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第七章:右の席通り

 マグダラが出て来た事にアフォンソは軽く驚き、その訳を問い掛けた。


 「おいおい、前触れもなく出て来るなんてどういう事だ?」

 

 アフォンソの問いにマグダラは嘆息しながら答えた。


 「貴方とヤンが罠に掛かったからよ。テレサったら口では辛口だけど本心では・・・・貴方達を慕っているんだもの」


 父と兄として・・・・・・・・


 「おいおい、ミ・ビータじゃないのか?」


 ここぞとばかりにアフォンソはマグダラの言葉に食って掛かったが、マグダラは涼しい顔で答えた。


 「ラミーロの目の前で当て付けみたいにテレサを抱き寄せたでしょ?」


 ああいう行動にテレサは免疫が無いとマグダラが言うとアフォンソは額を抑えた。


 「フフフフッ・・・・道のりは険しいな。しかし久し振りだな?マグダラよ」


 ヤンは額を抑えるアフォンソに笑いながらマグダラに声を掛けた。


 「えぇ、お久し振りね。それはそうと・・・・ここから先は気を付けた方が良いわよ」


 マグダラはヤンに軽く手を上げてから声のトーンを落として忠告した。


 「ここから先は知っての通り・・・・無法者の縄張り。そこにラミーロは罠を幾つも仕掛けているわ」


 「奴なりに前回の教訓を活かした訳か・・・・しかし果たして罠だけか?」

 

 ヤンの問いにマグダラは首を横に振って否定した。


 「いいえ。無法者にも声を掛けているわ。特に貴方とアフォンソには多額の賞金を掛けているらしいの」


 「なるほど・・・・いやはやモテる男は辛いな?」


 ヤンは肩を震わせてアフォンソに笑い掛けたがアフォンソは鼻で笑った。


 「冗談じゃねぇ。野郎にモテても気持ち悪いぜ」

  

 特にラミーロみたいな奴にはとアフォンソは言うがマグダラはクスリと笑った。

  

 「あら、嫌なの?貴方と赤い糸で結ばれているって言ったじゃない」


 「あんな野郎と結ばれている糸なんてぶった切って奴の首に巻いてやるよ」


 「ラミーロも可哀想ね・・・・・・・・」


 ここまで酷い振られ文句を言われるんだからとマグダラは嘆いた。


 「心にも無い事を言うなよ」


 アフォンソはテレサと違い露悪的な性格のマグダラに軽く注意をした。


 「あら、酷いわね。私は本心でラミーロを憐れんでいるのよ。まぁ・・・・慰めろとか言われたら御免だけど」


 「それなら下手に同情なんてするなよ。まぁ良い。それでテレサの方はどうなんだ?」


 「まだ眠っているわ。でもオラクロの巡回を終える頃には起きる筈よ」


 それくらいが私も限界だとマグダラは言い、アフォンソはヤンを見た。


 「面倒な事は立て続けに来るな?」


 「本人を中傷するような発言は控えろ。それにお前のモットーはこうだろ?」


 ヤンはアフォンソの態度に呆れながらアフォンソの掲げるモットーを代弁した。


 「泣くな、喚くな、悲しむな。そんな暇があるなら前へ進め・・・・だろ?」


 「あぁ、そうだ。しかし・・・・お前に言われるんじゃ俺も焼きが回ったな」


 アフォンソは苦笑しながら黒作大刀を鞘に納めると団員達に告げた。


 「我等が麗しき旗持ちのお告げだ。これより警戒レベルを1から3に上げる」


 怪しい物や人間が居たら見落とさずに確認して「処理」しろとアフォンソが命じると団員達は頷いた。


 それに続けてヤンも団員達に命じた。


 「不審な“モノ”を見たら即“撃滅”せよ。以上」


 この命令にヤンの団員達は何も言わず武器を手にする事で承知した。

  

 それを確認してから2つの騎士団はオラクロの中でも極めて治安の悪い「デレッチョ・シーティオ(右の席)通り」に足を踏み入れた。

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 デレッチョ・シーティオ通りは名前が意味する通りオラクロの右側にある。


 当初は教皇の右腕と目される「枢機卿」が居を構えていたが今では無法者の巣窟と化している。


 反対側のイスキエルド・シーティオ通り(左の席)も同じだがこちらは貧者の住処となっている。

 

 しかしデレッチョ・シーティオ通りの住民に比べれば可愛いものだし、テレサの行動も実を結んでいるのか何とか真っ当に働こうとしている。


 ところがデレッチョ・シーティオ通りの住民は何かと彼等に悪さをしている。


 ここをアフォンソは入る前に警戒しているのだろう。


 通りの前で前線に立つ部下に告げた。


 「イスキエルドの住民にも警戒しろ。ただし、殺すな」


 イスキエルドの住民は金を握らされただけだろうとアフォンソは言い、その言葉を聞いてマグダラはクスッと笑った。 

 

 「優しいわね。今度から貴方を“サント・カバジェロ(聖なる騎士)”と呼んじゃおうかしら?」


 「止めてくれよ。背中がむず痒い。それはそうと気を付けろよ?」


 ラミーロはお前も狙う筈だとアフォンソはマグダラに忠告した。


 しかしマグダラは酷薄な笑みを浮かべてみせた。


 「モテる女は辛いわね・・・・辛すぎて殺しちゃいそうだもの」


 本命の殿方から嫌われないようにとマグダラは言いながら1枚の黒い羽を弄んだ。


 その羽を弄んだ刹那・・・・羽を明後日の方角に息を吹いて飛ばした。


 すると羽は自我を持ったように物陰の方に飛んで行き・・・・壁に突き刺さった。


 そして勢いよく燃えたが、それによって物陰に隠れていた人影を映した。


 炎で映し出された人間はイスキエルドの人間で、アフォンソ達の視線が自分に向くや一目散に逃げた。


 「やれやれ・・・・早速の出迎えとは痛み入るぜ」


 「それだけ今回は貴方に来て欲しくないのよ。貴方も知っているでしょ?」


 「東スコプルス帝国を抑えれば自分達に従う海軍力を手にするからだろ?」


 そして「詰めの城」にもなるとアフォンソは意味あり気にマグダラを見て言った。


 「なるほど・・・・やたらセプテントゥリオーネス大陸から“血の臭い”がするのはそれだったか」


 ヤンが思い出したように言ったがマグダラは初耳だったのだろう。


 「セプテントゥルオーネス大陸も騒がしいの?」


 驚いた声でヤンに尋ねた。


 「そう聞いている。そして・・・・時間の問題だ」


  如何に「2匹の番犬」が奮闘してもとヤンは言い、それを聞いてマグダラは沈黙した。


 「“氷の騎士”が言いそうな台詞だけど・・・・この国は・・・・また要らぬ業を背負ったわね」


 「・・・・覇道を進む国の宿命だ。しかし得てして覇道を進んだ国は滅ぶ」

  

 ヤンはマグダラの言葉に尤もな相槌を打ったが、それは的中しているとアフォンソは捉えた。


 この腐れ祖国を始め覇道を進んだ国は数多くあったが大半は新たな覇者によって淘汰された。


 だから何れ・・・・この国も覇者に倒されるという見方は間違いではない。


 しかし・・・・・・・・


 「そんな時代を悠長に待ってられないからな。俺は消えるぞ」


 ヤンは如何にもお前らしいと笑ったがマグダラは沈黙したままだった。


 それはアフォンソの言葉もヤンの言葉も的を射ているからだったが・・・・・・・・


 「テレサが果たして・・・・・・・・」

  

 「果たしてどうなんだよ?」

  

 アフォンソはマグダラに問いを投げた。


 「テレサが貴方に付いて行くかよ・・・・私なら付いて行くけどテレサは違うわ」  


 「確かに・・・・あの娘の性格からして自己の良心に従い“贖罪”をするだろう」

  

 ヤンの言葉にマグダラは頷いたが、その贖罪が如何なるものかは言わなかった。

  

 ただヤンにはテレサの贖罪が分かるのか眼を細める。


 しかしアフォンソは違った。


 「贖罪は必要だ。その気持ちを持っているだけで人間らしいからな。だが、その前にやる事がある」


 アフォンソはジロリと明後日の方角を見て・・・・言った。


 「罪を犯した人間に“落とし前”をつけさせる事だ」


 それから贖罪をすれば良いとアフォンソは言いながらマグダラを抱き寄せた。


 突然の事にマグダラは驚いたがアフォンソは言葉を発し続けた。


 「何よりテレサもお前も旗持ちだ。俺達が死ぬまで一緒なんだよ」

 

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