



 これで空は飛べない。




 5メートルほどの感覚をあけて、ドラゴンと対峙する。





 「正々堂々……一対一(タイマン)と行こうぜ……。」




 「グルァァァアアアッッッ!!!!!!」





 焼けた野山で両雄睨み合う。





 どちらも満身創痍、決着の時は近かった。

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