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3話 暖かいシチュー




 野菜多めのシチューのようなものをスプーンですくって口に運ぶ。とろけるような野菜とミルクのような甘みが口いっぱいに広がる。

 涙で失われた水分以外にも大切な何かを補えた気がする。

 さすがはミリアママ、滲み出るママオーラから乳製品系の料理が得意そうだなーとは思っていたけれど、まさかこれほどとは…。


 「ミリア……。」


 「どうしたんですか?」


 「こんな美味しいシチュー、そして先ほどのなぐさめおっぱい。どうもありがとう。」


 「最後のは余計です!…どういたしまして。それにしてもたくさん食べますね…お鍋もう空っぽですよ??」


 「そうか?別に普通だと思うけど……。」


 やはり旧人類の生態は未知に包まれている、などとミリアがムニャムニャ言っている。

 異世界転移してしまったということに驚きすぎて泣きべそかきながら駆け出した帰り道、ミリアに色々と質問した。

 ミリアはグレゴリア魔法学園という施設の生徒で旧人類に関する科目を専攻しているらしい。専攻しているだけでは旧時代の言葉を喋ることはできない、おそらく、ミリアがその科目においては特別優秀であるということだ。2000年前の言語を扱えるなんてママすごい。


 「なーミリア、ミリアもやっぱ魔法とか使えたりすんの?炎ブシャーみたいなやつ。」


 「ほ……炎は使えないです」


 「へぇー、じゃあ氷魔法とか?水魔法とか??あ!風魔法だ!!」


 「氷魔法も……水魔法も……風魔法も使えません……」


 ミリアが俯いて答える。土に埋まる勢いで落ち込んでいる。どうやら地雷を踏み抜いてしまったらしい。俺の認識が甘かった、だって優秀そうなオーラ出してたじゃん。旧時代の言語を七つは扱えるなんてイキってたじゃん。魔法もたくさん扱えるかと勘違いしてもおかしくないだろう?


 「……私が使えるのは自然治癒術式だけです。」


 「……へぇー!!すごいじゃん!自然治癒術式ねぇー!!!すごーーい!!!」


 よくわからんけど褒めておこう。女は褒めるだけでイチコロって妹が言ってたし、どうにかなるだろう。


 「えへへっ…そんなに褒めないでくださいよ、もう!あ、シチュー私のぶんも食べます??」


 ミリアの機嫌は2秒で治った。どうやらとんでもなくチョロい女の子らしい。

 表情がコロコロ変わるミリアを眺めながらミリアの使っていたスプーンを使ってシチューをたべる。なぜか二割り増しくらい美味しく感じた。


 「俺も魔術とか使えたりすんのかなー。」


 幼い頃から憧れていた魔法、ネットに載っていた魔法の使い方、もとい儀式ならあらかたやり尽くしたが魔法を使うことはできなかった。けれど、この世界なら俺も使えたりするのだろうか。魔法因子がどうちゃらこうちゃらとかミリアが言ってたし。


 「……試してみます?」


 「え!?試せんの!?」


 「魔法学園にある特殊な水晶なら手をかざすだけで術者の魔力量を調べられますよ。」


 「やる!是非やらせてくれ!」


 暗黒魔法的なのを発動する自分が目に浮かぶ。いや、炎でも水でもなんでもよかった。とにかく魔法という空想上の産物が実際に行使できるものになったということが嬉しいのだ。


 「旧人類の魔術適正や、魔術を発動した場合の効果などは私も興味がありますからね。それにヤマトがこの世界の言語を使うためにも言語同期の魔術を先生にかけてもらわないと。」


 「あ〜明日が楽しみだぁ〜。」


 「寝るときは奥のベッドを使ってください、私はそこのソファーで寝るので。」


 「は?一緒に寝るだろ?何言ってんの?」


 「いやいやいや!婚約前の男女が一緒に寝るなんておかしいです!不健全です!」


 「いや旧人類にとっては普通のことだから、みんな仲良く一緒に寝るから、普通だから旧人類にとっては。マジで。」


 「うっ…そんな文化聞いたことない……」


 「本に書いてあることなんかより実際に目の前に本物がいるんだから、関係ないだろ。百聞は一見にしかずという言葉が旧時代にあってだな…。」


 「あー!もうわかりました!寝ればいいんでしょ!寝れば!!」


 「わかればいいのだよ。」


 チョロインが過ぎるミリアを騙して添い寝の許可を頂く。練馬のヴァージンハンター(自称)と呼ばれたこの俺も流石に初夜から手を出すようなマネはしない。せいぜいおっぱいをちょっぴりおさわりするくらいのものだ。


 「……なんで…!服着てないんですか…!!!」


 「仕方ないだろ、学ラン濡れてるし。これも文化だから、文化。」


 ミリアは育ちがいいのか、いちいち突っかかってくる。寝るとき普通は全裸だ。旧人類なら常識だとしても育ちがいい新人類にはすこし抵抗があるのだろう。


 「…変なことしないでくださいね。」


 ミリアが布団の中にモソモソと入ってくる。女の子特有のあまい香りが鼻腔をくすぐる。変なことは絶対にしない。すこしだけ胸をさわるだけだ。何も変なことはない。

 うわー!胸筋すごーい!触らせてー!

 頭悪そうな女の子が細マッチョイケメンによく言うセリフだ。女の子は男の子の胸筋を触っても罪に問われないのに、男の子が女の子のおっぱいを触ると罪に問われる。これは由々しき問題だ。真の男女平等社会であるならば男女は平等でなければならない。よって俺はおっぱいを触る。

 うわー!おっぱいすごーい!さわらせてー!の精神で生きる。


 「神に誓って変なことはしない、安心してくれ。」


 20.30分くらい経っただろうか、隣から可愛らしい寝息が聞こえてきた。初夜からおっぱいを揉むのは流石に図々しいと思い、熟睡しているミリアの胸を2、3回ほどお触りした。全然起きなかったので次は勇気を出して揉んでみようと思う。おやすみなさい。










 翌朝、目を覚ますとミリアが椅子に座って俺を凝視していた。よく見ると何やら書き物をしている。


 「何してんの?」


 「学術的資料です。スケッチです。時駆人(タイムスリッパー)は数百年前にたった一度だけ訪れた貴重な存在ですから。」


 「へー……じゃあそのタイムスリッパーってのは俺以外にもいたんだな。」


 「はい、610年前にこの地に発現したとされる未来からやって来た始祖の時駆人は、新人類に魔術を伝えたとされています。そこから新人類は魔術によって急速に発展し、今に至るというわけです。」


 「なるほど……でもなんでミリアは俺がその、時駆人って一目でわかったんだ?」


 「使っている言語が旧時代の日本語、服装、そして、黒髪黒眼の容姿で判断しました。それに大きな地震……伝承によると始祖の時駆人も黒髪黒眼で大きな地震の後に現れたそうですよ。」


 「ふーん。」


 時駆人……時間移動の秘密を知れば、俺も2021年に戻れたりすんのかな…。


 ミリアが心配そうにこちらを伺っている。


 「すみません……ヤマトは家族と離ればなれになってしまっているのに、私は自分の知識欲を満たすためにスケッチなんかしたりして……。」


 「……気にすんな!まぁ、せっかく憧れの魔法の世界に来れたんだ!とりあえず世界で一番の魔術師を目指すぜ!」


 「私もヤマトの目標をできる限りサポートします!……その代わりと言ってはなんですが……ヤマトを観察、もとい研究対象としてですね…。」


 「ミリアはえっちだなー。」


 「えっちじゃないです!!知識欲です!」



 俺とミリアの利害関係が一致した。ミリアにとって俺は観察、もとい研究対象らしい……面白い。


 観察していいのは観察されていいやつだけということをミリアは身をもって知ることになるだろう。


 朝日が窓際にある観葉植物を照らす、ミリアが水をあげたのだろう。葉についた水滴が太陽光を反射していた。



 「準備できましたか、ヤマト?」


 「おう!いざ行かん!魔法学園へ!!!」


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