プロローグ
布団の中、目を閉じて、ドラゴンに乗る。
佐倉大和は、空想の世界が大好きだった。
魔法を使いこなし、ギルドでクエストを受注し、ドラゴンの背中に乗って草原を駆け抜ける。
黄金の杖を携えて、魔王と戦い、王女を救う。
現実世界にないものを寝る前に妄想するのは彼の日課だった。
日課というより、逃避に近いのかもしれない。
学校では、いじめられているというほどでもなければ、人気者というわけでもない。
いつも本を読んでいる少し変わったやつ、というのがクラスメイトから見た佐倉大和の人物像だ。しかし、彼自身にとっては、自分自身を一言で表現するのであれば、普通という言葉が最も適切だった。
テストの平均点、体力テスト、友達の数、何をとっても抜きん出たものはなく、全て平均。
16歳高校一年生、多感な時期の大和にとっては、自分は何者でもなく特別ではないという事実は、耐え難い歯痛のように大和を苦しめていた。空想の世界に憧れていたというのも、その被害妄想に拍車をかけたのだ。
「このまま眠れば、魔法の使えるファンタジーな世界へ転生できる。憧れの黒魔道士になれる。ドラゴンにだって乗れる。おやすみ!」
「お兄ちゃんうっさい!」
鈍い音が隣の部屋から聞こえる。大和のお気に入りのフィギュアケースが少し揺れた。絵に描いたようなオタク部屋には様々な異世界転生系ラノベや名状しがたい美少女ゲームが綺麗に整頓されていた。
たびたび妄想のセリフを大声で叫んでしまう大和を妹は本気で頭の病気じゃないかと疑っている。
しかしそんなことは大和にとってどうでもよかった。
大和にとって大切なのは、魔法の使える異世界。
たったそれだけだ。
目を閉じる。目覚めるとそこはきっと、ドラゴンが空を舞い、未知のモンスターが地上を闊歩する。
そんな異世界が広がっているに違いない。
毎日、そう祈りながら眠るのだ。
「ありがとう地球、また会う日まで。」
かくして、物語ははじまる。
「お兄ちゃん、さっさとおきなよ。朝ごはんの食器片付けらんないんだけど。」
わけもなく、いつも通りの日常がはじまる
「……あれぇ? ドラゴンは……? 未知のモンスターは…?」
「はぁ? 何言ってんの?」
大和は、勉強とは関係ない部分の賢さが少し、いやかなり足りなかった。
「いってきまーふ!」
30秒で支度して、トーストを口にくわえて走る。何かを起こすためにはそれ相応の行動をしなければならない。大和のモットーだ。
しかしこの数年間、美少女とぶつかることはなかった。
大和も心のどこかではわかっていたのだ。異世界転生または転移などできるわけないと、魔法やドラゴンや未知のモンスターは空想の産物でしかないと、
心のどこかではわかっていたのだ。
わかっていたはずだった。
空が揺れた
「地震!?」
コンクリートの道路が裂け、電信柱が揺れ、スマホがけたたましく警報を鳴らす。日本に住み、地震に慣れているはずの大和も驚くほどの揺れだ。
「やばい……!」
道路の亀裂に足をとられる。大地が揺れる音、遠くで何かが爆発する音、悲鳴、怒号、様々な音がゆっくり耳の中に入ってくる。心なしか景色もスローモーションに見える。
「や……だ……っ!まだしに……ったく……な……。」
トーストくわえて走って登校したら地割れに飲み込まれるなんて、思っていた非日常とはかけ離れすぎている。
「ちく…しょう…! 俺まだ……どう……て……ぃ…………っ」
「………」
大和は地割れに飲み込まれた。
初投稿でしっちゃかめっちゃかになるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。