第四章:血に飢えた援軍
アフォンソ達は巡回を滞りなく行ったが、警戒の糸は決して緩めようとはしなかった。
いや、寧ろ教皇の住居から徐々に遠ざかって行くので余計に張り詰めさせる。
何せディオース・シーティオを軸に築かれたオラクロは一日で巡回できないほど広大だからだ。
故にアフォンソ達は巡回する際は各地区に在る教会で寝泊まりする事が基本となっている。
勿論そうする事で無言の圧力を掛ける面もあるが・・・・・・・・
『あの老狐が・・・・いやらしい手を使いやがる』
アフォンソは旅芸人一座の芸を見てはしゃぐテレサを尻目に教皇の術を罵った。
直ぐにアフォンソとしては船に乗り南北大陸に行きたかったが、それを行えば教会側がここぞとばかりにアフォンソ達を叩くのは目に見えている。
もっとも大した痛みではないので王室としても気にするていどではない。
だが・・・・テレサが好きな旅芸人一座が来る日はオラクロで盛大に祭りが行われる数日前と決まっている。
もし、そんな祭りが行われる数日前に事件等が起これば必然とアフォンソ達は職務怠慢と叩かれる。
それは即ちアフォンソ達を派遣した王室側にも矛先が向かう。
これだけは何としてでも避けないと王室の地位が今以上に失墜しかねないとアンドーラ宰相は危惧したのである。
『たくっ・・・・この国は内外ともに問題を増やし過ぎなんだよっ』
アフォンソは心中で現王室が抱える問題を罵った。
しかも、その問題の大半が色恋沙汰か、領土欲に偏っているから憤りは増すばかりだ。
「若頭、そんな怖い顔をするとテレサ嬢が怯えますよ?」
自分付きの従者が小声で忠告してきてアフォンソはクッと笑った。
「そいつはすまねぇな。だが・・・・怒りたくもなるぜ」
「気持ちは解りますがねぇ。まぁ戦いの原因なんて結局の所・・・・人間の欲がぶつかり合うのが相場です」
そして自分達は戦う身だと従者は言った。
「しかも欲望を満たそうとする奴等に代わって俺達は戦うんです」
ここで自分を納得させる事が大事と従者は説いた。
「一つは素直に承知する事。その次に・・・・まぁ承知する旨とは裏腹に自分の欲望も満たす位の気持ちを持たないと生きていけませんよ?」
「確かにな・・・・その点で言うならこれから来る”あいつ等”は良い手本だな」
アフォンソは現皇帝が抱える「3騎士団」の1つに数えられている騎士団の面々を頭に浮かべた。
彼の騎士団は巷では「吸血騎士団」、或いは「皆殺し騎士団」なんて渾名を頂戴するほど血に飢えた狼の群れと言われている。
実際のところ彼の騎士団は常に血を流し、そして血を吸い続けている。
敵はおろか・・・・味方の血すら・・・・
だが、騎士団としての実力は極めて高い。
また無暗な殺生は好まないなど彼等なりの筋道を持っているのが教皇の私兵団とは絶対的に違う。
そして彼等が血に飢えた狼の群れと忌み嫌われながらも戦い続けている理由もアフォンソは知っているため好意的な気持ちを抱いている。
それは従者の言った台詞を・・・・彼の騎士団は素直に受け止めているからだ。
従者は騎士団などを欲望を満たす人間の代わりに戦う存在と称したが実際の話・・・・間違いではない。
ただ欲望を満たす為では余りにも露骨すぎるから大体は「大義名分」というマントで実態を隠している。
しかし、その大義名分では自分の気持ちを整理できない人間も居る。
それこそアフォンソは大義名分で自分を納得させる事なんて出来ない。
ここを従者は自分の欲望も満たせと言った。
確かにそうだ。
自分達は代理人として戦うが、その過程で自分達の欲望を満たしても良い。
もっとも侵略した婦女子に乱暴したり、男や老人を遊び半分で嬲り殺すような「悪趣味」は持ち合わせていない。
自分達が求めている欲望は・・・・・・・・
「若頭、背後から怪しい奴等が来ました」
アフォンソの横から中堅クラスの騎士が現れ小声で話し掛けてきた。
「どうせ糞狐の差し金だろうな。数は?」
アフォンソはテレサを見ながら問い掛けた。
「ざっと200人って所です。それなりに場数を踏んだ奴等と見えますが・・・・どうします?」
ここはオラクロの中で、しかも民草が多くいる大通りに当たるから下手に戦えば・・・・・・・・
「・・・・半分はここに残って周辺を警備しろ。残りは俺と来い」
糞狐の血で今回の悪巧みは洗い流すがとアフォンソは前置きしてから・・・・言葉を発した。
「ここでも・・・・ちょいと”掃除”をする」
『御意』
アフォンソの言葉に騎士と従者は頷いた。
「よし、じゃあ・・・・・・・・」
直ぐに分かれろとアフォンソは言おうとしたが、後方から流れてきた血の臭いを嗅いで嘆息した。
「やれやれ・・・・御預けにはなれているが・・・・野郎に御預けされると嫌になるぜ」
その言葉に騎士と従者は背後を見て「同感」と頷かずにはいられなかった。
それは・・・・・・・・
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アフォンソは手勢500人を連れて血の臭いがした場所へ向かったが到着した頃には辺り一面・・・・血の海だった。
部下が言った通り血の海に沈んでいる人間は教皇の私兵団だった。
しかも、かなり腕の立つ方だった私兵団だから如何にアフォンソ達をアラクロに釘付けさせたいか解る。
もっとも全身を血で染めた男達を見ているとアフォンソはこう言いたくなった。
「戦う“相手”が悪かったな?同情するぜ」
言葉は心から発したが鎮魂の祈りは形式上だった。
それを見た男は静かにアフォンソに語り掛けた。
「相変わらず三無騎士は健在だな?」
「まぁな。しかし・・・・お前も変わらないな?」
「シュガール騎士団」総長・・・・・・・・
「ヤン・デ・ベルコフ様よ」
アフォンソが呼んだ名前にヤンは口端を上げた。
「ベルコフの姓で呼んでくれて嬉しいぞ」
大体の奴等は帝国から「押し付けられた」姓で呼ぶとヤンは愚痴を零した。
「それが帝国の人間だからな。まぁ何はともあれ元気そうだな?」
「お前も元気そうだで何よりだ。しかし・・・・今回は災難だな?」
ヤンは事切れている教皇の私兵団を冷たく見下ろしてからアフォンソに同情の声を掛けた。
「お前が来たから大した事じゃない。もっとも・・・・お前の方はどうだ?」
「大した問題はない。“あの方”も勢力を持ち直し始めたからな」
再び炎は燃え上がったとヤンは語った。
「やれやれ・・・・あいつも頑張るな?女運は俺と違って恵まれないが」
「仕方ない事だ。しかし・・・・あの方は例え我が身を犠牲にしても“悲願”を達成させる」
その点は三無騎士とは違うとヤンが皮肉を込めて言うとアフォンソは肩を落とした。
「生憎と俺は自分の事で精一杯なんだよ。まぁ・・・・今回は頼む」
アフォンソが真剣な表情を浮かべ軽く頭を下げるとヤンは笑った。
その笑みはシュガール騎士団総長として恐れられている男とは思えない程の幼さが残る笑みだった。
しかし側に居たシュガール騎士団の団員達は総長が目の前の三無騎士を本当に友と見ているからと知っている。
またアフォンソの部下達も三無騎士なんて渾名されているが生来は真面目な性格をアフォンソは出したと知っている。
だから端からは奇妙な眼差しで見られている2人を黙って見る事に徹した。
ただ、それを壊すように教皇の私兵団は来たから何とも無粋だ。
「どれ、ちょいと以前と同じく“カード”でもやるか?」
アフォンソは私兵団が来る方角を見てヤンに問い掛けた。
「良いだろう。賭け金は?」
「50万でどうだ?」
「よし、乗った」
2人は会話を打ち切ると自分の部下から一人選んで教皇の私兵団を倒せと命じた。
時間は30分だと2人が言うと、2人の部下は私兵団が現れるや攻撃を始めた。
それをアフォンソとヤンは見ながら互いに持って来た酒の入った皮袋を交換し合い飲み合った。




