第八章:罠師の仕掛けた罠
アフォンソが断言すると明後日の方角から無数の矢が飛んできた。
しかしアフォンソの部下が数名ほど動くや・・・・矢は飛んできた方角に戻って行った。
見ればアフォンソの周囲には透明な壁が張られていた。
「先ずは・・・・今まで罪を犯してきた狐の子分に罪を償わせるか」
ヤンはアフォンソの抱える魔術師達が発動させた「返し魔法」を見ながら呟いた。
この魔法は一種の「呪術返し」で物理的な攻撃も相手に返すのが最大の特徴だった。
その魔法で矢は返されたから・・・・・・・・
「・・・・命中だ」
ヤンは風に乗り鼻を擽った血の臭いをアフォンソに伝えた。
「俺が目を付けた魔術師だからな。あれくらい当然だ」
「それは羨ましい。しかし、罠が仕掛けられているから慎重に進むにも時間が惜しいだろ?」
「あぁ・・・・出来るなら2~3日は時間を短縮したい」
その間にアンドーラ宰相に船の手配を頼むとアフォンソは言いながらマグダラの肩を抱き続けた。
「ちょっとアフォンソ・・・・いきなり過ぎよ」
マグダラはアフォンソから離れようとしたがアフォンソの腕はビクともしないのか?
幾らマグダラが押しても離れる事は出来なかった。
「つれない事を言うなよ。お前だって俺達の旗持ちなんだ」
大事な旗持ちを護るのは騎士の務めとアフォンソは言った。
「見くびらないでよ。私だって・・・・・・・・」
「強盗騎士の一人や二人は倒せるってだろ?しかし、目の前に頼れる男がごまんと居るんだ」
選り取り見取りなんだから頼れとアフォンソは言いながら部下に前進を命じた。
しかし、シュガール騎士団の方は10人前後に分かれると別々の方角に足を向けた。
「罠を見つけ次第、破壊しろ。ただし婦女子には手を出すな。以上」
ヤンがゆっくり進んだ部下達の背中に語り掛けると部下達は一斉に駆け出した。
「これで予定は早まるだろう。だが・・・・狐の子分は果たしてどう出るかな?」
「なぁに・・・・巣穴を防げば問題ないさ」
狐狩りは狐を巣穴から燻り出すか、猟師の所に追い込めば良いとアフォンソは語った。
そして狐を巣穴に逃げ込ませないのがポイントだとヤンに説いた。
「確かに・・・・そう聞いているな。俺には猟犬を使い、自分達は馬上から見ているだけの遊びにしか見えないが」
「あいつもお前も狩る獣に礼節を弁えているからな」
俺もそうだとアフォンソは言うが、それをヤンは「三無騎士が言っても説得力に欠ける」と痛烈に皮肉った。
「悪かったな。しかし偶には趣向を変えようぜ」
趣向を変える事で今、抱えている問題を解決する糸口が掴めるだろうとアフォンソは言い、それにヤンも同意した。
「確かに・・・・あの方も言っていたからな」
「常に視界は広く保て」と・・・・・・・・
「良い台詞だ。じゃあ・・・・行こうぜ」
アフォンソの言葉にヤンは頷き、2人は部下達に囲まれる形で前に進んだ。
そのアフォンソの胸板にマグダラは甘えていたが、その表情には切ないほど相手を愛しむ気持ちが宿っていた。
しかしアフォンソに知られたくないのか、それともラミーロや海外に居る兄2人に対する当て付けか・・・・・・・・
アフォンソの胸板に顔を埋めた。
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「やれやれ・・・・相変わらず陰気臭い罠ばかり仕掛けやがる」
アフォンソは目の前で真っ二つになって死んでいる無法者を冷たく見下ろしながら罠の仕掛け師ラミーロを皮肉った。
その周囲では聖白十字騎士団の面々が草の根を分ける如く調査している。
「おい、もう先に行くから止めろ」
アフォンソは部下達に調査の中止を命令しながら血を吸った愛剣を布で拭き取った。
しかし真新しい血脂によって完全には拭い切れていない。
もっともデレッチョ・シーティオ通りに足を踏み入れた瞬間から罠や無法者に襲われ続けているから当然だった。
ただ、ものの数分で無法者達は直接襲い掛かる事は止めた。
代わりにラミーロの仕掛けた罠や隙を伺って奇襲は仕掛けてきたが・・・・・・・・
無傷の彼を見れば一目瞭然。
如何なる罠も無法者もアフォンソに掠り傷一つ負わせていない。
それはアフォンソの部下達とヤンが指揮するシュガール騎士団の実力が高いからだ。
ただしラミーロも馬鹿ではなかった。
「“女紛い”の刺客なんて・・・・凝った罠だぜ」
アフォンソは女物の衣服を纏い真っ二つになっている無法者を改めて見下ろしながら悪態を吐いた。
死体は頭上から綺麗に股で二つに別れているが、死体の顔立ちは化粧こそしているが男だった。
だが男にあるべき「股の剣」は無い。
「フッ・・・・お前の女好きを見事に突いた戦法だな」
ヤンが血で染まった手斧を持ちながらアフォンソを皮肉った。
「婦女子に優しく接するのは騎士の基本だろ?しかし・・・・漸く半分は越えたな」
「あぁ・・・・このまま行けば早く船出できる筈だ。もっとも・・・・あのラミーロがお前を諦めるとは思えんな」
ここでお前を取り逃がせば間違いなくラミーロの末路は今、転がっている刺客と同じだとヤンは断言した。
「いいや、ラミーロ位ならまだ利用価値ありと狐は見て生かすかも知れないぜ?」
「それでも“表向き”は死んだ事にされる筈よ」
アフォンソの言葉にマグダラは女紛いの刺客の前で膝を折り繁々と見ながら言った。
「この刺客、確かに骨格は男だけど乳房は膨らんでいるし股の剣も綺麗に無いわ」
今までに無いとマグダラは言い、祈りを刺客に捧げた。
「天上に居る慈悲深き神よ。この罪深き者の魂を貴方の大慈悲によってお救い下さい」
マグダラの祈りが終わると刺客を「温かい光」が包んだようにアフォンソは見えた。
しかし目の錯覚だったのか・・・・・・・・?
やはり死体は物言わぬ死体だった。
「・・・・・・・・」
アフォンソは無言で死体を見ていたがマグダラが膝を上げると出発と命じた。
その命令に聖白十字騎士団とシュガール騎士団はデレッチョ・シーティオ通りを進み始めた。
しかし出発を再開して間もなく前方から無法者達が群れをなして襲い掛かってきた。
「一々相手をする必要は無い。焼いちまえ」
アフォンソは忌々しいとばかりに魔術師の一人に命じた。
魔術師は心得たように手を横に振った。
本来なら忽ち炎が手から出て無法者達を焼く筈だった。
ところが・・・・炎は出なかった。
それを知っていたように無法者達は一斉に魔術師を殺そうと抜き身の刃を振り翳したが、それよりも早く無法者達は蜂の巣になった。
「今度は“遮断魔法”か・・・・とことん陰気臭い罠だぜ」
アフォンソは2連発式クロスボウに新たな矢を装填しながらラミーロを皮肉った。
しかしヤンは訂正するように首を振った。
「いや、罠ではない。これは魔術師が直接魔法を掛けた」
ヤンは懐から細長い板状の物を取り出しアフォンソに見せた。
それは指針がある測りで、ヤンが仕える「本当の主人」が抱えている学者が開発した「魔力探知器」だった。
構造は極めて単純で見方も単純だった。
指針は一番上まで赤くなっているのが証拠である。
「なるほど・・・・魔力を探知する指針が一番上だな」
「そうだ。つまり・・・・遮断魔法は魔術師が直接掛けたという訳だ」
「チッ・・・・厄介だな。遮断魔法を使えるって事は“大家”の可能性があるんだろ?」
アフォンソの発した単語に僅かな動揺を魔術師達は見せた。
それは一つの魔法だけでなく二つ目の魔法も使える魔術師が敵には居るという事だからだ。