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第五章:老いた狐の刺客

 「おいおい、そんなに怒るなよ?」


 「これが怒らずにいられますか?!大体いったい何を考えているんですか?巡回中に酒は飲むし部下を使って賭け事をするなんて・・・・・・・・!!」


 「相変わらず・・・・真面目な性格だな」


 アフォンソに怒鳴り散らすテレサにヤンが語り掛けるとテレサはヤンを睨んだ。

  

 もっともヤンの身長は2メートルで体格もガッチリしているからアフォンソの時以上にテレサは見上げる形になった。


 しかもヤンは血生臭い話に事欠かないシュガール騎士団の総長という事もあり端からは見れば肝を冷やす光景である。


 だが実際は深刻な展開にはならないとアフォンソ達は知っていた。


 それはヤンという男が「婦女子」には手を出さないと自分で公言し、そして実践しているからだ。


 だからテレサが如何に罵詈雑言を浴びせて手を出そうともヤンは手も足も出さない。


 これは過去に何度もあったのでお墨付きと言えた。


 もっともヤンの性格を抜きにしてもテレサは噛み付いたという見方もある。


 現に今がそうだ。


 「ヤン総長!貴方にも以前に言った筈です!!」


 こんな血生臭い真似は控えるべきだとテレサは言うがヤンは涼しい顔で答えた。


 「血生臭い戦闘は騎士に付き物だ。そして我が騎士団はアンドーラ宰相および皇帝陛下にも認められている」

 

 『シュガール騎士団が相手を皆殺しにしても・・・・それは戦いを挑んだ相手が悪い』


 「そして今お前が祈った奴等は背後からお前達を襲おうとしていた。それを我が騎士団は助けたまでだが・・・・お前は恩人を叱るのか?」


 テレサはヤンの理詰めにグゥと唸り、助けを求めるようにアフォンソを見た。


 テレサが怒り、そしてヤンが理詰めで逆襲するのは何時もの展開だ。


 そして理詰めで逆襲されたテレサがアフォンソに嫌々ながら助けを求めるのも・・・・・・・・


 「おい、ヤン。あんまり俺達の旗持ちを虐めないでくれよ」


 虐めて良いのは俺達だけが持つ特権だとアフォンソは言い、それにテレサは憤慨したがヤンはクスリと笑った。


 「確かに、そうだな。では戯れるのは止めにして・・・・アンドーラ宰相からの命令を伝えるとしよう」


 ヤンは鎧の下から一枚の紙を取り出すとアフォンソ達に蝋が押された刻印を見せた。


 その刻印は帝国宰相だけが持つ国旗を描いた物だった。


 刻印を見せてからヤンは蝋の部分を外して静かに手紙の内容を読み上げた。


 「聖白十字騎士団はシュガール騎士団と共同でオラクロを巡回した後に南北大陸へ向かえ」

 

 後はシュガール騎士団に引き継がせよと最後の文章をヤンが音読するとテレサは瞠目した。


 しかし2人の兄が送ってきた手紙から察したのか、首を深く下げた。


 「じゃあ・・・・一緒に回ろうぜ?」


 アフォンソはテレサの様子を流し目で見てからヤンに話し掛けた。


 もっとも既に知っていたが、それを全く悟られないように見せる辺り大した「役者」である。


 だがヤンもアフォンソに合わせる形で頷く辺り大した役者だ。


 「あぁ、行くとしよう。もっとも雨は勘弁だ」


 「さっき“ずぶ濡れ”になったばかりだからな。まぁ、こればかりは天気次第だろうぜ?」   


 ヤンとアフォンソの会話に野次馬と化したオラクロの民衆達は面白い見世物が出来たとばかりに小さく笑った。


 そして旅芸人一座はシュガール騎士団が暫くはオラクロに居る事を聞いて日数を延ばすか会話をし始めた。


 何せ聖白十字騎士団はオラクロに住む民衆達の守護者だが残りは教皇に雇われた私兵団だ。

    

 若しくはならず者で、どちらも自分達に害を与える存在だがシュガール騎士団が暫く滞在するなら・・・・・・・・


 その間は「平和」だと彼等は以前の一件から理解したのである。


 『血生臭い騎士団が抑止力になるんだから末期も良い所だよな?』


 アフォンソは民衆達の様子を見てから眼でヤンに語り掛けた。


 『力は振るう者の態度で正義にも悪にもなる。しかし、本当なら・・・・最終手段であるべきだがな』


 ヤンはアフォンソの皮肉に半ば諦観の気持ちを見せながら相槌を打った。


 『まぁな。だが、この国は徳で統治するなんて高尚な統治は出来ないのさ』   


 だから早いところ縁を切れとアフォンソは助言し、ヤンは分かっていると鷹揚に頷いた。


 そして2人はオラクロの巡回を始めた。

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 聖白十字騎士団とシュガール騎士団が共同でオラクロを巡回しているという情報は瞬く間に広がったのだろう。


 何時もなら我が物顔で闊歩するならず者達の姿は見えない。

 

 代わりに何時もなら虐げられている民衆達が今は闊歩している。


 もっとも・・・・それが普通だとアフォンソは愛馬の上から見ながら思った。


 しかし・・・・・・・・


 『狐の事だ。こいつ等がどうなろうと知った事じゃねぇだろうな』


 実際にオラクロの現状を鑑みれば教会は手を打つべきだが、それをしないのが良い証拠とアフォンソは思った。


 かといってアンドーラ宰相に言った所で遠回しに教会に制肘を打つのが関の山だろう。

  

 しかも制肘した部分を噛まれる恐れすらある。

  

 ここをアンドーラ宰相は無用な争いになると考えているから指を銜えているだけに徹しているのだ。

 

 如何にも謀臣として先代皇帝に仕えたアンドーラ宰相らしいとアフォンソは見ていた。


 また今、下手に騒げば火種が一気に燃え広がるのも事実だ。


 とはいえ・・・・・・・・


 『一度でも燃え始めた火種は・・・・簡単に消えやしねぇ』


 そして火消しをしたい人間は残念ながら一部で、大部分は燃え上がらせたいと考えている。


 その中に皇帝の子息女も居るからアンドーラ宰相達が頭を悩ませているのも頷ける。


 しかし、こうなれば行き着く所まで行くだろうとアフォンソは思った。


 もっとも愛国心が無い自分には祖国がどうなろうと関係ないと思った時である。


 「おい、三無騎士」


 前方から渾名を呼ばれアフォンソは前を見た。


 前には行く手を阻むように武装した集団が居り、殺気立った眼でこちらを睨んでいる。


 その中でも先頭に立つ男はアフォンソを八つ裂きにするような強い殺気立った眼で睨んでいた。


 「誰だ?」


 アフォンソは挑発するように姓名を尋ねたが実際は姓名を知っていた。

  

 それを男は解っていたのか・・・・・・・・


 ギリッと歯軋りした。


 「おいおい、そんなに怒るなよ?」

  

 俺なりの挨拶なんだぞとアフォンソは言うが、それすら男には我慢できないのだろう。


 「相変わらず胸糞悪い挨拶だな?三無騎士」


 「女には言われないが男にはよく言われる。で・・・・どういう訳で道を塞いでいるんだ?」


 巡回の邪魔だとアフォンソが言えば男は鉄で出来た歯を見せて笑った。


 「てめぇ等を邪魔しろと命じられたのさ。もっとも・・・・(ばら)しても良いと言われているからな」


 遠慮なんてしないと男は言い、腰に吊したロングソードへ手を走らせる。


 しかしアフォンソはそれより早くマントを翻した。


 マントが再び元に戻るとアフォンソの手にはストックを切り短くした2連発式のクロスボウが握られていた。


 鏃は男の心臓を真っ直ぐ貫かんとばかりに向けられている。


 「てめぇ・・・・・・・・」


 「悪いが急いでいるんでね・・・・道を開けろ」


 クロスボウを男に向けながらアフォンソはドスを利かせた声で宣告した。


 「もし退くのが嫌なら・・・・狐の皮を剥ぐ前にてめぇの皮を頭から剥ぐぞ」


 教皇の汚れ役専門騎士団として悪名を馳せている・・・・・・・・


 「”聖マリアンヌ騎士修道会”総長ラミーロ・ブレイ様よ」

  

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